12話 活躍する最強勇者
「次は体育か……」
三限目を終え、次の授業の準備に取り掛かる隼人。
四限目は体育の授業だ。
着替えを分けるため、女子たちがぞろぞろと別の教室に移動していく。
「なぁ、十六夜は球技も得意なのか? 次の授業サッカーなんだけどさ」
体育着へと着替える隼人のもとに、博之がそんな言葉とともに近づいてくる。
(サッカーか、異世界にいた頃は球技なんてほとんどしなかったけど……まぁ、それなりにできるかな?)
博之の質問に、そんなことを考えながら隼人は「まぁまぁだと思うよ」と答える。
「うちのクラスは球技弱いからな、毎回二組に負けるんだ……」
隼人と博之のやり取りを聞き、康太も会話に加わってきた。
どうやら隣のクラスである二組には、サッカー部やバスケ部、野球部に所属する生徒が複数いるらしい。
対し、隼人のいるクラス、一組には球技部に所属する生徒は皆無なのだそうだ。
「たまには勝ちてぇよな……」
会話の最後で、康太がそんな風にぼやくのだった……。
◆
四限目――
(なるほど、これが博之くんたちが勝ちたがっていた理由か)
校庭のとある方向を見て、隼人は思う。
隼人の視線の先では、女子たちが走り幅跳びの準備を始めている。
そんな女子たちが、サッカーの試合を始めようとする男子たちの姿をチラチラと見ているのだ。
もちろん、単純に試合に勝ちたいという意思もあったのだろうが、女子たちに見られている以上、勝ってカッコイイところを見せたいという気持ちが大きかったのだろう。
(別に戦い以外はあまり得意じゃないけど、少し頑張って見るか)
博之たちの気持ちを汲み、隼人はそんな風に思うのだった。
そんなタイミングで試合のホイッスルが、ピーッッ!! と鳴る。
さすがはサッカー部の生徒が複数所属する二組、学生にしてはなかなかに連携の取れたプレイで、あっという間に一組のゴールの方へと攻めてくる。
そしてそのままシュートを放ってくる。
(よし、ここだな)
タンッ――! と、その場を軽く蹴って飛び出す隼人。
そのまま一気にゴールへと迫りくるボールの前に出て、それを蹴り返す。
するとどうだろうか……
ズパン――ッッ!!
……そんな鋭い音とともに、ボールが相手――二組のゴールの中に飛び込んでいったではないか。
「「「は…………?」」」
二組の生徒……というか一組の生徒も合わせ、皆が間抜けな声を漏らす。
「い、今、十六夜が蹴り返したんだよな?」
「あ、ああ、それがそのまま相手のゴールに入っちまった……」
ようやく何が起きたのか理解したのか、博之と康太がそんなやり取りを交わしている。
(あー……、やり過ぎた……)
かなり力を調整し、加減に加減を重ねたつもりだったが、それでも足りなかった。
隼人はそれを悟るのだった。
「え、十六夜くん……」
「凄すぎ〜!!」
試合を見ていたのか、女子生徒たちの方からそんな声が聞こえてくる。
「そ、そんなんありかよ……!」
「あ、ありえねぇ……」
隼人のカウンターシュートを目の当たりにして、二組の生徒たちが憤慨、あるいは茫然と声を漏らす。
試合を見守っていた教師でさえも、同じような反応だ。
(よし、防御に徹しよう)
次はシュートを決めない! そんな固い決意とともに隼人は試合に臨む。
しかし、攻めることはしないが隼人の守りはこれでもかと硬く、二組は一向にシュートを決めることができないまま試合は一組の勝利で終わるのだった。
◆
昼休憩――
「いやぁ! 十六夜のおかげで久々の勝利だな!」
「二組のやつらの落胆顔、たまらなかったぜ!」
隼人の机の周りに集まり昼食を食べながら、博之と康太が実に楽しそうに笑う。
よほど二組にサッカーで勝てたことが嬉しかったようだ。
「見てたよ、隼人くん!」
「すごい活躍ぶりだったね〜!」
桃子と美香も、博之たちと同じように興奮した様子だ。
他にも、他の生徒――特に女子生徒たちが隼人の周りにワラワラと集まってくる。
(ほ、本当にやりすぎてしまった。まさかこんなことになるなんて……)
竜崎を返り討ちにした件に続き、サッカーでの活躍、それによって一気に人気がついてしまったことに、隼人は内心で頭を抱える。
このままでは平和な学園生活どころではない。
異世界で人気者だった勇者の頃の生活みたいな感じに戻ってしまう。
隼人はどうしたものかと、思考を巡らせる。
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