26話 やらかす最強勇者
その日の晩――
「《黒次元ノ黒匣》、発動」
夕飯を食べ終わり、自分の部屋へと戻ってきた隼人が収納魔法を発動する。
すると黒い霧とともに、色とりどりの美しい鉱石の数々が現れたではないか。
「よし、使うのはこのあたりでいいかな?」
そう言って、隼人は二つの鉱石を手に取る。
一つはサファイアブルーの鉱石、もう一つはの透明のダイヤを彷彿とさせる鉱石だ。
これらは異世界で採掘された、宝飾品に使われる珍しい鉱石なのだが、勇者であった隼人は旅の途中で大量に手に入れる機会があったので、記念に持ち帰ってきたのだ。
「あとは、この辺も必要か……」
そう言って、白銀色のこれまた美しい輝きを放つ鉱石を手に取る隼人。
それらを片手の上に乗せると、とある物をイメージしながら、こう呟く。
「《黒ノ融合変換錬成》――」
……と。
すると手のひらに乗った鉱石たちが黒い陽炎のようなものに包まれる。
そして漆黒色の光が放たれた――その直後だった。
隼人の手の上に、少しだけ大きさが小さくなった三つの鉱石と、白銀の金具に輝くサファイアブルーの鉱石が嵌められたピアスと、透明感がありつつも美しい光を放つ鉱石がはめられたピアスが一つずつ現れた。
闇魔法、《黒ノ融合変換錬成》――
その効果は、物質を融合し、頭に描いたイメージに変換錬成するというものである。
隼人は異世界の鉱石を使用し、自分のイメージしたデザインのピアスを錬成した。
そして余った分は、再び鉱石のままの姿で還元されたのである。
「うん、錬成系の魔法はそこまで得意じゃないけど上手くいったな」
出来上がった二つのピアスを見て、満足げに頷く隼人。
「あとはこれを入れる箱だな……」
そう言って、今度は別の鉱石を手に取り、再び黒ノ融合変換錬成を発動する。
すると、装飾が施された美しくも可愛らしいケースが出来上がったではないか。
中には留め具のついた部分があり、ピアスを固定できるようになっている。
この世界ではあまり見ないタイプのものだが、特には問題ないだろう。
最後にもう何か不備がないか確認すると、隼人は学園指定のカバンの中に、ケースごとピアスをしまうのであった。
◆
翌早朝――
(昨日はダンジョンが現れなかったな……)
そんなことを考えながら、リビングでテレビを眺める隼人。
昨晩は《黒ノ魔網恢々》に反応がなく、おかしく思い竜児を連れて深夜の街を歩き回ってみたのだが、モンスターはおろかダンジョンを見つけることができなかった。
こうしてテレビを眺めていても、変死体が見つかった……というような情報が流れてくることもない。
(まぁ、何もないに越したことはないか)
少し違和感を抱きつつも、隼人は学校へいく準備を始めるのだった。
◆
学校にて――
「十六夜先輩、おはようございます♪」
隼人が下駄箱で靴を履き替えていると、そんな声とともに沙織が近寄ってきた。
その手にはいつも通り可愛らしいデザインの弁当袋が握られている。
「おはよう、沙織さん。今日もありがとう」
弁当袋を差し出してくる沙織に礼を言いながら、それを受け取る隼人。
「あ、そうだ。ぼくからも沙織さんに渡したいものがあるんだ」
「え? 十六夜先輩が私にですか?」
隼人の言葉に、不思議そうに首を傾げる沙織。
そんな彼女に、隼人はカバンの中からと装飾の施された箱を取り出し、手渡す。
「す、すっごく綺麗な箱ですね……。十六夜先輩、これは?」
「とりあえず開けてみて」
隼人の返答に、「わかりましたっ」と言って、ドキドキした様子で箱を開ける沙織。
すると「わぁ! 綺麗なピアス!」と、興奮した様子で瞳を輝かせる。
そう、隼人が渡したのは昨日錬成したピアスだ。
「いつもお弁当作ってもらってるだけじゃ悪いし、それのお返しに受け取って」
「え? いいんですか!? なんだかすごく高そうな気がするのですが……」
「いいんだ、そこまで高いものじゃないから」
「う、嬉しいです……!」
そう言って、沙織はさっそく自分の付けていたピアスを外し、隼人にもらった異世界産鉱石で出来たピアスを付ける。
「うわぁ、とっても綺麗です!」
折りたたみ式の手鏡を使い、自分の耳元をみる沙織。
よっぽど嬉しかったのか、その頬はほんのりピンク色に染まっている。
(よかった、どうやら趣味に合ったみたいだな)
沙織の反応を見てほっとする隼人。
昨日彼女が付けていたピアスを見て、それと似た色の鉱石をチョイスして錬成したのは間違いなかったようだ。
「ありがとうございます、十六夜先輩! 一生大切にしますね♡」
そう言って、沙織は隼人にぎゅっと抱きついて、少しすると恥ずかしそうにその場を去っていった。
彼女の思わぬスキンシップに、隼人は苦笑すると自分もその場を去ろうとする……のだが――
「は、隼人くんが下級生の子に抱きつかれてた……!」
「しかも何かアクセサリーをプレゼントしてたよね!?」
などと、女子生徒たちがこそこそとやり取りしている声が聞こえてきた。
おまけにこっそり様子を窺ってたのか、下駄箱の影から竜児が出てきて「さすが十六夜さんだぜ! アレは完全に落ちましたよ! 痺れるぜ !憧れるぜぇぇぇ!!」などと、一人で盛り上がり始めた。
(ま、まずい! ただのお返しのつもりだったのに、とんでもない感じになってきた!?)
周りの反応に、ようやくそのことに気付く隼人。
せめて渡す場所と時間を変えるべきだったと後悔するのだが、時既に遅しである。