6話 不思議に思う最強勇者
「ふぅ、大変な目にあった……」
風呂から上がり、部屋のベッドで横になりながらため息を吐く隼人。
まさか義理とはいえ母親があのような行為に出るとは……。
おまけに、美雪は歳を感じさせないくらいに見た目は若々しく、極上の美人であるから余計に危険だ。
「少し喉が渇いたな、でも下に降りたら母さんがいるしな……」
風呂上りにそのまま二階の自分の部屋に来たものだから、風呂上りに水を飲む暇もなかった。
しかし、リビングに行けば美雪がいることだろう。
とりあえず今日のうちは会わないでおいた方がいい気がして、隼人はどうすべきか迷う。
そんなタイミングであった……
コンコンコンっ――
……隼人の部屋の扉から、ノック音が響く。
(ま、まさか母さんか!?)
思わず身構える隼人。
そのまま緊張した面持ちで扉に近づき、ゆっくりとドアを開ける。
「隼人くん、お茶を入れたんだけど、よかったらどう?」
そんな言葉とともに現れたのは春菜だった。
「……姉さん、ありがとう。いただくよ」
よかった、母さんじゃなかった……。
ほっとした表情で、隼人は春菜を部屋に入れる。
部屋に入れや理由は、春菜がお盆の上にお茶を二つ用意してきたからだ。
「あ、隼人くんの部屋ってこんな風になってたんだ。結構シンプルなんだね」
そう言いながら、部屋の中を見渡す春菜。
彼女の言うとおり、隼人の部屋にはベッドと机以外はほとんど物が置いておらず、かなりシンプル……もっと言えば殺風景なのだ。
「そういえば、姉さんも夏実もここには入ったことはなかったね」
隼人は引きこもりだった上に、新しくできた家族である春菜たちを拒絶していたので、彼女たちが彼の部屋に入ったことがないのは当然である。
過去の自分の不甲斐なさに、隼人は小さく苦笑してしまう。
「男の子の部屋って、こんな感じなんだ……」
隼人のベッドに座りながら、少々所在なさげで呟く春菜。
どうやら異性の部屋にお邪魔するのは初めてだったようだ。
「意外だね、姉さんは可愛くてモテそうなのに」
「そ、そうかな? そんなこと言ったら隼人くんだって……」
何気ない隼人の言葉に、何やらごにょごにょと呟く春菜。
その頬はほんのりピンク色に染まっている。
(どうしたんだろう、姉さん……?)
頬を染め、もじもじしだした春菜を見て、隼人が不思議そうに首を傾げる。
異世界を救った最強の勇者も、その辺に関してはまだまだ年相応な少年そのものだ。
まぁ、仕方あるまい。
異世界で二年過ごしたとはいえ、そのほとんどを戦いに明け暮れていたのだから。
「と、ところで――ごめんね、隼人くん。母さんがあんなことをしてしまって……」
申し訳なさそうに頭を下げる春菜。
なるほど。どうやら風呂での一件を、美雪の娘としてしっかりと謝りにきたらしい。
「大丈夫だよ、姉さん。酔ってやったことだし、それに母さんは親子の絆を深めたいとも言ってたから、お酒でその気持ちが昂ぶっちゃっただけだと思うんだ」
春菜の謝罪に、そんな風に返す隼人。
美雪の心を理解しようとする、それと同時に、そうであってほしいとう願望を込めての言葉だ。
「もう……、隼人くんは優しいんだね」
隼人の言葉を聞き、春菜は少し呆れた様子だ。
しかし、それでいてどこかほっとした様子でもある。
「そういえば、母さんはどうしてるの?」
「お風呂から出たあと、そのまま部屋に行ってぐっすり眠っちゃったよ。やっぱりかなり酔ってたみたい」
隼人の質問に、お茶を飲みながらそんな風に返す春菜。
それを聞き、隼人は少し安心する。
やっぱり酔っていたからこその暴走だったんだと。
「今度からは何かお祝い事があっても、お酒は飲ませすぎないようにしないとね」
「ふふふ、ほんとだね」
もう懲り懲り……そんな様子で、隼人と春菜は苦笑し合う。
「ところで隼人くん、今日はお姉ちゃんと一緒に寝ない?」
「…………は?」
「……ふふっ、冗談だよ。おやすみ、隼人くん♪」
隼人の間の抜けた反応にそんな風に返すと、春菜は部屋をあとにする。
(姉さんめ、からかったな……)
ようやくそれを理解した隼人が苦笑する。
しかし、それと同時にとある違和感に気づく。
隼人の反応の見た春菜の言葉、その前に奇妙な間があったような……と――。
「まさか、ね……」
実は本気で一緒に寝ようと思っていたのではないか。
頭に浮かぶそんな考えを、隼人は気のせいだと思うことにする。
◆
同時刻、隼人の部屋の前にて――
(お、思ったよりも緊張したなぁ……。それに隼人くんも鈍感だから、うまくいかなかったし……)
――心のうちで、そんなことを思う春菜。
その頬は先ほどよりも、真っ赤に染まっていた。
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