7話 魔族との戦闘
「やってしまったなぁ~」
目の前の惨状は凄いとしか言いようがない。まるで隕石が落ちてきたみたいな状態だ。
(アイスランスって、レアーニ様の魔法の中では初級で1番威力が低い筈なんだけど・・・、まぁ、空を覆い尽くすほどの量だとこうなるか・・・、スキルも全開だとマズイな。調整出来るものは調整しておこう。)
サーチをかけみたけど、周りには全く生き物がいない。さすがにこの爆発だと驚いて逃げるよな。仕方ない、今日はここまでだ。
しかし、このままってのも後味が悪い。
(ライア様の土魔法で何とかならないかな?)
地面に手を置き魔力を掌に集める。
「大地よ!」
クレーターの部分が盛り上がり元の地面の高さになった。
「穴は塞がったけど更地だとねぇ・・・」
(そういえば、ライア様の魔法は土だけでなくて植物関係の魔法もあったよな?)
もう1度地面に手を置き魔力を流す。
「木々よ!再生しろ!」
みるみる草が地面を覆い、木が生えてグングンと大きくなった。
そんなに時間がかからず、新しい木々も周りの木と同じくらいに大きくなった。
「ふぅ、こんなものか。まぁ、再生した部分だけ新しいのは仕方ないな。それにしても本当にデタラメ過ぎるよ。俺の能力が国にバレたら取り合いで間違いなく戦争になるだろうな。いつかは勇者として名乗らないければならないけど、絶対に中立の立場を守らないといけない・・・」
(そうだ、これだけの魔力を使ったからかなり減ったと思うけど、どれだけ減ったか確認してみよう。)
魔力 : 6,990,530/7,000,000
(う~ん、そんなに減ってない・・・、普通の人の何十人分の魔力を使う魔法だけど、元が元だからねぇ~、やっぱり規格外だと自覚してしまうなぁ・・・)
【アル、そんなに気を落としたらダメよ。要はあなたの気持ち次第なんだからね。どんなに力があっても正しい事に使わなければ意味がないわよ。アルなら正しい力の使い方を分かっていると思うからね。】
(ありがとう、レアーニ母さん。元気が出たよ。)
んっ!サーチに反応がある。そんなに遠くないしかなり弱々しい反応だな。
急いで反応のあった場所に行ってみると、真っ白い犬が血だらけの状態で倒れていた。
「マ、マズイ!さっきの爆発に巻き込まれていたんだ!」
慌てて近づき状態を確認する。
(マズイな・・・、瀕死だよ・・・、本当にゴメン!)
「ヒール!」
みるみる傷が塞がり元気になったみたいだ。顔を上げて俺をジッと見ている。
(良かった・・・)
スクッと立ち上がり俺の顔をペロペロと舐めてくる。
(うわ!助けられと思っているのか?でもね、怪我させた張本人は俺だよ・・・、多分・・・)
意外と大きいな。ゴールデン・レトリーバーよりも一回りは大きい。毛並みもふさふさして撫でると気持ち良さそうだ。
(よく見たら犬とは違うな。多分、狼じゃないのかな?)
