13話 女神降臨
「う、嘘だよな・・・、フレア・・・」
フレアを貫いた剣を握った腕が黒い空間の中に戻り、その空間が消滅した。
糸の切れた人形の様に倒れピクリとも動かない。
(そ、そんな・・・)
慌てて駆け寄った。
「ヒール!」「ハイ・ヒール!」「パーフェクト・ヒール!」
(嘘だ、何で目を覚まさないんだ?傷も塞がらない!)
「癒しの水!」「奇跡の水!」
「ダメだ・・・、どうしてなんだよ・・・」
【アル・・・、私やレアーニの回復魔法は生きている者にしか効果はないのよ・・・、その子は即死だった・・・、死から蘇らせる事の出来る魔法は火の魔法のみ・・・、うっうぅぅぅぅ・・・】
母さんが泣いている。
僕はまだこの状況を信じたくなかった。
フレアが殺された・・・
僕を庇って・・・
「そ、そんな・・・、何でフレアが犠牲にならなければいけないんだ・・・」
僕の心の中からどす黒い感情が湧き上がって来る。今まで経験した事の無い感情だ。
(これが憎しみ・・・、もう抑えられない・・・)
【アル!ダメよ!憎しみで戦ってはいけない!】
【ダメだよ、母さん・・・、もう我慢出来ない・・・、ごめんなさい・・・】
その瞬間、僕の意識が途絶えた。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
アルが大声で叫んでいる。そしてガリーをギロッと睨んだ。
「貴様がフレアを殺したのか・・・」
あまりの気迫にガリーもたじろぐ。
「ふん、人間風情が1人2人殺しても良いだろうが!どうせ害虫みたいに次から次と湧いてくるのだからな。お前もあのガキと同じところに送ってやる!」
強気で言ってはいるが、ガリーは大量の冷や汗をかいている。
「こ、この俺が・・・、上級魔族の俺が人間に恐怖しているだと・・・、ここは逃げた方が・・・」
ガリーの目の前に黒い空間が出現したが、出現した途端にひび割れ「パリィイイイン!」と甲高い音を立てて消滅する。
アルが憤怒の形相でガリーを睨んでいる。
「ディスペル!」
「この魔法の前ではどんな魔法もスキルも無効化する。俺がお前を逃がすと思うか?お前は楽に殺さん・・・、徹底的に死の恐怖を味わせて殺す!」
「何なんだ!このガキは!さっきの殺気とは桁違いだ!これだけの殺気は魔王様に匹敵する・・・、俺は起こしてはいけない存在を起こしてしまったのか?」
「だが、俺は死なん!死ぬのはお前だ!ファット!ヤツをけん制しろ!俺が隙を付いてトドメを刺す!」
ファットが頷いた。
「わ、分かりました!エンペラー!あのガキを殺せ!」
オーガ・エンペラーがアルの前に立ち塞がり、棍棒を振り上げた。
「邪魔だぁあああああああああ!」
右手をスッと前に突き出す。
「ブラックホール!」
アルの掌から小さな黒い玉が飛び出す。その玉がオーガ・エンペラーの胴体に当たった。その瞬間、オーガ・エンペラーの体がひしゃげた。
「ギャァアアアアアア!」
オーガ・エンペラーが悲鳴を上げる。バキバキと骨が折れる音が響き折り畳まれるようにして黒い玉に吸い込まれていった。
ファットが大量の冷や汗をかいていた。
「バ、バカな・・・、エンペラーが瞬殺だと!それにあの魔法は闇の上級魔法・・・、アイツは一体いくつの属性の魔法を使えるのだ?いくら勇者でもあんな規格外はあり得ない!」
アルがゆっくりとガリーのところまで歩いている。
ガリーはヘビに睨まれた蛙の様に動けず、膝立ちになってガタガタしていた。
アルがニャッと笑う。
「どうだ?動けまい。威圧を最大限にかけているから恐怖で硬直しているからな。まぁ、それ以上のプレッシャーをかけてしまうと貴様の心臓が止まってしまうと面白くないし、ジワジワと殺せないからギリギリで生かしてあるけどな。」
そして目の前に立って頭を鷲掴みにする。
「や、止めて下さい・・・、もう人間は襲いません、助けて・・・」
「何を今更命乞いをしている。立場が逆になっただけで、ここまで腰抜けになるのか?今まで貴様は何をしてきた?人間を娯楽として殺してきたのだろう?今度は俺が貴様にする番になっただけの事だ。諦めろ。」
アルがそう言ってガリーの腕を握った。バキバキと骨が折れる音がする。
「うぎゃぁあああああああああ!」
ガリーが堪らず悲鳴を上げた。
しかし、アルはニヤニヤ笑っている。
「何だ?魔族は人間よりも遥かに強靭ではなかったのか?俺が軽く握っただけで骨が砕けるなんて脆すぎるぞ。ちゃんと牛乳を飲んでいるのか?」
そのまま力任せに腕を引きちぎった。
再びガリーが悲鳴を上げる。
「ほら、自慢の再生能力はどうした?早く再生しろよ。」
鷲掴みにしたままの状態で頭を地面に叩きつけた。
「げひぃ!」
顔面を地面に陥没させたガリーがピクピクと痙攣している。
「おや?気を失ってしまったのか?仕方ない、目を覚ましてあげるよ。」
アルが片足を上げて、ガリーの足を踏みつけた。
ドゴォオオオオオッン!
