2話 登校する最強勇者
翌朝――
「制服を着るのも久しぶりだな……」
学校の制服に身を包み、隼人は自室で小さく息を吐く。
異世界へ召喚される前だったら、嫌で嫌でしょうがなかった学校……。
しかし、いざ異世界で戦いに身を投じると、途端に恋しく感じるようになった。
ぼくはなんでイジメなんかに屈していたんだろう。あんな子どもの悪ふざけなんて相手にしなければよかったのに……。
何度そんなことを考えただろうか。
昨夜と同じく、リビングへ入り席に着く隼人。
彼のその行動に、美雪たち三人は驚いた表情を浮かべる。
隼人は家でも引きこもりだった。
食事はいつも美雪か春菜が部屋まで運んできてくれたものを一人で食べていたのだから、そんな反応も仕方ないかもしれない。
三人の反応に苦笑しながら、隼人はさっさと朝食をかき込むと、身支度をして少し早めに家を出るのだった。
◆
「お、おい、十六夜が来たぞ……」
「うっそ、まじかよ?」
「あれ? 少し雰囲気変わってない……?」
「ほんとだ、なんかカッコよくなってるような……」
早めに教室に着いた隼人。
やることもないので、席に座って教科書を読んで待っていると、そんな声が聞こえてくる。
見ればクラスの男子や女子が隼人を見て、ヒソヒソと会話を交わしている。
(あ~……どうしよっかな)
クラスメイトの様子に、隼人は声をかけようかどうか考える。
引きこもりだったヤツに、いきなり元気よく声をかけられても反応に困るだろう。
かといって、このままでは学生生活を謳歌するどころではない。
どう動くべきか、隼人が迷っているそんな時だった――
「あん? 十六夜じゃねーか! まさかまた登校してくるとはな!」
教室内に大声が響き渡った。
声のした――教室のドアの方を見れば、一人の少年が立っていた。
百八十センチはある背丈に、普段から筋トレでもしているのか、制服越しでも鍛えられていることがわかる肉体、髪は派手な茶髪に染め、耳にはジャラジャラとピアスがついている。
いかにも不良です、といった様相の少年だ。
(お、久しぶりだな、竜崎)
少年の姿を見て、隼人が心の中で呟く。
彼の名は竜崎竜児――
クラスメイトであると同時に、隼人をイジメていた主犯格だ。
「お、マジじゃん! また俺らにイジメられにきたんか?」
「また出てくるとかウケル~! 可愛がってあげるから覚悟してね!」
「十六夜っちの泣き顔、可愛いんだよね~☆」
そしてさらに、竜崎の後ろから三人の少年少女が現れる。
一人目の名は田中雄太――
竜崎と同じく隼人をイジメていた少年だ。
二人目は水野成美――
竜崎の恋人であり、これまた同じく隼人を虐げていた。
最後の一人は後藤茜――
竜崎と同じグループに属し、隼人の泣き顔が可愛いからと一緒になってイジメを行っていた少女だ。
皆、髪を染め、装飾品や化粧などをした派手な少年少女だ。
(…………?)
と、ここで、竜崎が不思議そうな表情をする。
理由は隼人の落ち着いた様子だ。
今までであれば、竜崎たちの顔を見た途端、隼人は怯えた様子を見せていた。
それがどういうことだろうか。今は動じるどころか薄っすらと笑みを浮かべている。
異世界の敵に比べれば、大した戦闘力も持っていない少年少女。
そんな彼らに怯えていた自分がおかしく思えてしまったのだ。
「――てめぇ、なに笑ってやがる……!」
隼人に笑われたこと、あるいは怯えた様子を見せなかったことが気に食わなかったようだ。
竜崎が苛立った様子で、ズカズカと隼人の席へと近づいてきた。
(あ~……とりえず無視するか)
今となっては恐くもなんともない竜崎にガン飛ばしに、隼人はどう反応していいかわからず、隼人は無視を決め込み視線を手元の教科書へと戻す。
「てめぇ!」
だが、それがいけなかった。
無視されたことに腹を立てた竜崎が、隼人に掴みかかろうと手を伸ばしてくる。
そして次の瞬間、周囲の生徒たちが「「「…………ッッ!?」」」と息を漏らした。
イキってもらう分には一向に構わないが、暴力に訴えてくるなら話は別だ。
隼人は軽やかに立ち上がると、竜崎の片腕を流れるような動作で捻りあげたのだ。
「いっ……いでぇぇぇぇぇぇ! は、離せ! 離しやがれ!」
一瞬何が起きたのか理解できなかったのだろう。竜崎は不思議そうな表情を浮かべるも、次の瞬間に襲ってきた痛みに思わず絶叫する。
(この先絡まれても面倒だし……少し警告しておくか)
少し悩んだ末に、隼人はそう決める。
そのまま、パッと手を放してやると不良グループのいる方に竜崎を後ろから押す。
バランスを崩しつつも、竜崎もなんとか転ばずに元の位置へと戻っていく。
竜崎は驚きと怒りが入り混じった表情、周囲は騒然としている。
これ以上騒ぎになるのはよろしくない。
隼人はそう判断すると竜崎のもとへとゆっくり歩み寄り……。
ギンッ――! と少しの威圧を込めて睨みを効かせる。
次の瞬間、竜崎は「ひっ……!?」と情けない声を発し、その場に崩れ落ちた。
歴戦の勇者からの威圧を込めた睨み――モンスターですら竦むようなそれに、鍛えているとはいえ、ただの不良少年である竜崎が耐えられるはずもなかった。
(あ、まずい。威圧の調整間違えた……)
やってしまったと隼人は引きつった笑みを浮かべる。
尻餅をついた竜崎、彼の股間から見る見る染みが広がっていくからだ。
威圧はかなり抑えたはずなのだが……まだ足りなかったようだ。
こうなったらどうにでもなってしまえ。
隼人は先ほどよりも威圧の調整をしながら、残りの三人を軽く睨み、ゆっくりと近づき……。
「えっと、まだ何か用でもあるかな?」
と、静かに尋ねる。
三人は怯えきった様子で、ブンブンと首を横に振る。
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