5話 恐怖する最強勇者
「ふふっ、じゃあ私も体洗っちゃうわね♡」
驚愕し、目を見開く隼人に笑いかけながら美雪がバスタオルを脱ごうとする。
「うわぁぁぁぁ!? な、何やってるんだ母さん!」
思わず湯船から立ち上がる隼人。
どういう状況なのかよく飲み込めてないが、これはまずい!
そう判断して風呂場から出ようとする……のだが――
「あん、だめよ? 隼人くん、ママと一緒に親子の絆を深めるのよ♡」
そんな言葉とともに、隼人の後ろから美雪が抱きついてきた。
「ひえっ!?」
突然襲ってきた柔らかな感触に、思わず情けない声を漏らす隼人。
そんな隼人の反応に、美雪が「ふふふっ、可愛い声ね、食べちゃいたい……♡♡」と、隼人の耳元で囁く。
「か、母さん! いったい何を!?」
「ダメよ、母さんじゃなくて、ママって呼んで? その方が興奮するわ♡」
「いや知るか!」
美雪の言葉に、鋭く返しつつ隼人は考える。
いつもの美雪と様子が違う。
世話焼きな義母ではあったが、ここまでスキンシップしてくるようなことは今までなかった。
何か原因があるとすれば――
(あ、お酒か……!)
――隼人は確信する。
美雪が嬉しそうにしてくれるものだから、隼人はついついワインのおかわりを勧めてしまった。
それで美雪は酔っ払い、このような暴走を起こしているのだと。
「ふふふっ、隼人くん何を考えているの……?」
思考の海に沈む隼人の耳に、そんな声とともに美雪が「ふーー……っ」と、息を吹きつけてくる。
「いやぁぁぁぁ!? 誰か男の人呼んでぇぇぇぇ!!」
このままでは喰われる!
そんな恐怖のあまり、隼人が精一杯の声で叫ぶ。
勇者の力を使えば美雪を無力化させることは造作もない。
しかし自分の身内にスキルや威圧を放つことは、勇者としても一人の息子としても憚れる。
おまけに、今は義理とはいえ母という存在に女を感じさせられるという背徳的な出来事に、隼人は軽くパニックだ。
異世界で魔族の軍勢をバッタバッタと剣や魔法で薙ぎ払った最強の勇者も、こうなってしまっては形なしである。
そんなタイミングであった――
「隼人くん、どうしたの!?」
「いったい何の騒ぎ!?」
――ドタドタという足音とともに、春菜と夏実が風呂場に駆けつけた。
「姉さん! 夏実! 助けて……!!」
必死の思いで二人に手を伸ばす隼人。
「か、母さん!? 何やってるの!」
「まさか兄さんを襲ったの!?」
後ろから隼人に絡みつく美雪を見て、春菜と夏実が「驚愕!」といった様子で叫ぶ。
「あらあら、見つかっちゃったわね♪ 隼人くん、続きはまた今度しましょうね……♡」
娘たちに見つかるや否や、美雪は隼人の拘束を解き、そんな言葉とともに風呂場から立ち去る。
その際に、隼人へ獲物を見るような瞳を向け、舌舐めずりをするのであった。
「た、助かった……。ありがとう、二人とも……」
腰にバスタオルを巻きながら、隼人は春菜たちに感謝の言葉を伝える。
「母さん、酒癖が悪いとは思ってたけど……」
「まさかここまでだったなんてね……」
美雪の酒による暴走を見て、呆れたように言葉を漏らす春菜と夏実。
二人は母の暴走行為を、改めて隼人に謝罪し、その場を後にする。
「でも、本当にお酒の勢いだけだったのかな……?」
「ちょっと姉さん、怖いこと言わないでよ!」
風呂場から立ち去る春菜と夏実の、そんなやり取りが隼人の耳に聞こえてきた。
「頼む、お酒の勢いで暴走しただけであってくれ……」
風呂場の天井を見上げながら、隼人は疲れた表情で呟く。
まさか異世界のモンスターよりも手強い存在が地球に存在するとは……。
それがまさか自分の義母だとは、思いもよらなかった……。
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