14話 駆けつける最強勇者
その日の深夜――
「かかったか」
そんな言葉とともに、隼人がスッと瞳を開く。
昨日のうちに展開しておいた《黒ノ魔網恢々》の一つにモンスターの反応があったのだ。
美雪たちを起こさぬように静かに、それでいて手早く家を出る隼人。
夜の街を凄まじいスピードで駆け抜けていく。
「……またダンジョンか」
目的の場所へと辿り着いた隼人が声を漏らす。
彼の目の前には昨日と同様に空間の歪みが発生していた。
そう、またもやダンジョンの入り口が出現したのだ。
「来い、《黒ノ魔剣》」
昨日と同じように、魔剣を召喚する隼人。
そのまま歪みに剣身を突き刺し、抉じ開ける。
「昨日と同じ、洞窟タイプのダンジョンか」
隼人がダンジョン何を見渡しながら呟く。
ダンジョンには、岩肌がどこまでも続く洞窟型や、火山型、森林型、遺跡型など様々な種類がある。
「これは……まさか人の気配か?」
訝しげな表情を浮かべる隼人。
そう、ダンジョンの奥に人の気配を感知したのだ。
万一、この世界の住人がダンジョンに取り込まれてしまっていたら。
そしてモンスターに襲われでもしたら……。
そんな考えが頭に過ぎった時には既に隼人は駆け出していた。
一足目でトップスピードへと至り、凄まじい速度でダンジョンの奥を目指す隼人の目に、複数の人影が飛び込んできた。
否、正しくは人影と、とある異形の姿だ。
その異形の名はゴブリン、異世界に存在する小鬼型の下級モンスターだ。
しかし、いくら下級とはいえその手にはナイフが握られており、それが複数で人を囲み追い詰めているように見える。
「な、なんなんだ、こいつら!!」
「ば、化物!!」
ゴブリンに囲まれパニックに陥っているのか、震えた声で叫ぶ複数の人影。
(あれは、竜崎たちじゃないか!)
声を聞き、それが不良の竜崎とその取り巻きたちだと気づく隼人。
どうして迷宮の中に彼らが取り込まれているのか、そんな疑問を振り払い――
「《黒ノ魔槍》ッ!」
――その名を叫ぶ。
刹那、隼人の頭上に黒紫の魔法陣が展開し、中から一条の漆黒の閃光が迸る。
ドパンッッ!
そんな凄まじい音とともに、閃光――禍々しい形をした漆黒の魔槍が、今まさに竜崎たちにナイフを振り下ろそうとしていたゴブリンの土手っ腹を貫いた。
『『『グギャッ!?』』』
突然の出来事に、残りのゴブリンどもが驚いた声を漏らす。
その隙に、隼人が一気に駆け出した。
手前にいるゴブリン二体の前に躍り出て魔剣を一気に振り払う。
スパンッッ! という軽快な音とともに、ゴブリン二体の頭があらぬ方向へと飛んでいく。
『ギギッ!?』
こいつはヤバい! とでも言いたげな鳴き声とともに、最後のゴブリンが回れ右して逃げ出そうとする……のだが――
「遅い」
神速の踏み込みとともに隼人はゴブリンの背後へと瞬時に移動し、その心臓を背中から魔剣で貫いた。
「大丈夫か?」
全ての敵が沈黙したのを確認したところで、隼人は魔剣についた血を、ビッ! と払いながら竜崎たちに問いかける。
「い、十六夜……なのか?」
「私たちを助けてくれたって、こと……?」
やっと、といった様子で声を漏らす竜崎と取り巻きの水口。
他にも田中と後藤もいるが、二人に関した茫然としたままその場にへたり込み、ただ隼人を見上げるのみだ。
そんなタイミングで、昨夜と同じように迷宮の空間内が歪み始めた。
(またか……)
そんなことを思いながら、隼人は自分と竜崎たちに防御魔法を付与する。
「こ、今度は何なんだ!?」
「やだ、怖い!!」
またもやパニックになる竜崎たち。
そのまま皆一緒に歪みに取り込まれ……元の場所へと戻ってきた。
「も、戻ってきたのか……?」
「よかった……」
見慣れた風景に安心したのか、竜崎たちがホッと息を吐く。
どうやら特に怪我もしていないようだ。
「い、十六夜、その剣はいったい……それに、お前は何を……」
隼人の持つ魔剣、そしてその強さに、そんな質問をしてくる竜崎。
「今日のことは忘れろ、それと大人しく家に帰れ」
これ以上詮索されても面倒だ。
それに彼の様子を見るに、ただ迷宮の中に取り込まれただけで、何か新しい情報を得ることも難しそうだ。
そう判断した隼人は魔剣を次元の狭間へと帰還させ、その場を立ち去るのだった。
「十六夜、あいつ何者なんだ……?」
「でも、カッコよかったよね……」
「うん……」
田中と取り巻きの女子二人、水口と後藤がそんな風に呟き、竜崎はただ一人無言で、隼人の姿を見送る。
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