アルの踏みつけた足を中心にクレーターが出来上がった。もちろん、ガリーの足は千切れてしまっている。
「はひぃ・・・、はひぃ・・・」
ガリーが目を覚ましたが既に虫の息の状態になっている。
再びアルが頭を鷲掴みして持ち上げた。
「さて、俺のパンチにどこまで耐えられるかな?」
「フレアの仇だぁあああああああああああああああああああああああああ!」
アルが泣きながらガリーをサンドバックの様にして殴り続けていた。
「アル・・・、止めて・・・、憎しみの力で戦わないで・・・、私の声はもう届かないの?」
姉様が泣いている。それにアルのあの圧倒的な力は何?見ている私も怖い・・・
「姉様・・・」
「フレイヤ・・・、私はどうしたら良いの?アルがあの憎しみの力を更に暴走させたら新しい魔王が誕生してしまう・・・、そうなると、再びあの世界をリセットしなければならない・・・、そんなの嫌・・・」
姉様が私の胸に飛び込んで泣いている。私もどうしたら良いのか分からない。
「えっ!」
(誰?誰か私を呼んでいる。一体・・・)
「姉様、誰かが私を呼んでいます。とても必死な感じで・・・」
「フレイヤ、あなた、何を言っているの?私には何も聞こえないわ。どうなっているの?」
「私にもよく分かりません、ですが、確実に聞こえます。声の導きに私は行きます。」
真っ暗な世界ね。
そうか・・・、私は死んでしまったんだ・・・
アル・・・、もっと話したかった・・・、もっと好きって言いたかった・・・
女神様・・・、私はどうなってもいいです。アルを助けて下さい。お願いします・・・
何?急に目の前が明るく・・・
えっ!私の目の前に真っ赤な髪の女の人が立っている。何てキレイな人・・・
私を見て微笑んでくれた。
「私を呼んでいたのはあなただったのね。」
また明るくなって・・・
今度は金色の髪の女の人が・・・
この人は!覚えている・・・、一瞬だけどアルの傍にいるのが見えた女神様だ!
「フレイヤ!いきなり消えてどうしたの?ここに何の用があって・・・」
『フレイヤ』!もしかして、目の前の赤い髪の人が女神フレイヤ様?
金色の髪の女神様が私に気付いて驚いた顔をしているわ。
「あなた、まさかフレア・・・、何でここに・・・」
咄嗟に私は土下座をしてしまった。
「お願いします!女神様!アルを!アルを助けて下さい!私は死んでいるからもうどうなってもいいです!アルさえ助かれば・・・」
急に私の体が白く輝き始めた。何が起きているの?
