18話 興味を抱く最強勇者
「あー、別に告白を断る理由は、竜崎……ややこしいな、君のお兄さん、竜児くんと兄妹だからってわけじゃないから」
今にも泣きそうな表情を浮かべる沙織に、そっとそんな言葉をかける隼人。
「え? そうなんですか……?」
意外そうな表情で聞き返す沙織。
そんな彼女に、そもそも今は恋人を作る気もないこと。
そして沙織自体もとても可愛く、魅力的だと思うことを伝える。
「むー、そういうことであれば……。でも、いつか十六夜先輩に振り向いてもらえるように、私頑張ります!」
お淑やかそうな見た目とは裏腹に、ガッツのある返事をする沙織。
あなたを落としてみせます! と声高々に宣言されたことに、隼人は困ったように頭をかく。
ここまでまっすぐに好意を伝えられると、どうしたものかと悩んでしまうのだ。
「それと、十六夜先輩……」
「ん?」
「ごめんなさい、兄が十六夜先輩にとんでもないご迷惑をおかけして。言い訳になってしまうのですが、私、イジメの件はついこの前まで知らなくて……」
「ああ、別にいいよ。もう気にしてないし。それに今は竜児もこんな感じだしね」
頭を下げる沙織に、そう言いながら呆れたような表情で竜崎……竜児を見る隼人。
そんな隼人に、竜児は「ご迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした!」と、改めて頭を下げる。
「そういえば、どうして兄さんは十六夜先輩の舎弟になったのですか?」
「十六夜さんの強さと正義感に惚れ込んだんだ。詳しくは言えねぇけどな!」
自慢げに胸を張る竜児、どうやら口はそれなりに固いようで、昨日の件は妹である沙織にも話す気はないようだ。
「……よくわかりませんが、十六夜先輩と一緒ならもう悪いこともしないでしょう。十六夜先輩、不出来な兄ですが、よろしくお願いいたします」
そう言って、沙織も改めて頭を下げるのだった。
それから少し――
「ところで十六夜さん、昨日のあの化け物はいったい何だったんです? それに十六夜さんが持ってた不思議な剣も……」
沙織と別れたあと、帰り道を二人で歩いていると、竜児が隼人にそんな質問をしてくる。
どう答えたものかと考える隼人だったが、話してもどうせ信じないだろうと、ある程度本当のことを話すことにする。
「あれは異世界のモンスターで名前はゴブリン、ぼくが使っていたのは魔剣と呼ばれる特殊な武器だ」
「異世界って……あのゲームとかに出てくる異世界のことですか? それに魔剣って、まるでゲームみたいですね……」
隼人の言葉を鼻で笑うかと思いきや、竜児は意外にも信じた様子だ。
今出てきた言葉を反復したのちに、さらに隼人に質問をしてくる。
「そんな魔剣とかを操る十六夜さんって、いったい何者なんですか……?」
……と――。
「どう説明したものか迷うけど……ぼくは異世界に召喚されたことがあって、特殊な能力を手に入れたんだ。例えばこんな能力だ」
見せた方が早いだろうと、隼人は人目がないことを確認しながら《黒次元ノ黒匣》を発動し、手に持っていたカバンを次元の狭間へと収納してみせる。
「す、すげー! まるで魔法みたいだ!」
「まぁ、魔法だからな」
興奮する竜児に苦笑しながら答える隼人。
初めて異世界で魔法を見たときの自分と重なり、少し懐かしくなってしまう。
「……十六夜さん、俺にもその魔法って使えるものなんですか?」
「どうだろうなぁ、魔法はその人自身が持っている素質と属性との相性にもよるから何とも」
「素質、それに属性との相性? まさかゲームみたいに魔法の属性とかあるんですか?」
「ああ、そのまさかだ」
「す、すげぇ……!」
隼人のさらなる言葉に、瞳をキラキラさせて興奮する竜児。
そんな彼を見て、隼人は(そういえば、この世界の人間の魔法の素質ってどんなもんなんだろう?)と、疑問を抱く。
少し気になったので、竜児の素質を調べてみることにしようと伝えると――
「い、いいんですか!? ぜひお願いします!」
そんな風に、竜児は大喜びするのだった。
二人はとりあえず、人の少ない河川敷へと向かうことにする。