19話 試練を与える最強勇者
「さて、それじゃあ始めるとするか」
河川敷へと移動してくると、隼人はそんな言葉とともに《黒次元ノ黒匣》を発動し異次元の狭間から装飾の施された短剣を取り出す。
「何ですか、それは?」
短剣を見て不思議そうに首を傾げる竜児。
隼人は「持ってみろ」と言って、竜児に短剣を渡す。
短剣を手にする竜児。
すると短剣に嵌め込まれた透明色の宝石のようなものに、淡い白い光が灯った。
「うお!? 光った! マジで何なんです、コレ!?」
驚いた様子で短剣を見つめる竜児。
そんな彼に、隼人はこのように説明する。
「その短剣は手にしたものの魔力とその属性を大雑把にではあるが計測してくれるマジックアイテムだ」
「え!? 光ったってことは……まさか俺に魔力があるってことですか!?」
「その通りだ」
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
隼人の言葉に、大喜びで叫ぶ竜児。
しかし――
「魔力はあるみたいだが、その光の発し方は対応している属性はないって証だ」
――そんな風に隼人が説明する。
「え、それってつまり、どういうことなんです!?」
「今の時点でお前は魔力を持っているけど対応している属性がない……つまり、魔法は使えないってことだ」
「そ、そんなぁ……!」
隼人の説明を聞き竜児は、ガク! と項垂れる。
「まぁ、そんなに気を落とすな。異世界だって魔法を使える人間は少なかったからな」
竜崎のあまりの落ち込みように苦笑しながら、そんな言葉をかける隼人。
「そうなんですか……。ちなみに、魔法の属性ってどれくらいあるんですか?」
「主にあるのは火・水・風・土・光、それと例外的に闇属性ってのもある」
「ちなみに十六夜さんはどの属性を使えるんですか?」
「ぼくは闇属性だ。詳しい説明は省くけど」
「闇ですか、カッコイイですねぇ……」
少々イジケた、それでいて羨ましそうに隼人を見る竜崎。
よっぽど魔法が使えなかったことが悔しいようだ。
「まぁ、魔法も使えないことがわかったし、モンスターと戦うのは諦めるんだな」
「く……っ! なんとか、なんとか隼人さんと一緒に戦う方法はありませんかね!? 最悪荷物持ちでもいいので!」
隼人の言葉に、どうにも諦めきれず食いついてくる竜児。
この前モンスターに襲われたばかりだというのに……と、隼人は呆れてしまう。
「そもそもお前、ぼくに睨まれただけで漏らしてたじゃないか。とてもじゃないが、モンスターと戦うなんて無理だぞ?」
「う……っ!? そ、それは……」
隼人が再登校した日のことを指摘され、言葉に詰まる竜児。
確かに、あの程度の威圧で失禁していては、モンスターと戦って勝利するなど夢のまた夢だ。
「だ、だったらもう一度俺を睨んでください! それに耐えられたらチャンスをもらえないですか!?」
どうあっても諦めない、そんな雰囲気で竜児は隼人に懇願してくる。
「はぁ、じゃあ一回だけな……?」
面倒くさそうに返事をする隼人。
そのまま間髪入れず、この前よりも少しだけ威圧感を高め、ギン――ッッ!! と竜児を睨む。
「ぐぅぅッッ!?」
苦しげな呻き声を漏らす竜児。
体が小刻みに震え、そのまま倒れそうになる……が――
ガンッッ!!
そんな音が響くような威力で、自分の顔を殴りつけた。
そのままなんと、足を踏ん張って耐えてみせたではないか。
「……驚いた、まさか耐えるなんてな」
意外、といった感じで目を見開く隼人。
まさかこの前よりも威圧感を高めた睨みに、ただの高校生である竜児が耐えられると思ってなかったのだ。
「へ、へへっ……、どうですか? 耐えてみせましたよ!」
まだ小刻みに震えてはいるものの、挑発的な笑みを浮かべる竜児。
(まさか一回目の威圧と、ゴブリンたちに襲われた経験を経て、精神力が成長したのか?)
隼人は頭の中でそんなことを考える。
普通であれば、あんな経験をすればトラウマになってもおかしくないのだが、竜崎は成長してみせた……それが本当であれば、或いは――
「わかったよ、少し考えてやる」
「あ! ありがとうございます! 十六夜さん……!」
隼人の言葉に、竜児は大きく頭を下げる。
(さて、どうしたもんかな?)
隼人は少しだけ嬉しそうな表情を浮かべ、思案する。
もしかしたら、下級モンスターくらいであれば相手にできるまでには成長するかもしれない……。
そんな期待を込めて。