28話 パシリをさらに鍛えてみる最強勇者
その日の深夜――
隼人は路地裏に佇んでいた。
彼の目の前には時空の歪みが……
そう、またダンジョンへの入り口が現れたのだ。
「十六夜さん! お待たせしました!」
隼人がダンジョンの入り口を抉じ開けようとしたところに、竜児が息を切らしながらやってくる。
「いくぞ、竜児」
「はい! 十六夜さん!」
竜児の返事を聞くとともに、隼人は魔剣でダンジョンへの入り口を抉じ開ける。
隼人は慣れた様子で、竜児はまだおっかなびっくりといった様子でダンジョンの中へと入っていく。
「な、なんです? あの化け物は!」
ダンジョンに入ったところで、竜児が狼狽した声を漏らす。
その視線の先には、身長百八十センチほどの異形が佇んでいた。
「ヤツの名はホブゴブリン、ゴブリンの進化種だ。アレはぼくが倒すから竜児はそこで見てろ」
竜児にそう言い残し、隼人はその場を飛び出した。
『グギャ!?』
隼人のとんでもないスピードの前に、ホブゴブリンが驚いた声を漏らす。
ゴブリンの懐に飛び込むと、隼人はその土手っ腹にヤクザキックを叩き込む。
『グゲァァ――!?』
腹に走る激痛と衝撃に悶絶の声を上げながら、後方へと大きく吹き飛ばされるホブゴブリン。隼人はそれに追随し、今度は抉るようなパンチを叩き込む。
「す、すげぇ! 十六夜さん、武器を使わなくてもあんなに強いのかよ……!」
隼人の格闘術を目の当たりし、感嘆の声を漏らす竜児。
本来であれば、ホブゴブリン程度一撃で沈めることができるが、隼人はあえて素手で、さらに大幅に加減して戦うことで、竜児に徒手空拳での戦術をわかりやすく学習させているのだ。
『グ、グギャァァァァ!!』
隼人にボコボコにされながらもホブゴブリンは手にした斧を振り上げ、隼人に一撃を加えようとしてくる。
しかし、隼人はホブゴブリンの肩に掌底を叩き込むことで、攻撃を無効化する。
「さぁ、そろそろ終わりだ」
そう言って、先ほどよりも少しだけ強めに掌底を放つ隼人。
彼の掌がホブゴブリンの胸に当たり――ドパンッッ!! と凄まじい音が鳴り響く。
ホブゴブリンは『ゴフ……ッッ!?』と血反吐を吐き、その場に崩れ落ち……沈黙した。
「す、すげぇ……」
隼人の戦いぶりに、呆然と声を漏らす竜児。
隼人が強いことは重々承知だ。しかし、武器を使わずここまで戦えるとは正直思っていなかったのだ。
「む、ホブゴブリンを倒したのに元の場所に戻らない……ということは、まだ奥にモンスターが潜んでいるな」
そう言って、隼人は《黒次元ノ黒匣》でホブゴブリンの死体を回収すると、奥へと歩き始める。
「お、俺ももっと精進しねぇとな……!」
隼人の後ろ姿にキラキラした視線を送りながら、竜児は彼のあとを追うのであった。
◆
「……ゴブリンが十体か」
岩陰から先の方を覗き込みながら、隼人が呟く。
その視線の先には言葉通り十体のゴブリンが徘徊している。
「竜児、ぼくが八体を倒す。そのあと二体を相手にしてみろ」
「に、二体ですか!? ……わ、わかりました。やってみます……!」
一昨日、ゴブリン一体を倒すのがやっとだったのに……!
と、内心竜児は思うも、後ろに隼人がいてくれると思えば大丈夫。
そんな気持ちで、竜児は頷いてみせる。
「よし、とりあえずすぐに片付けてくる」
そう言って隼人はその場を飛び出すと、瞬く間にゴブリンどもの懐に飛び込みその場で半回転。魔剣による斬撃で五体のゴブリンの首を刎ね飛ばす。
『グギャ!?』
突然の出来事に残りのゴブリンが叫び声を上げるも、もう遅い。
隼人による斬撃で、追加で三体の首が宙を舞う。
「さぁ、竜児」
「わかりました!」
隼人の声にビク! と体を震わせながら、竜児がファイティングポーズを取り、残り二体のゴブリンに向かって駆け出す。