39話 最強勇者と大胆ママ再び
「あ、どうやら今の敵で最後だったようですね」
そう言いながら、周囲を見渡す竜児。
いつものように空間が歪み始めたのだ。
歪みが奔流へと変わり、隼人たちは元いた路地裏へと戻ってくる。
と、ここで、アリスがとあることに気づく。
「あ……隼人の力、消えてしまいましたね……」
胸に抱いたマシンガンを残念そうに見つめている。
隼人に与えられた加護による、漆黒の光が消えていたのだ。
「ある程度時間が経つと付与が解除される仕組みなんです」
「え〜! そうなの〜!?」
「……むぅ、残念……」
隼人の言葉を聞き、唯も可奈も本当に残念そうに声を漏らす。
力を与えられたことがよほど嬉しかったようだ。
「戦闘の際にはまた力を付与しますので、大丈夫ですよ」
悲しそうな表情を浮かべるアリスたちに、隼人は苦笑しながらそんな言葉をかけてやるのだった。
「さて、今日は他に特異点――ダンジョンが出現することはなさそうなので、これにて戦闘は終了です。私たちは拠点に戻って報告を上げますが、隼人たちはどうしますか?」
「アリスさん、今日のところは帰らせてもらいます。明日は朝から予定があるので」
「そうですか……了解しました。気をつけて帰ってください」
隼人の言葉を聞くと少し寂しげな表情を浮かべ、アリスは隼人と竜児を見送る。
◆
翌朝――
「……さて、出かける準備をするか」
隼人はベッドから起き上がると、おもむろに出かける準備を始める。
今日は朝から春菜たち三人とショッピングモールに出かける約束だ。
春菜の話によると水着を一緒に選んでほしいとのことだったので、男の隼人としては何とも微妙な気持ちだ。
春菜たちがそこまで心を開いてくれていることは嬉しいが、周りの女性客からの視線を考えるとさすがに気まずいのだ。
適当に着替えを済ませ、リビングへと降りる隼人。
すると――
「おはよう、隼人くん♪」
上機嫌な声で、美雪が隼人を出迎える。
普段から美しい彼女だが、今日はいつにも増しておめかしをしている。
「お……おはよう、母さん。ずいぶんと気合が入ってるね」
「もちろんよ、だって隼人くんと初めてのデートだもの♡」
――デート!? だとう!?
美雪の言葉を聞き、度肝を抜かれる隼人。
そんなタイミングで……
「ちょっと母さん! なに抜けがけしようとしてるの!」
「デ、デートとか言わないでよ、緊張するじゃない……」
などと言いながら、春菜と夏実がリビングに降りてくる。
彼女たちの方を振り返る隼人。
やはりと言うべきか、春菜も気合を入れておめかしをしている。
こちらは意外と言うべきか、夏実も可愛らしい……それでいて彼女らしい服装でオシャレをいている。
よく見ると、三人とも昨日隼人にもらったブレスレットの色に合う服装にまとめているようだ。
「ほんと、みんなモデルでもないのに綺麗だよなぁ……」
三人のおめかしした姿を改めて見て、思わずそんな言葉を呟く隼人。
すると――
「や、やだ……隼人くんってば!」
「やっぱり兄さ――隼人さんはタラシ……」
春菜は少々恥ずかしげに声を上げ、夏実も顔を真っ赤にしながら小声でそんなことを言う。
そんな二人に続き、美雪が――
「ふふっ、愛しい息子にそんなこと言ってもらえるなんて……ママは嬉しいわ♡」
などと言いながら、隼人に近づくと彼を優しく抱きしめてしまう。
「ちょ、母さ――うむぅ……!?」
美雪の豊かな胸に顔を埋もれさせられ、隼人はくぐもった声を漏らす。
そんな隼人を、美雪は獲物を見るような目で見つめ、自分の唇を軽く舐める。
「あーっ! 母さん何やってるの!」
「えっちぃのは禁止!!」
何やらヤバそうな雰囲気を放つ美雪を、春菜と夏実は力づくで引き離すのだった。