『もう遅い』次にくるのは『なんだっけ』?!
なろうで『親の顔よりもよく見た』といわれるテンプレの一つが、いわゆる『ざまぁ』、強者が没落し、立場の逆転したかつての弱者が強者を見返すというものである。
これは、弱者であった主人公に感情移入する読者にカタルシスをもたらす構成であるため、古典的ではあるが、いまだに根強い人気のあるものである。
読者にとって主人公=弱者=善、敵対者=強者=悪とするのがもっともストレスフリーに読めるためか、ほぼ自動的に勧善懲悪テンプレと組み合わせられているように思われる。
この『ざまぁ』も、いくつもの種類に分かれる。
だが、いちいち説明するのは読者諸氏のあくびを誘うことになると思われるのでしない。
ここではそのうちの一つ、『追放ざまぁ』を取り上げたい。
『追放ざまぁ』の構造は単純にすると、『主人公=弱者が強者のグループを追い出されるが、強者たちが追放時には評価していなかった弱者の力によって、強弱の立場が逆転する』というものだろう。
そこに『元強者が主人公に頭を下げ、戻ってきてほしいなどと懇願するが、あっさり拒絶される』が加わったのが、コロナ禍の2020年に流行した『もう遅い』の構造だ。
『もう遅い』は単なる強弱逆転、勧善懲悪ではない。仕返しや復讐だけの物語でもない。
『もう遅い』は、主人公に自己同一化する読者に対し、『選ばれなかったその他大勢の一人でしかなかった人間が、選ばれし唯一無二の存在へと変貌する快感』、『選ばれなかった側が選ぶ側に変わった充足感』『選ぶ側になった人間が、拒絶する選択の自由を存分に行使する快楽』を与えるテンプレなのである。
さて、それでは『もう遅い』の勢いが下火になってきた現在、次に来るテンプレインフレの波はなんだろうか?
『もう遅い』は、強者たちに虐げられた主人公=弱者が立場をひっくり返し、強者たちを見返すという意味では、『復讐ざまぁ』の一つでもあるといえる。
では、ここで復讐譚の定型を見てみよう。
復讐譚もこれまたざっくり単純にするならば、加害者にかつて害を受けた被害者が、恨みを籠めて加害者を害し返す話、ということになる。
だが『ハムレット』のように、復讐は加害者当人だけでなく、加害者側に属する複数の人間にも影響を与える。
そのため、被害者側が今度は加害者として追われたり殺されたりすることもある。つまり復讐のやりようによっては、復讐を行った被害者が罪人として処刑される、あるいは私刑にあうなど、さらに大きな被害をこうむることになるのだ。『ロミオとジュリエット』が悲恋なのも、モンタギュー家とキャピュレット家の対立のせいで人が死に、その復讐でロミオがさらに人を殺すという殺人の連鎖あってのものだといえる。
被害者側にとってめでたしめでたしで終わらなければ、復讐はざまぁのカタルシスが得られない。
ということは、『復讐ざまぁ』が気持ちよく成立するには、復讐が終了した段階で、加害者側全員がざまぁに異を唱えられない状態、つまり被害者との因縁がすっぱり解消されている必要があるということになる。
例を挙げるならば、加害者側全員が改心していたり、被害者に手出しのできない状況に陥った様子が描写されて終わる――死亡エンドや、流刑が完了していて二度と話を聞くことはなかったエンド――といったところだろうか。
しかしこれがなかなか難しい。
加害者が改心?そんなにあっさり改心するくらいなら、最初から加害行為なんてしないだろうし、してしまっていても加害行為直後に謝罪するぐらいはしていそうだ。
全員死亡?加害者者本人でない、ただの関係者まで一族滅亡とか。後味悪い結末はカタルシスを邪魔しないだろうか。
流刑完了?今度は俺たちの番だ的に、もと加害者側から復讐ざまぁのターンが始まるフラグですかね。
足を踏まれた側の人間は、その痛みと踏んだ人間のことをなかなか忘れられないが、足を踏んだ人間は踏まれた人間をすぐに忘れるという。
むしろ、踏んだことすら意識していないのかもしれない。なにせ踏んだ側は痛みを感じていないのだから。
ということは、下手な復讐をした結果、加害者にとっては不条理な被害を受けたと感じるということもあるということになる。
上記の例で言うなら、流刑完了から悪役坂を上がってく逆復讐譚あたりだろうか。
だがここで思い返してみよう。
読者が感情移入する主人公は、話の開始時点では、『弱者』なのだ。自分が『弱者』であることをよく知っている小市民が、他人に恨みをかうリスクを負ってまで、復讐をしたいと思うだろうか?
もし筆者だったら……おとなしく泣き寝入りした上で、ストレス解消するべく、相手を悪役のモデルにした敵も味方も蹂躙系無双主人公の新作でもでっちあげにかかるかもしんない。
なんという二次元呪いの藁人形。
ちなみに『最高の復讐』でぐぐったところ、『幸福に暮らすことが、最高の復讐である』というスペインのことわざが出てきた。
『相手のことを忘れて暮らすのが最良の復讐である』という言い方もある。
だったら、このような『最高の復讐』をする『復讐ざまぁ』はどうだろう。
加害者である元強者が接触してきたとき、「すいません、どなたでしたっけ?」「なんでしたっけ?」「そんなことありましたっけ?」「気にしないでください、ワタシも気にしませんから!」と笑顔で返す主人公。
なんらかの予想したリアクションを片端から外されて、独り相撲を取る元強者。
意外とありかもしれない。
『もう遅い』次にくるのは『なんだっけ』?
ただし、敵役が死ぬほど、もしくは死んでもひどい目に遭うことにカタルシスを覚えるという読者には、いくぶん薄味に感じられるのかもしれない。
そのあたりの工夫は、なろう作者諸氏の奮闘を、一読者として期待したいところである。