そして、金色の髪の女神様がさっきよりも驚いているわ。
「これは!信じられない・・・」
「姉様、そんなに驚いてどうしたのですか?この子の輝きに何か意味が?」
「初めて見ました。フレアのスキルは天界でも伝説と言われているスキル『人身御供』・・・、このスキル保有者は自身の命と魂を神に捧げて願いを叶えるスキルよ。フレアは既に命を捧げているわ。アルを守る為に自分の命を犠牲にしたの。既にスキルは発動寸前になっているわ。後は魂を捧げるだけ・・・、フレイヤ、フレアの魂はあなたが受け取りなさい。あなたにはその資格があるわ。フレアの魂と同化して、人間フレイヤとして人間界で生きなさい。アルと一緒にね。フレアがそのように願いをするなら叶うわ。」
「姉様、本当に私で良いのですか?」
「えぇ・・・、この方法が義体に頼らず神が人間界で顕現する唯一の方法なのよ。一時的な憑依や制限の多い義体とは違うわ。さすがに人間界で天界の力を100%発揮するのは無理だけど、今のアルくらいの力は余裕で発揮出来る。そして、人間の成長は未知数・・・、あなたとフレアの心が1つになればどこまでも強く成長出来ると思うの。人間界では2人の魂は同化してしまうけど心配しないで、フレイヤが人間としての生が終われば再び女神フレイヤとして分離して元に戻って来ますからね。そして、神に魂を捧げたフレア、あなたの魂も昇華して私達の妹として女神の仲間入りになるのが約束されているから安心して。」
そんなスキルを私が持っていたの?信じられない・・・
でも、アルが助かるなら私は何でもする。
しかし・・・、金髪の女神様はアルと一緒にいたのは見ているから、アルの事は知っているのは分かるけど、何でフレイヤ様をアルと一緒にしたがるの?
「あら、事情を説明しなくてゴメンね。アルはあなたの想像通り勇者なのよ。そして、私は天界でアルの母親になっているニアーナよ。」
えっ!二、ニアーナ様!最高の女神様では!
「し、失礼しました!」
思わず深々と土下座をしてしまう。
しかし、ニアーナ様はニコニコ微笑んでくれているわ。私のさっきまでの態度は失礼じゃなかったのかな?
「ふふふ、そんなに畏まらなくてもいいわよ。将来は私の妹になるからね。それにしても神を越える奇跡ってあるのね。アルを好きな者同士の魂が一つになるなんてね。将来、アルも世界を救ったら天界の神の仲間入りになるけど、その時は大変ね。まぁ、天界も複数の妻を持てるから、その時はその時ね。」
「嘘・・・、フレイヤ様がアルを好きだなんて・・・」
私の言葉を聞いたフレイヤ様が真っ赤になっている。本当なんだ・・・
「フレイヤ様、アルの事はお願いしますね。」
しかし、フレイヤ様がモジモジしているけど何で?
「私、彼に酷い事を言ったから嫌われているかもしれない・・・、だからね、あなたの想いに応える自信が無いの・・・、いきなり人間になって彼と一緒になるなんて想像もしてなかったから・・・」
「フレイヤ、何度も言っているでしょう。アルは何とも思ってないって!逆にあなたに暴力を振るった事を謝りたいって言っているのに・・・、普段は強気なあなたはどこに行ったのでしょうね。ホント、アルの事になるとウジウジしてポンコツ駄女神になるなんてね。まぁ、そんなところが初々しくて可愛いんだけどね。」
どんな事情があったのかしら?でも、お互いに遠慮しているみたいだわ。
「フレア、細かい事はフレイヤと同化したらあなたにも彼女の記憶が流れてくるから、どんな経緯だったのか分かるわよ。ちょっとした行き違いで拗れているだけだからね。元々はこのフレイヤが原因なんだけど・・・」
そうなんですか・・・、だったら!
