22話 戦う術を与える最強勇者
「さて竜児、お前って何か格闘技とかやってたんだっけ?」
沙織の作った弁当を食べ終わったところで、隼人が問いかける。
「一応ボクシングをやってます! 今はサボっちまってますが……」
なるほど、格闘経験者か。ならば……と、隼人は《黒次元ノ黒匣》から鈍色のガントレットを取り出す。
「十六夜さん、それは?」
「これは〝パワードソニック〟という名のマジックアイテムだ。とりあえず付けてみろ」
「了解です!」
ワクワクした様子でガントレット――パワードソニックを腕に嵌める竜児。
「なんだこれ!? 装備しただけでめちゃめちゃパワーが湧いてくる!」
幼い少年のように興奮した様子で声を上げる。
「試しに上に向かって拳を突き出してみろ」
「わかりました! ……せあッッ!!」
隼人の指示を聞き、竜崎がそんな掛け声とともに手に向かって拳を振るう。
するとどうだろうか、拳の先から青白い衝撃波のようなものが勢いよく飛び出したではないか。
「な、なんですか! 今の!?」
興奮、それと驚きが入り混じった声で隼人へと問いかける竜児。
「今のは魔力で生成された衝撃波だ。そのマジックアイテムは使用者の魔力を使用して筋力を増強し、さらに魔力衝撃波を放つことができるんだ」
「す、すげー……! でも、俺にこんなもの渡していいですか? もし俺が悪用なんてしたら……」
「安心しろ、モンスター以外に攻撃した場合、そのダメージは無効化されてお前に戻ってくるように弄っておいたから」
「り、了解です……」
さらっと怖い返答をする隼人に、竜崎は戦慄しながらも少し安心する。
もし魔が差して一般人にこの力を使うようなことがあれば……自分自身に、そんな危惧をしていたからだ。
しかし、隼人はそんな事態も想定済みであり、パワードソニックに魔法で仕掛けを施してある。
「それにしても……竜児、疲労感はないのか?」
「疲労感ですか? いや、特にはないですね」
「……そうか」
少し感心した様子で、隼人は頷く。
先ほど隼人が説明した通り、パワードソニックは使用者の魔力を消費してその効果を発揮する。
だというのに、竜児に消耗した様子はない。
それ即ち、竜児がかなりの量の魔力を持っているという証だ。
(ふむ、鍛え方次第では、思った以上に強くなるかもな……)
竜児の持つポテンシャルに、隼人は少しだけ期待に胸を膨らませるのだった。
「よし、次はこれだ」
おもむろに、次なるマジックアイテムを《黒次元ノ黒匣》から取り出す隼人。
パワードソニックと同じく、鈍色をしたプロテクターのようなものの数々だ。
「今度はどんなマジックアイテムですか?」
「これはマジックフィールドアーマーだ。効果は……まぁ付けてみろ」
「わかりました!」
胸や腕、肩にプロテクター――マジックフィールドアーマーを取り付ける竜児。
全てつけ終わったところで、隼人が拳を構える。
「え? ちょっ! 待ってくださいよ! 十六夜さんの拳なんて喰らったらシャレにならないですって!」
アタフタした様子で、竜児が後ずさるの……だが――隼人は容赦しない。
そのまま凄まじいスピードで竜児の土手っ腹に拳を叩き込む。
(こ、殺される!!)
隼人の放つ拳の圧力に死を覚悟する竜児。
しかし――
パァンッッ!!
――そんな音ともに、隼人の拳は竜児の前で阻まれた。
「こ、これは……?」
不思議そうに目の前を見つめる竜児。
彼の目の前には、半透明の障壁のようなものが発生していた。
「そのマジックアイテムにはある程度の物理攻撃と、下級魔法を防ぐ障壁を自動で生み出す効果があるんだ」
「な、なるほど、そういうことだったんですね……」
ほっとした様子で脱力する竜児。
その様子を見て、もっと精神力を鍛えてやらないとな……と隼人は思う。