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日本が一夫多妻制になったので、ハーレム作ることにした。

作者: けに。

初短編です。


 子供の頃、ふと疑問に思った。


 歩美ちゃんも、蓮ちゃんも、カナちゃんも、みんな大好きなのにどうして1人を選ばなければいけないのだろう、と。


 全員と結婚できれば幸せなのに、と。



 ーーあれから20年。ついにそれが現実となった。



『たった今、国が少子化対策の一環として日本に於ける一夫多妻制度の導入が国会で可決されました!』


「……まじか」


 朝寝ぼけ眼でニュースを見ると、ニュースキャスターのお姉さんがそんなとんでもないニュースを報道していた。


「っっっっしゃぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 俺は遅れてガッツポーズをした。

 

『一夫多妻制だったらみんな幸せなのに』

 そんな子供の戯言がまさか現実になろうとは。


 あれから20年が経ち、俺は押しも押されぬイケメンになった。

 努力をして一流大学を卒業し、その後は大手企業に入社し、現在は営業のエースとして活躍している。


 これは早速いろんな子に連絡しなくてはーー。


 そう思った瞬間(とき)、携帯が鳴った。


『あ、もしもし颯太(そうた)? ニュース見た?』


『カナちゃんお久〜。見たよ、一夫多妻制でしょ?』


『そうそれ! もうすぐ3年でしょ? だから……今日会える?』


 耳元で囁かれるカナちゃんの甘い声が脳を溶かす。

 満ち足りなかったどうしようもない幸福感が俺を満たす。


『ーーもちろん』


 俺はそう答えて、勝負パンツを履いた。







***







「あっ、颯汰!」


 亜麻色の髪をふわりと巻いた美少女が、俺の顔を見てパッ、と太陽な笑顔を浮かべて向かってくる。


「カナちゃんお待たせ、久しぶり。 今日もかわいいね」


「も〜! 照れるじゃん!」


 そう言いながらも、カナちゃんは嬉しそうに笑う。

 

「いつぶりだろう?」


「4年ぶりくらいかなぁ?」


 他愛もない会話をしながら、渋谷の街を巡る。

 ショッピング、ランチ、映画、アミューズメントパーク。


 時間と共に止まっていた俺とカナちゃんの心の距離を溶かす様に俺たちは笑いあった。


 互いの手が触れて、目が合う。

 

 カナちゃんは恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を浮かべ、そんな彼女の手を俺は握った。


 ふと、携帯を見ると、歩美ちゃんや蓮ちゃんなど、多くの女性から連絡が来ていた。


 ーーあぁ、俺はなんて幸せ者なんだ。


 気分が高揚し、夜になった。

 


「ほんと、ここのお酒美味しい……!」


「良かった」


 昔よく来ていたここのバーは、薄暗い室内に淡いブルーのネオンライト。高層ビルの中にある為、窓の外を見れば東京の夜景を一望できるオシャスポットだ。


 こくこく、と小動物のようにお酒を飲むカナちゃんをオカズに酒を飲む。

 ほんと、こんなかわいい子から好意を持たれてるなんて、男冥利に尽きるよなぁ。


 数時間が経ち、互いに酔いも回ってきたところでカナちゃんが俺の肩にもたれかかる。


 ーー来たっ……!!


「ねぇ颯汰……私ちょっと疲れちゃった」


「じゃあ、何処かで休もうか」

 


 と、言うわけでやってきた夜の街。

 街灯が少なく薄暗い、月明かりが照らす道を2人で歩く。


 数分歩いたところでホテルに入り、俺は上着を脱ぎ、カナちゃんはシャワーを浴びに行った。


 シャァァ……と水の滴る音が俺の脳内を刺激する。

 

「お待たせ……」


 数分して、バスタオル一枚のみを羽織ったカナちゃんが現れる。白く艶やかな肌に健康的な体つき、そして大きな果実が二つ。


 証明を落とし、唇を重ねる。

 バスタオルがはだけ、生まれたままの姿になったカナちゃんを見て俺は自身の異変に気付いた。


 ーーあれ?


 自身の息子が年寄りのように力なくしなしなになっているのだ。


「あ、あれっ? おかしいな!? ごめんちょっと待って……」


 ここまで来て実はEDでした何てダサいを通り越して情けなさすぎる。


 俺は必死に自分の息子を勃たせようとする。

 そんな俺に、カナちゃんはそっと俺の頬に触れた。


「颯汰……泣いてるの?」


「ーーえ?」


 カナちゃんに言われて気づいた。

 俺の目からは無意識に、止めどなく涙が溢れていた。


「ーーあれ? おかしいな……どう……して……」


 どうしたって、止まらない涙。


「颯汰も体調あんまし良くないみたいだし、今日はもう帰ろうか」







「何やってんだ……俺」


 薄暗い自室のベッドに座り、俺はひとり呟いた。

 ナイフで切り裂かれるような痛みが心に刺さる。


 消えない。

 消えてくれない。

 君ではない、他の誰かの記憶を上書きしても消えてくれない。

 

 癒えない。

 癒えてくれない。

 ニセモノの想いを塗りたくっても傷が癒えてくれない。


 どんなに自分を傷つけても、君と過ごした幸せな日々は消えない。


 俺の心も、君と過ごした大きすぎるこの部屋も、あの日から止まったままだ。


 本当に情けない。

 本当に何をやっているんだろう。


 他人の気持ちを利用して、自分を嘘で固めて。

 きっと、君が好きだった俺はもういない。君がいないと俺はどうしようもないやつなんだ。


「はは……」


 乾いた笑みを溢す。


 笑えるだろ。

 よくこんなんで君を幸せにする、なんて言えたよな。


「は、はは……」


 とうに枯れ果てたと思っていた涙が無意識に、止めどなく溢れ出す。


 会いたい。

 家に帰ればいつもの笑顔でおかえりを言って欲しい。


 会いたい。

 くだらない事で言い争いをして、くだらない事で笑い合いたい。


 会いたい。

 君のその髪に、頬に触れたい。


 

 君にーー会いたい。



「ーー沙希」


 亡き妻の名を呼ぶ。

 気がつけば、外はぼんやりと明るみ始め、人々の生活音が聞こえ始める。


 また、君のいない今日が始まる。

 

 




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