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≪穏やか転生シリーズ≫

私の憧れた伯爵令息はとても残念です

作者: ◇ゆん◇

私の年齢の子達はね、みんな同じ人を好きになっちゃったの。


10歳で社交界デビューするんだけどね、そこにすごい子いたんだ。

私、あんなに素敵な男の子初めて見た。

集まった子達みんなこの子に一目惚れしてしまった。


だから普通はね、ダンスのお誘いって、本当は男の子からするものみたいなんだけど…その子に対しては女の子達のほうから迫るよね。

っていうか、その時のパーティに参加した全女子が、彼を囲って争いを始めたからダンスパーティ始まれない。


「ねーねー私と踊ろ」

「えーこんな子より私のほうがいいよ、私と踊ろ」

「うちお金持ちだよ、私を選んだほうがいいよ」

「この子の家は、なりあがりって言われてたよ、私の家は代々続くすごいところなの」

「私を怒らせないほうがいいよ。お父様すごく偉くて怖い人なんだよ」


脅迫っぽいこという子もいて怖い。

私も踊るならこの子がいいけど…うちはなあ、男爵家の中でもみそっかすみたいなところだからなー。


なんかもうパーティでこんな素敵なかっこ可愛い男の子見れただけで幸せ。

というか、そんな私の心を幸せにしてくれた男の子が、超可哀想でどうしよう。


嵐の渦の中で、すん、ってなってる。

どうやらこんな悲惨なデビューになるとは思ってなかったようだ。

助けてあげたいけど、どうしようどうしようと思ってたら、その男の子は周りをゆったりと眺めてから、私達に微笑んだ。


「いいよ、じゃあ全員と踊るから、ぼくと踊りたい人は壁に並んで?」


****


「たぶんね、一小節単位ならみんなと踊れると思うんだ。ちょっとずつしか踊れなくて忙しくさせちゃうけど、その代わり1人1人と大切に踊るから…それで許してもらえるかな?」


「うん!」「いいよ!」


さっきまでの争いが嘘みたいに収まった。

まあでもそうだよね。さっきまでは競争率10倍をどうにか勝たねば!みたいになってたけど…ちょっとずつでも必ず踊れるなら、それがいい。

だって私達だって今日が社交界デビュー。本当は他の子達とだって仲良くしたいもん。


私もね、並ぶことにしたよ。可哀想なのは他の男子だけど。っておや?どうやら男子も並んでるようだ。

そんなわけでダンスパーティはちょっとだけ延長になった。


踊るつもりがない男の子達は「はいはい、列乱れてるよー。2列に並んでー」とか「次君の番だからこっち来て準備して」とか「お疲れ様、じゃあこっちに移ってね」とか、誘導をし始めた。

社交界で初めての試みかもしれない今回の特別ルールは、意外とスムーズに進んだ。


そしてね、私の番になって、その男の子と踊れた時はすごかった!

もうもうすごい感動。

手を繋いでね、ダンスしてる間、私だけを見つめて私だけに微笑んでくれるの。同じ10歳とは思えない甘い一時。


それから私、一週間くらい、思い出しては幸せで顔がにやけてて、弟に「姉ちゃんが壊れた!」って言われた。


****


その男の子の名前はね?エドガー・ウィルソンって言うの。伯爵家の子みたい。領地はないけど、お父様が栄誉職についてるみたいだね?だから伯爵。そんな話が勝手に聞こえてくるから、彼のことどんどん詳しくなる。


12歳になるとね、貴族は大抵学園に入学するの。エドガーも入学したから、この12歳の年は大変色めきだった。あの憧れの男の子と同じ学年!しかも私…同じクラス!やったー!


