38話 最強勇者の加護
「《黒ノ纏炎》――」
右手を突き出しながら、その名を紡ぐ隼人。
するとアリスたちの武器が、漆黒色の陽炎のようなものを纏う。
「こ、これは……!?」
「……凄まじいパワーを感じる」
「でも、なんだか安心するような温かさも感じるような?」
アリスたち三人が、それぞれ驚いた様子で自身の武器を見つめている。
「アリスさんたちの武器に、一時的にですがぼくの力を付与しました。いつも通りに戦ってみてください」
「なるほど、了解しました。隼人」
「……どんな力か、楽しみ」
「暴れちゃうよ〜!」
隼人の言葉にそれぞれ頷くと、アリス、可奈、唯の三人がその場を飛び出す。
手始めにライフルで射撃するアリス。
パァンッ!! という音とともに、弾丸がオークの土手っ腹に着弾した……次の瞬間だった。
『ブ、ブモォ……ッ!?』
苦しげな声を漏らしながら、その場に跪くオーク。
もはや立ち上がる気力すらない……そんな様子だ。
「い、十六夜さん! アレは一体何が起きているんですか!?」
「竜児、ぼくはアリスさんたちの武器に〝闇魔力〟を付与したんだ」
「闇魔力……たしか、十六夜さんが使うことができる特殊な属性の魔力って、前に言ってましたよね?」
「そうだ。そして闇魔力の特性の一つに、相手の生命力を〝奪う〟という効果がある。つまり、オークは闇魔力を付与した弾丸を喰らったことで、純粋なダメージとは別に生命力そのものを奪われ戦闘不能になったんだ」
「え、エゲツない属性ですね。闇魔力……ッ!」
隼人の説明に、顔を引き攣らせながらも興奮する竜児。
そんな二人の会話を聞いていたアリスたちが――
「そういうことですか」
「……隼人さんの力、頼もしい」
「よ〜し! そうとわかればやっちゃうよ〜!」
と、こちらも興奮した様子を見せる。
「喰らえ〜っっ!」
そう言って、唯がショットガンを手にもう一体のオークへと近づく。
オークは、何が起きているかわからないが、このままではマズイ! と判断し、その場でバックステップして距離を置こうとする……が、それと同時に唯の持つショットガンが火を噴く。
ドパンッッ!!
凄まじい音ともに、銃口から漆黒色の散弾が撒き散らされる。
闇魔力を纏った攻撃を全身に浴び、『ブバァァァァァァァァ――ッッ!?』と悲鳴をあげ、オークはその場に崩れ落ちた。
「やった〜! この距離から撃っても一撃だよ〜!」
「……むぅ、私も隼人さんに与えてもらった力を試したかったのに……」
凄まじい力を体感し大喜びする唯。
そんな彼女の横で、可奈が不満げに声を漏らす。
「まさか、自身が強いだけではなく、このような芸当もできるなんて……隼人、あなたは本当にすごいのですね」
先ほどのオークにトドメを刺したアリスが、隼人の力が宿ったライフルを大事そうに抱きしめながら彼を見つめる。
そんな中、隼人の後ろから竜児が――
「(あ〜あ、隼人さん。コレは完全に落としましたねっ!)」
などと小声で囃し立ててくる。
「(は!? え、コレってそういうことなのか!?)」
竜児の言葉に、ようやくアリスの反応にそういった可能性が含まれているかもしれないことに隼人は気づき、慌てた様子を見せる。
「あれ、隼人くんって……」
「……かなりの朴念仁……?」
一連の流れをさりげなく見ていた唯と可奈が、呆れた様子でやり取りを交わしている。
まさか、隊長――アリスの好意にすら気づいていなかったとは……と、若干引いている様子だ。
(……むぅ、このままだと……)
(私の気持ちにも気づいてもらえないかな〜?)
などと、二人は考えるのであった。