なぜか俺にとても懐いている。だけど一緒に連れて帰る訳にはいかない。
「ゴメン、何で俺に懐いているか分からないけど一緒に帰れないよ・・・」
「ク~ン・・・」
淋しそうに鳴いてもねぇ・・・
後ろ髪を引かれる思いで風を纏い浮かび上がった。上空にいる俺をずっと見つめていた。
「さよならだよ・・・」
こうして、色々とあった初めての森の訓練(環境破壊)は終わった。
その夜
マリアンヌ母さんが心配そうな顔をしている。
「アル、大丈夫だった?今日、森の奥からとんでもない音がしたからね。あれは何だったのかしら?」
「ぐふっ!」
「ア、アル!どうしたの?急にむせて・・・」
母さんが慌てて俺のところにやって来た。
「だ、大丈夫だよ、お母さん。確かにすごい音だったよね。僕には分からないけど、大きい何かが落ちたのかな?」
(すみません、犯人は俺です・・・)
「私にも分からないわね。アル、絶対に森に近づいたらダメだからね。あんな大きな音だと森の動物が驚いて大騒ぎになっているから危ないわよ。」
「お母さん、分かったよ。ははは・・・」
思いっ切り冷や汗が出てきてしまったよ。反省・・・
1週間後、今日は母さんと一緒に森の入り口に来ている。
「アル、本当はあなたを森に連れて行きたくなかったけど・・・、でもね、あなたはもう5歳、これからはあなたも色々と手伝いをしなければならないからね。今日は薬草取りを手伝ってね。」
「うん!頑張る!」
母さんが心配そうに森を見ていた。
「もう森の中も大人しくなったと思うのよねぇ~、まぁ、森の中といっても入り口近くだからそんなに危なくないか。」
2人で森の中に入って行った。もちろん母さんに危険が無いようにサーチのスキルを使って警戒は怠っていない。
200mほど奥に入ると母さんが何かを見つけたようだ。
「アル、コレよ。この葉っぱだから覚えてね。この葉を煎じて飲むと気分が落ち着くの。他にもそのまますり潰して傷口に塗ると傷の治りも早いのよ。常に家に備蓄しておかないとね。」
「うん、分かっ・・・」
何だ!サーチに警告が!とてつもなく強力な何かが高速で近づいている!絶対に危険な存在だ!
【アル!早く逃げて!とてもマズイわ!】
(ニアーナ母さん!)
ニアーナ母さんが慌てている。それだけの危険が迫っているのか!
「お母さん!逃げよう!何かとても危ない気がする!」
しかし、マリアンヌ母さんは不思議そうな表情だ。
「アル、何を言っているの?森の中はこんなに静かなのに・・・」
「お母さん!だから危ないんだ!周りには動物が1匹もいない!みんな何かに恐れて逃げているんだよ!」
俺の必死な態度に母さんも事態が分かったようだ。
「わ、分かったわ。アルの言う通りみたいね。ちゃんと私の手を握っていてね。出口まで走るわよ。」
2人で一目散に森の出口まで走る。しかし、唐突にそれは現われた。
「ほぉ、人間か・・・」
森の出口に続く道の場所で俺達の前に男が立っている。いきなり上から降ってきたように現われたから、俺と同じように飛行が出来るのかもしれない。高速の移動も納得出来る。
「まさか・・・、魔族が・・・」
母さんがボソッと呟いた。
(魔族だって!)
見た目は人間の男だけど肌の色が違い薄い紫色をしていた。
(鑑定!)
名前 : ザーコ(男)
種族 : 魔族
体力 : 不明
魔力 : 不明
STR(力) : 不明
INT(知力) : 不明
AGI(素早さ): 不明
DEX(器用さ): 不明
(くっ!全然分からない!)
【アル!魔族は別の女神の加護を受けているの。だから、私の力が及ばないから鑑定は無理なの!お願いだから逃げて!アルの全力なら逃げ切れるはずよ。】
(だ、だけど、そうしたら母さんが!)
【うっ!どうしたらいいの!私が手を出せないなんて、あんまりよぉおおおおおお!】
ニアーナ母さんが絶叫している。
魔族の男がニタニタしている。
「こんなところに人間の女がいるとはな。しかも特上の美しさだ。ひゃはははぁあああああ!お前は俺の奴隷になれ!殺すなんて勿体ないからな、飽きるまでは可愛がってあげるぞ。」
「しかし、こんな辺鄙なところに人間が住んでいる場所があったとは面白い。ガンツ様に言われて王国に探りを入れに来たが、思わぬオモチャが手に入った。じっくりといたぶって殺すとしようか・・・」
(こいつ・・・、人間をオモチャとしか思ってないのか?)
「チビは要らないからな。お前だけ生かしておいてやる。」
母さんが俺の前に出てきた。
「させません!アルは私が命をかけても守るわ!」
掌を魔族の方に向け呟き始めた。
「火の女神フレイヤ様の加護よ、我に力を・・・、マナよ私の元に集い悪を打ち破る力となれ・・・」
「ファイヤー・ボール!」
サッカーボールの大きさはありそうな火の玉が母さんの掌の前に出来上がり、一直線に魔族目がけて飛んでいく。
母さんが魔法を使えたなんて・・・
「無駄だ。」
火の玉が魔族に当たる直前にフッとかき消えた。
「嘘・・・、魔法が無効化されるなんて・・・」
俺から見ても母さんが動揺している。
ジリジリと魔族が近づいてくる。
「ガァアアアアアア!」
俺の後ろから何か白い塊が飛び出し、魔族に襲いかかった。
(あれはあの時の狼!)
