4話 本当に転生していた2
(そうだ!ニアーナ様がいるから聞いておかないと・・・)
「ニアーナ様、お聞きしたい事があります。」
「どうしました?もしかしてぇ~、残された家族の事ですかぁ~?」
嬉しそうにニアーナ様が俺に微笑んでくれている。心を読んでいるから俺が言いたい事は分かっているみたいだ。敢えて意地悪そうな口調で言ってくる。
やっぱり残された家族がどうなったのかがとても気になる。
「安心して下さい。おじい様がちゃんとしてくれましたよ。」
そう言って、モニターの様な画面が現われた。
そこに映っていたのは・・・
『お父さん!今日の遊園地は楽しかったね。』
ニコニコと笑っている陽菜だった。
最後に見た時よりもかなり成長している。どうやら俺が今の世界に来てから同じくらいの時間が経過している感じだ。
あの時は6歳だったから今は9歳かな?美佐子に似てキレイになってきた。
陽菜は美佐子と男性の間で3人揃って手を繋いで楽しそうにしている。
ズキッ!
胸が痛くなった。
(分かっていたけど・・・、陽菜がいくら幸せでも別の男の子供として生れてしまったのだな。だけど、それは俺が望んだ事だ。美佐子と陽菜には悲しい思いはさせたくない。)
画像のアングルが変わった。今度は陽菜を見ながら微笑んでいる美佐子の顔が映っている。
(美佐子も幸せそうだ。良かった・・・)
またアングルが変わって男性の顔が映し出された。
「う、う、嘘だ・・・」
思わず声が出てしまった。
「何で俺がいる!俺はここにいるんだぞ!」
その顔は間違い無く俺だった。見間違う訳が無い!
そしてニアーナ様を睨みつけてしまった。
ニアーナ様は相変わらず微笑んでいる。
「ふふふ、3歳児のあなたに睨まれても怖くないですよ。それにこんな子供の姿で大人の口調で話されてもねぇ~、ビックリしました?あの男性は紛れもないあなた自身です。」
(どうして?)
「ドッキリ大成功ですね。おじい様がちゃんとしてくれたと言ったじゃないですか。」
「説明するとですね、あなたが轢かれるちょっと前におじい様が因果律に手を加えたのです。全く同じ世界を創造し、あなた以外の全てを同化させました。そしてあなたを世界から引き離し、本来の因果律のあなたと入れ替えたのです。それであなたが死ぬ事ない本当の流れの世界になったのですよ。引き離されたあなたは今のあなたと同化する事になったの。」
「まぁ、いわゆるタイムパラドックスの応用ですね。分かりました?」
(いや、全然分からないけど・・・、でも、そんな事が可能なのか?神様って・・・)
「ただ、問題がありまして、入れ替えられたあなたと同化したあなたはもう元の世界に戻れなくなってしまいました。元の世界で生まれ変わる事も許されません。同じ魂が同じ世界に存在する事は出来ませんからね。本当はこうやって映像を見せる事すらダメなんですよ。視線を合わせるだけでも魂が接触する事になってしまい、対消滅してしまいますからね。今回の映像は何十にもフィルターをかけて魂が接触しないように対処する事を条件に、おじい様から特別に許可をもらいましたけど・・・」
(か、構わない・・・、今の俺が元の世界に戻れなくても・・・、だって、もう1人の俺が2人を幸せにしてくれるのだから・・・)
ポロポロと涙が流れてくる。
「あらあら、こんな子供の姿で泣いていると、駄々をこねて拗ねて泣いている子供に見えますよ。」
ニアーナ様が俺を抱き上げ優しく抱いてくれた。
とてもいい香りがしてくる。
「ふふふ、母親ってこんな感じなんですね。私も子供が欲しくなっちゃいますよ。」
そっと俺を下ろしてくれた。
「これであなたの心残りは無くなりましたよ。それに、あなたには私の世界での新しい人生があるじゃないですか。一人ぼっちでない、ちゃんと両親がいる世界がね。これからは勇者としての義務だけで生きる事なく、あなた個人の人生として楽しんで下さい。」
「は、はい!」
