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「これはちょっと気の毒だなぁ」
「そうは言っても、その辺の線引きはしっかりしないとですよ」
「しかしだな、後十四分二十三秒で十六歳だったっていうのはなぁ。男ももうちょっとゆっくり時間をかけてやりゃ良かったんだ」
がっつきたい気持ちもわからなくはないが、と、手元のファイルから視線を軽く泳がせて、指先を軽く動かしながら言うのは、芹沢。襟についた銀のバッジは管理職の証で、見たところ三十半ばだろう。
「問題発言です」
顔を上げて視線を送るのは、神田。紫のヘアピンで留めていた前髪が、弾みでするりと外れてしまう。もう、だから伸ばしかけって困る、などと文句を言いながら、慣れた手つきでもう一度前髪を留めなおす。
「早く認証済ませてください、でないと簡易かけられません」
簡易、とは簡易裁判の略だ。芹沢の認証が降りて初めて事件を簡易裁判にかけることができる。つまり厳密に言えば、それが完了するまで、犯罪者は犯罪者ではない。
「しかしこんな程度で晒し者っていうのもなあ」
「今のも問題発言です」
眉を吊り上げて言う神田。二十一歳で、彼氏はここ数年居ないらしい。強気で潔癖な性格な上にきっぱりとした物言いは、黙っていればそうは悪くない容貌を魅力としてアピールするのに邪魔をしていると思う。
半年前の新人歓迎会で、他の部署の男性職員から、ショート似あうね、可愛いしもてるでしょ、と笑いながら酒を勧められた時に、酔いも手伝っての座った目で、「その様な事実を自覚した事はありません」と答えたのは未だに語り草だ。更にその一件以来髪を伸ばしているのがまた彼女らしい。
最も声を掛けた男がそれなりに顔も良く、もてるタイプで女好きな事もあり、そんな男が手痛く牽制を食らったというのは他の男からしたらなかなか気分もいい。
とはいってもそれで神田に浮いた話一つ出ないのは、手痛い牽制は人が食らう分にはいいが自分は食らいたくないという気持ちの表れだろう。
「わかったわかった」
これでも入社当時よりは大分柔らかくなったんだがな、と一人苦笑しながら芹沢は左手の親指を画面にかざし、認証完了の文字が出るのを確認した。