3話 戸惑う最強勇者
「なぁ、十六夜! さっきのすごかったな!」
「不登校になったかと思ったら、あんなに強くなって戻ってきたからビックリしちゃった!」
「何か格闘技でもやってるの?」
朝のホームルームを終えたあと、隼人の席の周りにクラスメートが群がってくる。
隼人が涼しい顔で、竜崎たちを無力化した件について皆興味津々といった様子だ。
「いや、特に格闘技とかはやってないよ」
皆の反応に、少々苦笑しながら答える隼人。
彼らは隼人がイジメにあっている時も知らん顔を決め込んだ生徒たちだ。
それが急に歓迎ムードになれば、そんな反応も当然であろう。
しかし、隼人は彼らを拒むことをしない。
確かに思うところはあるかもしれないが、隼人は一つの世界を救済に導いた最強の勇者だ。
そんな彼からすれば、イジメにあっているのを無視された過去など、小さな出来事なのである。
それよりも、今は取り戻した日常を謳歌するのが優先なのだ。
その後、隼人は恙無く授業を受ける。
いきなり登校してきた隼人に、教員たちは驚いた様子を見せたりしたが、特に問題は起きなかった。
授業の四限目も終え、午後も頑張ろうとする隼人だったが――
「あれ? なんでみんな帰る準備を始めてるんだ?」
――と、隼人が不思議そうに首を傾げる。
「あははっ、隼人くんったら、今日は土曜日だから午前までしか授業はないよ?」
隼人の言葉に、隣の女子生徒が言う。
(ああ、そうか。ずっと異世界にいたから曜日の感覚なんてほとんど忘れてた……)
今日は土曜で、この学校が土曜日は授業が午前中までしかないことを、隼人は思い出すのであった。
であれば仕方ない。
もっと授業を楽しみたいところであったが、隼人も帰りのホームルームの準備を始める。
異世界にいた頃と違って、遊びに行けるようなお金も持ってないので、隼人は大人しく家に帰ることとする。
◆
「ただいま」
「お帰りなさい、隼人くん♪」
隼人が家に帰ってくると、美雪が上機嫌な様子で彼を出迎える。
昨日、彼に「母さん」と呼んでもらえたこと、そして再び彼が学校に通うことになってくれたのが、よほど嬉しいようだ。
「久しぶりの学校はどうだった?」
「ああ、そのことなんだけど……」
美雪に聞かれて、少々言い淀む隼人。
再登校初日で、竜崎たちを威嚇してしまったことを伝えるべきか悩んでいるのだ。
しかし、そんな時であった――
「ただいま! 隼人くんはいる!?」
――そんな声とともに、春菜が玄関の方から現れた。
どうやら走ってきた様子で、呼吸を荒くし、年齢にしては大きな胸を上下させている。
「な、なんで私まで……っ」
その後ろでは、夏実も呼吸を荒くしている。
どうやら春菜を追いかけて、彼女も家まで走ってきたようだ。
「えっと……どうしたの、姉さん?」
いったい何だろうと、春菜に問いかける隼人。
すると春菜は「隼人くんが「姉さん」って呼んでくれた!?」などと、少々驚いた様子をみせる。
しかし、すぐに後ろから夏実に小突かれ用件を思い出したようだ。
何やら隼人の瞳を覗き込み、「大丈夫? 怪我はない?」と心配そうに聞いてくる。
「えっと、どういうこと……?」
春菜の言葉に、またもや不思議そうに首を傾げる隼人。
いったい、目の前の義理姉は何を言っているのだろうかと……。
「帰りに後輩から聞いたの。朝のホームルームの前に、不良生徒に因縁を付けられた隼人くんが、その不良生徒たちを成敗しちゃったって!」
隼人の問いかけに、春菜はそんな風に答える。
(なるほど、朝の件が上級生たちにまで伝わったのか……)
と、隼人は察する。
隼人、春菜、夏実は同じ学校に通っており、それぞれ隼人が二年、春菜が三年、夏実が一年に属している。
春菜は朝の件を後輩から聞き、隼人が怪我などをしていないかどうか、心配になって急いで帰ってきたようだ。
「大丈夫だよ、姉さん。それよりもちょっとやりすぎちゃって、竜崎が、その……漏らして帰っちゃったんだ。そっちの方が心配で……」
春菜に聞かれたので、美雪に伝えようかどうか迷っていた出来事を伝える隼人。
「あっ、竜崎先輩がイジメの返り討ちに遭って漏らして帰ったって話、本当だったんだ……」
隼人の言葉を聞き、春菜の後ろで夏実が何やら呟いている。
どうやら朝の隼人の活躍は、下級生の間でも噂になっていたようだ。
「あらあら、隼人くんったら、本当は強い子だったのね?」
話を聞き終わったところで、美雪がそう言いながら隼人のことを抱きしめてくる。
「え? ちょっ……母さんっ!?」
美雪の柔らかな胸に顔を埋められ、くぐもった戸惑いの声を漏らす隼人。
しかし、美雪は隼人の頭にそっと手を置くと、優しい手つきで彼の頭を撫でる。
(自分の義理息子が勇気を出してイジメに立ち向かったのが嬉しい……って感じなのかな?)
美雪の胸に埋れながら、そんなことを考える隼人。
後ろの方から、「ママだけずるい!」という春菜の声や、「ちっ……」という、夏実の舌打ちのようなものが聞こえてきた気がするが……それがどういう意味なのか、隼人に知る由もない。
ちなみに、美雪が隼人の頭を撫でながら、何やら舌舐めずりをしているのだが……これも隼人の知らぬところである。
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