心がとても軽くなった気がした・・・
「それに、おじい様があの世界でもう1人のあなた達を見守るとも話してくれましたよ。あの世界で最高神の加護が付くなんて本来はあり得ませんからね。」
本当に心残りが無くなった。
美佐子・・・、陽菜・・・、俺はこの新しい世界で頑張るよ。もう2度と会えないけど絶対に忘れない・・・
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
---------- ニアーナ視点 ----------
戻りましたね。
それにしても驚きました。あれだけの加護が付く存在は初めての事ですし、どれだけの存在になっているのか不安でした。
封印した記憶を解放し覚醒した彼のステータスを見た時は、思わず息が止まりそうになるくらいに驚きましたけど・・・
彼には話していませんでしたが、あのステータスは神のレベルのステータスです。正直、彼は神々の仲間入りになっても不思議ではないくらいです。
もう少し成長すれば神殺しの称号まで手に入れられるかもしれません。
でも彼はそんな事はしないでしょうね。
彼は今までの勇者とは違いました。特に前の世界の勇者は最低でしたね。
前世は真面目な人間だと思って選びましたが、力を手に入れた途端に人間が変わったみたいに傲慢になってしまい、魔王や魔族から人間を守るべき立場なのに弱い者を虐げていましたからね。
その時の魔王よりも質が悪かった・・・
身を引き裂かれる思いで魔王や人間諸共あの世界を滅ぼした事は忘れません。
あの世界の人間は私の子供みたいなものでしたから・・・
そのような判断を下すしかない女神の立場を恨んだ時もありました。
フレイヤの言う通り、人間の本性はあんなものなんだと半ば諦めていました。
もうあんな思いはしたくないと思いながら再び世界を再生したのですが、またもや悪夢が襲ってくるなんて・・・
2回勇者を送り込みましたが、この時は周りの人間が勇者を堕落させてしまいました。
勇者を手元に置きたいが為に贅沢三昧の毎日で鍛錬をする事なく、周りにおだてられ自分は最強だと思い込み、初期値で魔王に挑むなんて・・・
私が散々注意していたのにもかかわらず、周りの人間の甘い言葉に踊らされているのを見ていると、本当に腹が立ちました。
その時もフレイヤが「やっぱり人間の男は碌なものではないわね。」と呆れていた表情が思い出されます。
だからフレイヤは魔法は男性には一切授けませんでしたね。
あんな男達を見ていると男嫌いになる理由も分かります。
それにしても彼は本当に不思議な人です。
あのおじい様がとても気に入ってしまうとは思いませんでしたし、ましてやフレイヤ以外の私の家族まで気に入ってしまうなんてね。
特にレアーニがかなり気に入っているみたいです。
確かに残された家族の為に必死におじい様に懇願しているあの目には、私もドキリとさせられました。
あんな強い意志を感じる目は初めてです。
私の世界でも自分を犠牲にして他人の為に命を投げ出した人間もいましたが、やはり彼ほどの意志は感じられませんでした。
だから、私も彼なら・・・と思って勇者をお願いしたのですが・・・
どうやら今回は期待出来そうです。
あれだけの能力を持ちながら一切自惚れる事も無く、謙虚な態度は素晴らしいです。
彼の成長が楽しみですね。
悪い人間には引っかからないように私も目を光らせてはいけないですね。
もう失敗は出来ないから・・・
「姉様!」
「あら!フレイヤじゃないの、どうしたのかしら?私に一体何の用?」
ズカズカと私の方に来ますね。心なしか怒っている感じですけど・・・
「姉様、何で彼が来ていたのに私に伝えなかったのですか?あの時の事を謝りたいと言っていたでしょう。」
「もしかして、忘れてました?」
あっ!忘れていました。
フレイヤの視線が怖いです。
「やっぱり忘れていたのですね。でも珍しいですね、姉様がうっかりするなんて・・・」