私はフレイヤ様の手を取った。
「フレイヤ様、女は度胸ですよ。当たって砕けろ!です。私はアルとは少しの間だけ一緒にいましたが、アルなら大丈夫です。だって、女神様が好きになった人ですからね。もちろん、私もですけど。」
フレイヤ様が笑ってくれた。
「ふふふ、そうね、私がシッカリしないとダメね。女神の私が子供に励まされるなんて、本当に情けないわ。でもありがとう、勇気をもらったわ。だけど、本当に良いの?人間である間は『私』がアルと一緒になるのよ。あなたもアルが好きなんでしょう?」
大好きです。アルの事は世界で1番好きです。でも・・・
「はい、大好きです。正直、フレイヤ様でも本当はアルを渡したくありません・・・、でも、アルは勇者なんですよね?さっきのアルの戦う姿を見て思いました。アルはとても強いです。本当に魔王を倒してくれると思います。ですが、私には力が無い・・・、一緒に戦うだけの力が・・・、好きなだけではダメなんです。アルと一緒にいるにはアルと同じくらいの戦う力が必要なんです。でも、私にはそんな力は無いです。しかし、フレイヤ様なら力があります。だって女神様なんですからね。ここで私が我が儘を言ったら間違い無くアルに嫌われてしまいますよ。」
「だから、今のアルを託せるのはフレイヤ様しかいません!魂が同化するってなら、フレイヤ様も私も同じ人間という事なんですよね。だったら、私もアルを愛するのと同じですよ。ちょっとは悔しいですけどね。」
フレイヤ様が急に抱きついてきた。何で泣いているの?
「フレア、ありがとう・・・、アルにはちゃんと説明しておくわ。あなたのおかげで私が会えるって事をね。そして、あなたの事もちゃんと愛してくれるように・・・」
「それじゃ、そろそろ始めましょう。アルの状態も危ないし、いつ魔王に裏返ってしまうか分からないからね。」
えっ!そんなにアルが危ないの?
「そうよ、あなたが殺された事で完全に我を失っているの。このままだとマズイわ。一刻も早くアルを正気に戻さないとね。頼んだわよ、お2人さん。」
「「はい!」」
フレイヤ様が私の手を握ってくれた。こうやって近くで女神様のお顔を見られるなんて・・・
本当にキレイ・・・、女の私でもうっとりするするくらいだわ。
悔しいけど顔じゃ私の負けだわ・・・
それに、スタイルも・・・
私は子供だから仕方ないけど、フレイヤ様もニアーナ様も抜群のスタイルよね。
子供の私でも憧れてしまう。
女神様って本当に美の結晶なんだなぁ・・・
「フレア、よろしくね。」
「はい、フレイヤ様・・・」
再び私の体が白く輝いている。そして、フレイヤ様の体も私と同じように輝き始めた。
フレイヤ様の記憶が私の中に流れ込んでくる。
そうか・・・、アルは異世界から来たんだ。しかも、とても悲しい別れ方で・・・
フレイヤ様、あなた様の燃えるような恋心も・・・、私の代わりに頑張って下さいね。
アル、次は天界で会いましょうね。必ずよ!
そして、私の意識は深い眠りについた。アルに再び会える日を楽しみにして・・・
フレアとフレイヤの体が激しく輝き、一つの光の玉になった。
勢いよく飛んで行ってしまい見えなくなる。
ニアーナはその光をずっと見つめていた。
「行ってしまいましたか・・・、こんな奇跡を見られるなんてね。」
「アルの事は頼みましたよ。これからも苦難は続くと思うけど、あなた達なら必ずアルと一緒に乗り越えられると信じているわ。そして必ず世界に平和を・・・」
【アルゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!】
【いい加減に目を覚ましなさぁあああああああああああああああああああああっいいいいいい!】
誰?僕を呼んでいるのは?
もう嫌だ・・・、僕のせいでこれ以上大切な人が死んでしまうなんて・・・、耐えられない・・・
はっ!この声はフレア?何でフレアの声が聞こえるんだ?
【アル、やっと私の声が聞こえたのね。良かった・・・】
後ろから突然抱きかかえられた。誰?
「アル!もういいんだ!もう・・・、そいつは既に死んでいる。」
(父さんの声だ!僕は何をしていた?)
