16話 舎弟(パシリ)ができた最強勇者
(こいつは一体何を言っているのだろうか……?)
ドン引き……というか、呆気に取られた様子でそんな疑問を浮かべる隼人。
対し、竜崎はさらに頭を深く下げる。
「あー、竜崎。舎弟にしてくれって、どういうことだ……?」
とりあえず事情を聞こうと、そんな風に隼人は問いかける。
「昨晩はわけのわからない化け物に襲われたところを助けていただきありがとうございました! 十六夜さんが戦う姿を見て、その強さに惚れ込みました! なので、どうか俺を舎弟にして戦い方を教えてください!」
そう言いながら、竜崎は瞳をキラキラさせ、隼人を見上げてくる。
「言っただろ、昨日のことは忘れろって」
少々呆れた様子で隼人は返す。
昨日あんな目に遭っておきながら、まさかこのような懇願をしてくるとは……。
根性逞しいというか、無鉄砲というか、呆れてものも言えない……といった様子だ。
竜崎を一瞥すると、隼人は教室に戻ろうとする……のだが――
「お願いです! 俺を舎弟にしてください! それで、十六夜さんと一緒に戦わせてください!」
大声を出し、隼人のあとを追いすがってくる竜崎。
そんな彼の言葉に、隼人は少し疑問を持つ。
(今なんて? ぼくと一緒に戦わせてくれって……一緒にモンスター退治がしたいってことなのか?)
……と――。
「どうして、ぼくとモンスター退治なんてしたいんだ?」
少し気になったので、隼人は竜崎に問いかけてみる。
「正直、俺は不良だ。十六夜さんのことをイジメていい気になってたし、調子に乗っていた。この前十六夜さんに返り討ちにされた時も、絶対にやり返してやるって思ってました」
こいつ、そんなこと思ってたのか……。
隼人はさらに呆れた表情を浮かべるも、竜崎の言葉は続く。
「でも、昨日の件で俺の認識は変わりました。あんなすげぇ力を持つ十六夜さんが、それを自分のために使わずに、人知れず化け物退治をしていた……。この方はなんて人なんだ、そんな気高いお方に、俺は今までなんてことを……そう思ったんです」
隼人の質問に、柄にもなく真面目に答える竜崎。
(なんていうか、すごい思い込みをしているな……。しかし、今の言葉に嘘はなさそうだ、どうしたもんかな……)
竜崎の意外な言葉に、そんな風に思う隼人。
とんでもない解釈の仕方だが、隼人の勇者としての洞察力で、竜崎が嘘をついていないと判断できてしまう。
「お願いです、十六夜さん! あなたをイジメてた俺がこんなことを請うのは許されるはずもないが、それでも! パシリでも何でもしますから!」
竜崎はそう言って、またまた頭を深く下げる……というか、とうとう土下座してしまった。
(何を言ったところでしつこく付き纏ってきそうだな……)
そんな風に頭を悩ませながら、隼人は制服のズボンのポケットに手を入れる。
その拍子に、今朝下駄箱に入っていたラブレターが指に触れる。
(そういえば、まだ中を読んでなかったな)
などと考えながら、ポケットからラブレターを取り出す。
「十六夜さん、それは……?」
「ああ、今朝下駄箱に入ってたんだ、多分ラブレターっぽい」
竜崎の問いに適当に返事をしながら、ラブレターを見つめる隼人。
隼人の返事に、竜崎は「すげー! さすが十六夜さんだぜ!」と、興奮した声を上げている。
(待てよ? 確か今、パシリでも何でもするって言ってたよな?)
ふと、隼人は竜崎の先ほどの言葉を思い出す。
そしてこう考える。
(不良のこいつを近くに置いておけば、女子除けになるのではないか?)
……と――。
試しに竜崎にそんなことを話してみると……。
「そういうことなら任せてください! クソビッチども以外からは嫌われている自信があるので、女子除けには最適だと思います!」
……などと、わけのわからない自信満々な答えが返ってきた。
(ふむ、試しにこいつをしばらく近くに置いてみるか)
ある程度静かに学園生活を過ごすために、隼人は竜崎をパシリ……もとい、女子除けに使ってみることにするのだった。
ぶっちゃけ、異世界で最強の勇者となり、大きすぎる器を手にした隼人にとって、過去のイジメなどどうでもよくなってきてたりする。
それよりは、今は当たり障りなく女子と距離を取ることが大事だ。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁ! 十六夜さんの舎弟にしてもらえたぜ!!」
隼人の了承の言葉を聞き、竜崎が喜びの雄叫びを上げる。
「竜崎、焼きそばパン」
「了解です! 十六夜さん!!」
腹も減っていたので、隼人は試しに言ってみると、竜崎は満面の笑みで購買へと走っていく。
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