34話 最強勇者からの贈り物
早苗たちとのミーティングを終え、隼人は家へと帰ってきた。
「おかえりなさい、隼人くん♪ ずいぶん遅かったのね?」
「ただいま、母さん。ちょっと友達と遊んでたんだ」
「あらあら、お友だちができたのね。ママは嬉しいわ♪」
隼人の言葉に、言葉通り嬉しそうな表情を浮かべる美雪。
実際には武装組織と危険な会合を行っていた……などと言えるはずもなく、軽く嘘をついたのだが……深雪が嬉しそうにしているのだからそれでいいだろう。
「お昼はまだ食べてないわよね?」
「うん、まだだよ」
「それなら少し待ってて、すぐに用意するから♪」
そう言って、上機嫌な様子でキッチンに向かう美雪。
彼女が昼食を用意してくれている間に、隼人はリビングのテーブルで宿題を済ませることにする。
モンスター退治も大事だが、隼人にとっては日常生活も大事だ。なので、学校の授業や宿題なども真面目に取り組むのだ。
要領のいい隼人は宿題をあっという間に終え、深雪が用意してくれたパスタとサラダにありつく。
「美味しいよ、母さん」
「ふふっ、よかったわ」
もりもりと朝食を口に運ぶ隼人を見て、優しい微笑みを浮かべる美雪。血は繋がっていないとはいえ、その姿は本当の母と息子のようだ。
(母さんたちの笑顔を守るためにも、頑張らないとな)
隼人は心の中で、改めてこの世界でも戦うことを決意する。
大切な笑顔、それを守るために。
◆
数十分後、隼人の自室にて――
「さて、約束していた〝アレ〟に取りかかるとしよう」
そう言って、隼人は次元の狭間から美しい鉱石の数々を取り出す。
前に美雪たちにプレゼントする約束をしていたアクセサリーを作るのだ。
春菜からの提案で、明日は朝から三人とショッピングモールに行くことになっている。せっかくのお出かけなので、それに合わせてプレゼントしようというわけだ。
「とりあえず、三人ともピアスはしないみたいだし、かといって指輪をあげるのもどうかと思うし……やっぱりブレスレットかな?」
数々の鉱石を吟味しながら、彼女たちへのプレゼントの構想を思い浮かべる隼人。
彼は観察力が優れているので、三人の腕のサイズも大体把握済みだ。万一サイズが合わなくても魔法で微調整してくるようにすれば問題なしである。
「よし、まずは母さんのからかな?」
いくつかの鉱石を手に取って、隼人は魔法を発動する――。
◆
夕刻――
「隼人くん、ご飯できたみたいだよ」
ドアをノックする音とともに、春菜のそんな声が聞こえてくる。
「ありがとう、今行くよ」
と答え、春菜が階段を降りていく音を聞きながら、お手製のジュエリーボックスを三つ携えて部屋を出る隼人。
「みんなお待たせ、約束してたものが出来上がったよ」
そう言って、リビングのテーブルの上にジュエリーボックスを置く隼人。
「あらあら、前にプレゼントしてくれるって言ってたものかしら?」
「わ〜! どんな感じなんだろう?」
「なんか、すごく高そうな箱だけど……」
パッと表情を輝かせる美雪と春菜。、逆に夏実はあまりに美しい装飾が施されたジュエリーボックスを目の当たりにして少々引きつった表情を浮かべている。
「母さん、姉さん、それに夏実をそれぞれイメージして作ってみたから、開けてみてよ」
そう言って、彼女たちにジュエリーボックスを手渡す隼人。
「まぁ! なんて綺麗なブレスレットなの♡」
中を開け、思うわずうっとりした表情を浮かべる美雪。
「え、箱もそうだけど、隼人くんってこんなに精巧なアクセサリーを作れるの!?」
「すごく、綺麗……」
あまりに繊細な作りのブレスレットに、思わず驚きの声をあげる春菜と、感嘆の声を漏らす夏実。
隼人は彼女たちに、白銀をベースにしたブレスレットを用意した。その中でもそれぞれ違いがあり、美雪にはアメジストヴァイオレットの、春菜にはエメラルドグリーンの、そして夏実にはルビーレッドの輝きを放つ鉱石を埋め込んだものだ。
「ねぇ、隼人くん、付けてもらってもいいかしら?」
甘えた表情で、ねだってくる美雪。
隼人は苦笑しながらも、彼女の左腕にブレスレットをはめてみせる。
「はぁ、なんて綺麗なブレスレットなの……♡」
改めてブレスレットに見惚れる美雪。
すると春菜が「母さんだけずるーい!」と言って、自分の腕にもはめてほしいと隼人にねだってくる。
もちろん、隼人はそれに応える。美雪同様に、春菜もうっとりとした表情で自分の腕にはまったブレスレットを見つめている。
そんな中――
「……私も」
そんな声とともに、夏実が隼人の袖をクイっと引っ張ってきた。
内心で(えっ?)と驚きながらも、夏実の方を振り返る隼人。
すると、夏実は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、隼人にブレスレットを差し出していた。
「ああ、もちろんだよ。夏実」
優しい声でそう答えると、隼人は彼女の腕にもブレスレットをはめてやる。
隼人に腕を触られ、さらに顔を真っ赤にしていく夏実。
そんな彼女を見て、美雪と春菜が「あらあら〜」「ふふっ、少しは素直に慣れてきたのかな?」などと呟いている。
「ありがとう、兄さ――隼人さん……」
嬉しそうな、それでいたやっぱり恥ずかしそうな表情で、夏実は珍しく感謝の言葉を口にするのだった。