「五月蠅い!犬め!」
魔族が狼に掌を向けると衝撃波のようなものが飛び出した。
「キャイィイイイイイイイイン!」
白い狼が10メートル以上吹き飛ばされてしまっている。しかし、ヨロヨロと立ち上がり魔族を睨みつけていた。
「何だ、あの時の犬っころか・・・、また同じように切り刻んで欲しいのか?いくらフェンリルでも子供のお前だと遊び相手にもならんぞ。あの時はすぐ近くで爆発が起きたから俺も吹き飛ばされてしまったが、今度はそうはいかないからな。一体、何だったのだあの爆発は?俺も危うく死にそうになったし、回復するまで1週間かかるとは・・・」
(あの爆発?1週間前?切り刻まれた?)
まさか・・・
(あの狼は俺の魔法で吹き飛ばされた訳では無いんだ!あの魔族に大怪我をさせられたのか?それを俺が助けた・・・、何で俺に懐いていたのか分かった・・・)
魔族が再び俺達をニタニタと見ている。いや、俺達でなく母さんを見ている。
「女、俺に逆らうなんて無駄だと分かっただろう。まぁ、お前達のような下等生物が俺達魔族に逆らうなんて無駄だけどな。しかし、何で魔王様は人間を根絶やしにしないのだ?我らの力があればこんなゴミなどあっという間に片付けられるのに・・・」
「いかん、魔王様のお心に疑問を持ってしまってはいけない。だけど、オモチャにする分には構わないな。」
「黙りなさい!」
母さんが魔族を睨みつけている。
「私達人間は決して魔族に負けない!例え私が果てようとも、必ず私の意思を継いであなた達を滅ぼします!それが人間の強さよ!」
そして俺の方を見て微笑んだ。
「アル、絶対にあなただけでも逃がすからね。」
ニタニタしていた魔族がギロッと俺達を睨んだ。
「下等生物がぁぁぁ・・・、調子に乗りやがって!」
「気が変わった。女、お前は奴隷にするつもりだったが、やっぱり殺す。ひゃはははぁあああああ!無残にな!可愛い悲鳴を上げて俺を楽しませてくれぇええええええ!」
「バカにしないで!あなたみたいなゲスに上げる悲鳴なんてないわ!」
母さんも負けじと魔族を睨みつけていた。
「黙れぇえええええ!ガキ諸共死ねぇえええええ!」
魔族の頭上に巨大な黒い玉が出来上がり、高速で俺達の方に飛んでくる。
母さんが俺をギュッと抱きしめた。母さんが泣いている。
「アル、弱い母さんでゴメン・・・、あなたを守れなかった・・・」
(母さん、そ、そんなぁああああああああああああ!)
俺が絶叫した瞬間、景色が変わった。いや、変わっていないが周りが止まって見える。止まってはいない。スローモーションのようにゆっくり動いているんだ。
【アル・・・】
(ニアーナ母さん!これは?)
【アルが真に覚醒したのよ。マリアンヌさんを守ろうとした気持ちにね。今はあなたの脳の処理速度が最大になっているわ。だから周りが遅く見えるのよ。ただし、覚醒したばかりだからそんなに長く維持出来ないけどね。】
【アル!】
(何、ニアーナ母さん?)
【思い切ってやっちゃいなさぁあああああああああいっ!マリアンヌさんに見られても構わない。全責任は私が取るわ!魔族なんかに負けるなぁあああああああああああ!】
【行っけぇええええええええええええええええ!】
(うん!分かった!)
黒い玉が目の前まで近づいてきた。ゆっくり進んできたけど、急に元のスピードで迫ってくる。
いけない!処理速度が元に戻っている!