教室に入ると、エドガーの席の周りに女の子達がむらがっていて、色んな話をいっせいにするから…。

ねえ、鳥の密集地で鳥達が一度に鳴いてるところって見たことある?あの騒音だった。私この音無理。


耳を塞ぎながら背伸びして渦中のエドガーを見ると、すん、ってなってる。

可愛さが減りかっこよさが増していて更に素敵になってる彼は、この現実を受け入れられないようだ。無の境地。


「女子達うるせー!」

「はあ!?引っ込んでなさいよ!」

「なんだと!」


烏合大騒音のはじっこではそんな争いも始まったりして、教室は休み時間の度に、非常に殺伐としている。

他のクラスや上級生の女の子達も、休み時間覗きにきたけど、この殺伐っぷりにそーっと逃げて行った。逃げれていいな…私明日からは耳栓を持ってこよ…耳痛くなってきた。


****


入学して1週間後、エドガーがキレた。

っていうか壊れた。


「あーもう!いい加減にしてくれ!」

両手でゆるふわな銀色の髪の毛をわしゃっとしてのけぞった。


「いいか!君達が見ているぼくは幻想だ!まやかしだ!それを今から証明してやる!ぼくに何か質問してみろ!」


「はい!好きな子は誰!」

「うん、いい質問だね、ぼくは妹が女の子として大好きだ!ちなみに9歳だ!」


しょっぱなからのドン引き案件。

これで半分くらいの女子が、すん、ってなった。

私は、エドガーの妹ちゃんなら、確かに、夢みたいに可愛いんだろうなーとか思ってる。


「…えっと、ダンスパーティで初めて会った時のかっこよさはどこにいったの?」

「あれはよそゆきモードだからパーティに行くと会えるよ」


「よそゆきモード?」

「よし、説明しよう。よそゆきモードとは!」


思ってたイメージと違うエドガーの壊れっぷりに男子達も「よそゆきモードとは!?」とか言って注目している。


「よそゆきモードとは、ぼくがなんか面倒臭い時や、とりあえずその場をしのがないとその後の人生が詰む時に発揮されるモードである!

ダンスパーティはぼくのせいで中止になると、人生詰むから頑張ったけど…疲れるから二度と行きたくない…。

やたら誘われるし、権力とか使われて強制参加させられるんだけど、本気で止めてほしい…そっとしてほしい…ぼくは貝になりたい。」


そして遠い目をした。るー。

人の気持ちに敏感そうな子達が、一緒にるーってなる。謎の連帯感である。

なんか大変そうだね、エドガーって。イケメンにはイケメンのつらみがあるんだね。


そして最後の質問があり、その返答によってうちのクラスの女の子はついに全員、すん、ってなった。


「でもさ、ダンスパーティではいつも全然疲れてないように振る舞ってるよね。あれどうやってるの?」

「疲れを見せると相手に失礼だからやせ我慢してる。あと、家に帰ったら妹が膝枕してくれると思うと頑張れる…プリシラは本当に天使なんだ」


そうして爽やかに微笑むエドガーに、私を含む何人かのクラスメイトが、肩をとんとん叩きながら優しい言葉をかけた。


「誤解してたよ、ごめんな…」

「大変だったね、エドガー」

「え…なんでそんな哀れみな感じでみられてるの?」


****


私のクラスはね、その後はとても平和になった。

そして私、エドガーのお友達になったんだ。私を含めて、エドガーと特に仲良くしてる子は他に3人いて、いっつも5人でわちゃわちゃと楽しく過ごしてる。


他の女の子達はね?よそゆきモードの時のエドガーが好きだから、パーティに行った時はエドガーに並ぶけど、普段はそっとしてくれるようになってた。


でも私は…今のエドガーも好きだよ。

今のエドガーのほうが、色々分かりやすくて、とても近しい、現実の男の子って感じがする。


あれ?今日はなんかいつもと違うな?みたいなのもなんとなくわかるの。なんか、今日へこんでるな、とか。そういうの。


「ん?どしたのエドガー」

「…いつも思うんだけどさ、なんでフィオナは気づくのかな?」


気になって声かけると、そう言って苦笑しながらも、正解の特典みたいな感じで、理由を教えてくれるんだ。


「あー、それはしんどいね。どんまいエドガー」


そうして頭をぽんぽんしても嫌がらない。

ゆるふわな髪の毛が、ふわふわしてすごい可愛いの。わんこが日向ぼっこしてるみたいに、のほほんとされるがままになってる。


とても穏やかで優しい普通の男の子。

頭の中ではよく面白いこと考えてて、たまにそれが表に出てくるのも楽しい。


できることなら、もう少しの間、周りの子達が本当のエドガーの素敵なところに気づきませんように。


ゆるふわな髪の毛に触れる時、私はいつもそう思うの。

「穏やかで楽しく過ごすだけの、伯爵令嬢転生生活」というタイトルで今月完結予定の連載をしています。(追記 完結しました!)


この短編はその番外編にあたるものです。


是非連載バージョンも読んでもらえますと嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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