理由は分かります。だって、あんな規格外のステータスを見せられてしまいましたからね。さすがの私でも慌てましたから。
「フレイヤ、ごめんなさい・・・、ちょっと慌てる事があってね・・・」
そしてフレイヤに彼のステータスを見せてあげると、彼女も開いた口が塞がらなくなってましたよ。
分かりますよ、その気持ちはね。
「ね、姉様・・・、何かの冗談ですよね?こんな人間って存在するのですか?」
「本当よ。これが彼のステータスよ。彼自身も驚いていましたけど・・・、でもね、彼は力を手に入れても変わらなかったわ。今までの転生者とは全く違うわね、それに、こんな異常事態はお構いなしに彼は残された家族の事を気にしていたわ。おじい様がしてくれた事を話したら大泣きよ。彼にとっては自分の事よりも家族が1番だったのでしょうね。」
あら、フレイヤが落ち込んでいるわ。
「そっかぁ・・・、私は本当に酷い事をしてしまったのね・・・、彼の最も大切なものを侮辱してしまった・・・」
「謝っても許されないかもしれないけど、私には謝る事しか出来ない・・・」
「フレイヤ、彼は心の狭い人間ではないと思うからね。ちゃんと謝れば大丈夫のはずよ。」
「ありがとう、姉様・・・」
フレイヤはあの時から変わったわ。それまでは感情が先走っていたけど、今ではちゃんと考えてから行動するようになりました。今までの自分がどれだけ子供じみていたのか分かったみたいね。
この調子で立派な女神になってもらいたいものだわ。彼女が変わるきっかけを与えてくれた彼には感謝ね。
でもねぇ~、事ある度に彼の事を話すのは勘弁して欲しいわ。それも楽しそうにね。
フレイヤが彼の事を楽しそうに話していると何故でしょう?
私の心がチクッと痛くなる・・・
---------- フレイヤ視点 ----------
「はぁ~、姉様のバカ・・・、ちゃんと謝ろうと思っていたのに・・・」
彼は姉様の使徒だから私から直接念話で話する事も出来ない。姉様があの空間に呼び込んだ時だけが謝るチャンスだったのに・・・
あの時にレアーニ姉様から言われた事が私の心を変えたわ。
それまでの私は心が幼かった。女神になっているのにそんなのでは誰も救えない事を理解した。
母様や姉様達の様な立派な女神になるにはどうするか真剣に考えるようになったわ。
まぁ、カリス姉様の様になってはいけないことはちゃんと理解出来る。
あれから彼の事をおじい様に頼んで教えてもらった。
彼には父親がいなかった。シングルマザーの子供で小さい時から両親がいる家庭を羨ましがっていた。しかも彼の母親は自分の子供の面倒をあまり見る事もなく遊び回っていたみたいで、彼はいつも家では1人ぼっちでいたと・・・、また、父親がいないとの事で周りの心ない子供から虐めに遭っていたとも・・・
突然、ある日母親が帰って来なくなり、何日も1人で部屋で待っていたけど帰って来なかった。
餓死寸前のところで近所の人からの通報で助け出され、その後は施設で育った経歴をおじい様から教えてもらった。
だから両親がいる家族というものに憧れているのでしょうね。自分が家族を持った時に父親という責任をとても強く感じていたのでしょう。
そんな事情も知らず私は彼の家族を侮辱した・・・
しかも、因果律の狂いで本来は死に別れする事も無かったのに・・・
あの時の私は本当にバカだったわ。只でさえ突然の別れのショックで落ち込んでいた時に傷口に塩を塗り込むような真似をしてしまった・・・
レアーニ姉様に言われたように、私が逆の立場だったら最大級の炎で相手を消し炭にして再生も出来ないようにしていたでしょう。
それだけ怒る気持ちも分かるわ。
でも彼は私を叩いた事を謝っていた。私が悪いのに・・・
そんな男は初めて・・・
それに・・・
確かに頬は痛かったけど、なぜか痛みの後に温もりを感じたわ。不思議な感覚だったわ。
まるで父親が子供を叱る時みたいにと思ったのは考え過ぎ?