意識がハッキリしてきた。そして今の自分の状況に驚愕した。
僕の右手は魔族の頭を鷲掴みにしている。しかし、その魔族はボロ雑巾のようにボロボロになっていた。
呆然と見ていると、徐々に体が崩れ始め砂のようにサラサラと消えていた。
「アル!」
ギュッと僕を抱く力が強くなる。
「父さん・・・」
そう呟くと抱く力が弱くなり、慌てて父さんの方に向き直った。
「アル・・・、良かった・・・、元に戻ったんだな?」
父さんが泣いている。再び僕を抱きしめてくれた。
「うん・・・、フレアが一生懸命に僕を呼んでくれていたんだ。だからかな?こうやって戻ってこれたのかも?」
「フレアが?どうしてだ?」
父さんが視線を移した。
その視線の先には両手を胸の前に置き、地面に横たわっているフレアの姿があった。
信じたくはなかったけど、フレアは殺されてしまっている・・・
「フレア・・・、どうして?何で声が聞こえたの?」
【アル、元気出しなさいよ。いつも元気があなたの取り柄でしょう。】
やっぱり、フレアの声だ!いや、少し違う・・・、誰だ?
【フェニックス!】
フレアの遺体から突然炎が上がった。
(何が起きているんだ!)
父さんもゴンさんも突然の事で棒立ちになっている。
【フェニックスは自ら炎に飛び込み消滅するわ。でも、再び炎の中から甦るのよ。】
フレアの全身が炎に包まれ姿が見えなくなった。そして、大きな炎の塊が浮かび上がった。
徐々に形が変わる。
(炎が人の形になっている!そんな魔法なんて知らない!もしかして、これは僕の習得していない火の魔法?)
宙に浮かんでいる炎が弾け飛んだ。その中から人影が現われた。
炎の翼が背中に生え燃えるような赤い髪と瞳の女性だ。
(えっ!この姿は!それにこの顔は覚えている!ま、まさか!)
そして、その女性は僕を見てニコッと微笑んだ。ゆっくりと僕の目の前に舞い降りる。
「フレイヤ様・・・」
あの時と全く変わらない。まるで魂が吸い込まれてしまうような美しさだ。
かがんで僕の視線の高さに顔を合わせジッと見つめている。
そして、そっと優しく抱きしめられた。
「アル、会いたかった・・・」
ん!何か父さんとゴンさんの会話が聞こえるけど・・・
「なぁ、ギル・・・、あの姿って教会の絵で見たよな。真っ赤な髪に赤いドレス、それに炎のような翼・・・、まんま女神フレイヤ様でないか?」
「あぁ、俺も信じられない・・・、何でフレイヤ様とアルが親しいんだ?」
「あの時は本当にごめんなさい・・・、何も知らないのに勝手に決めつけて、あなたの大切な人を侮辱してしまった。あなたがどれだけの悲しみの中にいたのも知らずに・・・、怒られて当然よね。私はバカで幼稚だったわ。」
「そ、そんなフレイヤ様!謝るのは私の方ですよ!いかなる理由でも先に暴力を振ったのは私です。しかも、女性の頬を叩くなんて最低な事をしました。悪いのは私ですよ。」
フレイヤ様が僕の顔をジッと見ている。
(ち、近いです!)
そしてニコッと笑った。
「ふふふ、本当に真面目ですね。強大な力を持ってもその力に溺れない誠実な心。だからかな?フレアがあなたを好きになったのは・・・」
(えっ!フレア!何でフレイヤ様がフレアの事を?)
「そして私も・・・」
いきなり唇が塞がれた。
(えぇええええええええええええええ!フレイヤ様にキスされている!何でぇえええええええ!)
暫くしてからゆっくりと唇が離れた。フレイヤ様はとても嬉しそうに微笑んで僕を見ている。
「アル、あなたが好きなの。大好き・・・、ずっと私と一緒にいて欲しい・・・、いえ、私とフレアとね・・・」
(ダメだ!話が飛躍し過ぎて理解出来ない・・・、何があってこんな展開になった?)
「ふふふ、照れているアルの姿も可愛いわね。」
「でも、その前に・・・」
フレイヤ様の表情が急に真剣になり、いきなり飛び上がり空に浮いている。右手の掌を前に突き出す。
「ファイヤー・ボール!」
いくつもの火の玉がフレイヤ様の掌から飛び出し、僕達の後方にある森に打ち込み爆発を起こした。
「隠れていないで出て来なさい!隙を見て逃げ出そうなんて私が許さないわよ。アルの秘密は守らないといけないからね。」
「ひぃいいい!」
慌てた様子でまん丸な姿の魔族が、爆発のあった森の中から飛び出してきた。
その魔族はガタガタ震えてフレイヤ様を見ている。
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