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しろたま  作者: ぬこ
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「お持ちしました」

「ああ、悪いな」


 礼を言いながら、ちらりと見えた彼女の指先には、マニキュア一つ乗っていない。


 仕事は真面目で丁寧なのだが─と、つい心配になってしまうのは世話焼き人情家といわれる芹沢ならではかもしれない。


 ここ通報部は社屋の中でも外れの方に位置している。その為、一日を通して人の出入りも多くは無い。


 給湯室も、広い社屋なだけあって幾つか点在しており、ここ通報部のすぐ側にも小さいながら十分機能するものがある。業務部へ書類を提出しに行く事や、何らかの資材の補充で倉庫に行く事を除けば、殆ど他の部署の人間と顔をあわせることは無いと言ってもいい。


 昼休みや休憩時間など、他の部署に行っても構わないのだが、神田がそうするのを見たことは今までに無い。



 本人が面接時に希望していたのが通報部だったことと人財不足なこともあり、そのまま希望を通した形にはなったのだが、あまりにも生真面目な所を見ていると、もっとどういう職場なのかを案内してやった方が良かったのかとも思う。


 記憶をたどれば、以前は割とよく話すタイプだったはずだ。


 とはいえ、

 たまには他の部署でも見学してみるか?

 以前そう言った時は、結構です、の一言だった。



「ん、旨い」



 神田が来てから珈琲を旨いと思うようになった、と言った時、珍しくにやりと笑った表情を思い出す。あれはいい表情だった。それ以来そんな表情を見たことは無いが。


 ずずっ、と音を立ててもう一口珈琲を啜る。ふわっと広がる香りと、甘い後味が心地良い。



「ありがとうございます」



 旨い、の一言に思わず上がる口角を隠すように珈琲に口をつけ、その香りと味わいを堪能する神田。


 微かに煙る湯気の向こうでは、旧式のプリンターが書類を吐き出しているのを回収して再度目を通す芹沢。

 先程も確認した為ミスは無いが、念には念を入れるのが習慣だ。


 基本ではあるが昨今その基本が蔑ろにされているのが現状であり、だからこそこうして書類の一つに対しても基本を守る芹沢が上司である事を嬉しく思う。まず口に出す事は無いが。

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