「ライト・シールド!」
輝く盾が正面に出来上がる。黒い玉はシールドに激突し消滅してしまった。
「な、何だと!」
魔族が驚愕の表情で俺達を見ている。
「ヒール!」
白い狼の全身が輝いた。
「ワオン・・・」
「大丈夫だよ。これで傷は全快したからね。それにありがとう、僕達を助けてくれようとしたんだね。」
魔族をキッと睨んだ。
「色々とやってくれたよね・・・」
「人間をオモチャのようにして殺す・・・、母さんを奴隷にする・・・、気にくわないから殺す・・・」
「僕がそんな事させない・・・」
「お前は許されない事をした・・・、大好きな母さんを泣かせた・・・」
「絶対に許さない!リミッター!解除!」
体の奥から力が溢れてくる。
「アイスランス!」
10本程の氷のつららが魔族に向って飛んで行く。
しかし、魔族の手前で消滅してしまった。
「バカめ!魔法など通用しない!」
俺の気迫で狼狽えていた魔族だったが、魔法が無効化されている事で自分が有利になったと思ったみたいだ。
「お前の魔法は通用しない。身体能力でも下等生物が我ら魔族に敵う訳が無いのだ!」
「そうかい・・・」
何故だろう?にやけてしまう。
(今は母さんが近くにいるから加減をしないと・・・)
「それじゃ、もう1度だね。アイスランス!」
100本以上の氷のつららが俺の周囲に出現し、一斉に魔族目がけて飛んで行く。
ズドドドドドドド!
「うぎゃぁああああああああ!」
土煙が上がり魔族の悲鳴が聞こえる。煙が晴れるとボロボロになった魔族がフラフラになって立っていた。
「バ、バカな・・・、人間ごときが俺の障壁を突き破るなんて・・・」
「どうやら、アンタのスキルは魔法無効化みたいだったね。でも無効化にも限度があった感じだよ。それ以上の攻撃には無効化出来なかったんだろうね。」
ギリギリと歯を鳴らしながら魔族が俺を睨みつけている。
「ふざけるな・・・、人間ごときが俺に敵う訳がないんだ・・・」
(現実を見なよ、俺の魔法でボロボロだぞ。それともまだ隠し球があるのか?)
グッと拳を握って俺に殴りかかってきた。
「人間ごときが生意気だぁあああ!俺の前では人間は血の詰まった皮袋だ!弾けろぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
パシッ!
魔族のパンチを俺の掌で受け止めた。
「し、信じられん・・・、人間のガキが俺の拳を片手で受け止めただと・・・、お前は何者だ!」
「僕は只の人間だよ。ちょっと変わっているけどね。」
「魔族は簡単に勝てないから戦うなと母さんに言われていたけど、アンタ、そんなに強くないね。初めて魔族に会ったから慌てて冷静さを欠いていたよ。失敗、失敗・・・、戦いはクールにならないとね。」
魔族の拳を握った手に力を入れると「メキョ!」と音を立てて拳が潰れた。
「うぎゃぁああああああああああああああああ!」
魔族が潰れた拳を押えながら悶えている。
「隙だらけだよ!」
間髪入れずに腹にパンチを叩き込んだ。
「ぐひゃぁあああああああ!」
何かヒキガエルが潰れたような悲鳴を上げて吹っ飛んでいく。
「アンタが悲鳴を上げる羽目になったね。」
「それじゃ、トドメだ。」
右手を前に差し出す。
「シャイニングブレード!」
光り輝く剣が俺の手に握られた。
一瞬で魔族の前まで移動し剣を上段に振りかぶった。
「一刀両断!」
刀身が魔族の脳天から縦に一直線に真っすぐ切り裂いた。
「バ、バカな・・・、俺が人間に負ける・・・」
そう呟くとボロボロと体が崩れ砂となって消えた。
「ふう・・・」
「アルゥウウウウウウウウウウウウ!」
母さんが駆け寄って俺をギュッと抱き締めた。
「良かったぁあああ!良かったぁあああ!アルゥゥゥ・・・」
俺を抱き締めながら大声で泣いていた。
白い狼が俺に近寄り頬をペロペロと舐めてくれていた。
(う~ん、くすぐったいよ!)
(さて、母さんにはどうやって言い訳しよう・・・、ニアーナ母さん!助けてぇえええ!)
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