父様は私を1度も叱った事が無かったけど、悪い事をして叱られるってあんな感じかもしれない。
時々、人間界を覗き見するけど、子供が親から叱られた時と似ているみたいだし。
あれからずっとあんな悲しい目をした彼の事が気になって仕方がない・・・
でも、彼にはずっと想っている家族がいる。
誰も入れる余地が無いくらいに・・・
何でだろう?彼の家族がとても羨ましく思う。私もあんな家庭を持てたらなぁ・・・
旦那様は勿論・・・
何で彼の顔が思い浮かぶの?私は彼に嫌われているかもしれないのに・・・
彼の事を思うと胸が苦しくなる事があるの。
不思議、こんな気持ちは初めて・・・
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気が付くと部屋の光景が目に入ってきた。
(お!元の世界に戻ったみたいだ。)
トコトコと部屋の中を歩き回ってみたがベッドと簡単な木のテーブルと椅子、そんなに大きくないタンスみたなものしかなかった。
窓はガラスなんて無い。観音開きの木の雨戸みたいなものが取り付けられ、日光が入らないようになっているみたいだ。
窓を開け外の風景を見てみた。目の前には地平線の彼方まで続く森林が広がっていた。
(うわぁ~、こんな風景は見た事が無い。外国の写真でなら見た事あるけどそれ以上に広大な森林だと思う。やっぱり地球ではないんだな。それに空気も全く違う。今まで住んでいた都会の空気とは全く違って、こんなに澄み渡った空気は初めてだ・・・)
美佐子や陽菜にも見せたかったなぁ・・・
いかん!もう俺の中では別れは済ませた。俺はこの世界の人間として生きていくと決めたのだからな。
(さて、上手く偽装はされているかな?)
ステータスを確認してみる。
名前 : アルバート(男) 人間 3歳
職業 : 無職
レベル : 1
体力 : 5/5
魔力 : 0/0
STR(力) : 2
INT(知力) : 2
AGI(素早さ): 2
DEX(器用さ): 2
魔法 : 無し
スキル : 無し
加護 : 無し
(よし!問題無し!)
少し歩き回ってからベッドに戻り横になってボ~としていた。
(本当に転生したんだなぁ~、ニアーナ様は勇者の義務だけに囚われないようにと言われたけど、これからどうしよう?)
(まぁ、今は子供だし、子供として楽しんでみようか。)
ドアの外からドタドタと音が聞こえた。
バァアアアアアン!と派手な音を立ててドアが開く。
ビックリして思わず起き上がってしまった。
慌ててドアの方を見ると1人の女性が口に手を当て、ワナワナ震えながら俺を見ていた。
「アルゥウウウウウウウウウウウ!」
いきなり飛び込んできて俺を抱きしめポロポロ涙を流しながら見つめていた。
「お母さん・・・」
自然に言葉が出てしまった。すると更に強く抱きしめられる。
「良かった!目が覚めたのね!2階から物音がしたから、もしかして起きたのかと思ったわ。」
ジッと俺の顔を見つめていた。
「マリー、どうした?すごい勢いで寝室に行ったけど・・・」
ドアの向こうから金髪角刈りの男性が顔を覗かせていた。
抱きしめられている俺を見つめると、慌てて俺のところまで走ってきて母さんと一緒に抱きしめてきた。
「アル!良かった・・・、ずっと目を覚まさないかと思った・・・、お前に何かあったら父さんは・・・」
母さんと一緒に大声を出して泣き始めてしまった。
【ふふふ・・・、思い出した?今のあなたの両親よ。】
(はい!思い出しました。そして、とても大切にされているって!)
【良かったわね。今のあなたは子供なんだから思いっきり甘えなさい。前世で叶わなかった親からの愛情を味わいなさいよ。それではこの世界をよろしくね、勇者様。】
前世の俺には父親がいなかったし母親からも捨てられた。でも、今は両親がいる。そしてたっぷりの愛情を注いでくれている。こんな嬉しい事はない!
異世界に転生してしまった俺だけど、淋しくない。
だって、こんなに素晴らしい両親がいてくれるから・・・
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