10話 警戒する最強勇者
「さて、この世界で役に立つことはないと思うけど、一応コレを回収しておくか……」
レッサーヴァンパイアの死体を見下ろし、隼人が呟く。
そして――
「《黒次元ノ黒匣》、発動」
――レッサーヴァンパイアの死体に手を翳しながらその名を口にする。
すると、レッサーヴァンパイアの死体が黒い霧のようなものに包まれたではないか。
やがて霧が消え去ると、レッサーヴァンパイアの死体もその場から姿を消した。
闇属性魔法、《黒次元ノ黒匣》――
隼人が異世界で会得した収納系の魔法だ。
闇の力で物体を量子レベルに分解し異次元に収納、そして再構築して取り出すことができる効果を持つ。
異世界では冒険者ギルドや、商人ギルドと呼ばれる場所で、モンスターの死体を買い取ってもらうことができたが、地球においてそれは無理だろう。
しかし、なんとなくもったいない気がしたので、隼人は回収しておくことにしたのだ。
「さて、先に進むとするか。……ん?」
歩き出そうとしたところで、隼人が不思議に思う。
今いるこのダンジョン内の空間が、急激に歪み始めたからだ。
「一応シールドを貼っておくか、《黒キ祓ウ者》、展開!」
歪み始めたダンジョンが、どのような影響をもたらすか不明だ。
なので、隼人は自身の周りに防御魔法を展開する。
闇属性魔法、《黒キ祓ウ者》――
自身に害を為すものを自動で跳ね返す防御魔法だ。
エネルギー系の攻撃であれば、受けたそのままの出力を以って相手に跳ね返すことができる。
防御魔法を展開したところで、隼人は歪みの本流に巻き込まれていく――
◆
「なんだ、元の場所に戻ってきたのか……」
拍子抜けした様子で、周囲を見渡す隼人。
歪みに巻き込まれたかと思えば、元いた裏通りに戻ってきていたのだ。
「モンスターの反応も消えた……か」
周囲に警戒しつつ、完全にモンスターの気配が消えたことを確認すると、隼人は《黒キ祓ウ者》の展開を解除する。
(しかし、どういうことだろう? ダンジョンが消える現象なんて聞いたことないぞ?)
念のために、他にもダンジョンの入り口がないか。
またモンスターが現れないか。
それを確認するために、歩き始めながら隼人は疑問に思う。
異世界において、ダンジョンが姿を消すなどという現象は起きたことがなかったのだ。
(そういえば、レッサーヴァンパイアを倒した途端に消えたけど、何か関係しているのかな?)
その他にも、どうしてこの世界にモンスターやダンジョンが現れたのかなど、様々な疑問を浮かべながら歩く隼人。
結局、他にダンジョンもモンスターも見つからなかった。
「一応、糸を張っておくか」
そう言って、隼人はまたもや魔法を発動する。
その魔法の名は《黒ノ魔網恢々》――
特定の場所に魔力による楔を刺し、近くにモンスターが現れればそれを発動者に知らせてくれる闇属性魔法だ。
本当であれば《黒ノ魔網恢々》をいくつもの場所に展開しておければいいのだが、この魔法には一日のうちに数回しか発動できないという制限がある。
なので隼人は目ぼしい場所に移動し、《黒ノ魔網恢々》を展開していく。
「こんなもんかな……?」
最後の《黒ノ魔網恢々》を展開したところで、隼人がひと息吐くために自販機で缶コーヒーを買う。
「さて、帰るとするか」
コーヒーを飲み干したところで、帰り道を歩き始める隼人。
魔法を展開する場所を選定するために、少し時間を食ってしまったようで気づけば空の色が、青みがかっている。
早く帰らなければ、美雪たちに見つかってしまうだろう。
戦いに続き、魔法を連続で使ったというのに、一切の疲れを感じさせない足取りで隼人はその場を去るのであった。
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