1話 転生1
新作を始めました。
ヤンデレ女神みたいにふざけない方向で頑張っていきます。(多分・・・)
「お父さ~ん!」
娘の陽菜が元気よく抱きついてきた。
「陽菜、どうした?何時になく甘えてきてるけど?」
陽菜が少し機嫌が悪そうな表情になった。
「だってぇ~」
キッチンから妻がニコニコ笑って出てくる。
「隆さん、陽菜が相手にしてくれないから淋しいのよ。いつも陽菜が眠ってから帰ってくるし、まだ6歳なんだから甘えたい盛りだからね。」
「そうか・・・、陽菜、ゴメンな。お父さんが悪かった。」
「分かればよろしい。」
陽菜がドヤ顔で俺を見ている。こんな仕草も可愛いな。これから仕事に出かけるけど、陽菜には癒やされる。今日1日頑張れる元気をもらっている感じだ。
陽菜の頭を優しく撫でると、とても嬉しそうにしていた。
「それじゃ、陽菜・・・、明日はお父さんも久しぶりに休みだから、お母さんと3人一緒にどこかに出かけるか?そんなに遠くないけど、近くの遊園地でもどうだ?それから3人でお寿司でも食べに行こうな。」
まぁ、チェーン店の回転寿司だけどなぁ・・・
陽菜はファミレスよりも回転寿司が好みだったりする。
パァ~と、とびっきりの笑顔になった。
「うん!行く!行く!お父さん!約束だからね!」
「よし!今日は頑張って仕事を終わらせるぞ!夕飯までには帰れるようにしないといけないな。」
「行ってらっしゃ~い!」
妻と陽菜に見送られながら家を出て職場に向かった。
夕方・・・
定時より遅れはしたけど何とか仕事が終わる。
「さて、帰るか。今日は家族一緒に食事が出来そうだな。」
帰宅途中の横断歩道の前で信号待ちをしていると、隣に婆さんが一緒に立っていた。後ろには20歳くらいだろう騒がしい若者集団がイライラしながら信号が変わるのを待っていた。
(信号は待つのが当たり前なんだし、イライラしても仕方ないんだけどなぁ・・・)
ファンファンファン!
パトカーのサイレンか?段々と近づいているぞ。
サイレンの音がする方向に視線を移すと、1台の車がパトカーに追いかけられているのが見えた。
後ろの集団が「おぉおおお!パトカーに追いかけられているよ。もっと近くで見ようぜ!」と言いながら、俺と婆さんを押しのけて道路の方に移動している。
「ババァ!邪魔だ!」
若者の1人が婆さんを突き飛ばしてしまい、ヨロヨロと横断歩道の上に倒れてしまった。
そんな状況でも婆さんを無視して車を見ようとワイワイしていた。
(こいつら何を考えている!このままだと!)
(どう考えても追いかけられている車は俺達の前を通る。そうすると、倒れている婆さんが轢かれる!)
すぐ近くまで車が迫っていた。
自分でも驚く程に体が自然と動いてしまい、倒れている婆さんを抱き起こして抱きかかえた。
その瞬間、全身に信じられない衝撃が襲い意識が途切れてしまった。
意識が途切れる前に妻と陽菜の顔が浮かんだ。
(美佐子・・・、陽菜・・・、約束を守れなくてゴメン・・・)
目が覚めた。
おかしい・・・
どう考えても猛スピードで突っ込んで来た車にぶつかった筈なんだけど、何で普通にしている?
ボーとしていた頭もスッキリしてきたので周りを見渡してみた。
・・・
真っ暗だ。しかし、自分の体だけはハッキリと見える。
心臓がドクドクと異常な速さで鼓動しているのが分かる。
(落ち着け・・・、まずは状況確認だ。何が起こっているのか理解しないと・・・)
落ち着いて自分の体を確認してみたが、傷などは一切見当たらない。腕を伸ばしたり屈伸もしてみたが普通に体が動く。
(あり得ない・・・、良くて重傷か重体になるような衝撃だった。最悪死ぬ事もあるくらいの事故の筈・・・)
(体は何ともないし、それ以前にここは何処なんだ!)
「ふぉふぉふぉ、どうやら目を覚ましたようだな。」
誰だ!しかし、周りには誰も人影が見当たらない。頭の中がパニックになり始めている。
しかし、目の前が突然光り輝き、光が収まると1人の人間が立っていた。
「爺さん?誰だ?」
昔、マンガで見たような魔法使いのような服装の爺さんだった。ニコニコ微笑んで俺を見ている。
「まぁ、お前さんの世界で言えば神様と呼ばれる存在かな?お前さんの疑問に答えよう。」
信じたくはなかったが、目の前に神様がいるんだ。
「そうか、俺は死んだのか・・・」
不思議と恐怖は無かった。
しかし、ただ1つだけ心残りがあるとしたら・・・
「ふぉふぉふぉ、理解が早くて助かる。お前さんは即死だった。だがな、お前さんが助けた老婆は奇跡的に擦り傷だけで済んだぞ。これでお前さんはより上位の存在として生まれ変わる事が出来るのだよ。それだけの徳だったからな。」
しかし、神様の表情が曇った。
「不思議な事もあるものだ。本来ならあの車は老婆を避けて、突き飛ばした若造共のところに突っ込んで、若造達が死ぬ運命になっていたのだがな・・・、まぁ、あの若造共も死の運命から逃れられん。更に悲惨な最期を迎えるだろう。お前さんを間接的にとはいえ殺してしまったと同じだからな。因果は巡るものだ。」
じっと俺を見つめている。
「しかし、どうして因果律が狂ってしまったのかがワシにも分からん。お前さんが巻き込まれる運命は無かった筈だ。お前さんには何かあるかもしれん、神であるワシにも分からない事がな。」
理不尽過ぎる。苦労して折角幸せを掴んだと思ったのに・・・、運命でさえ俺を見放してしまったのか?
「そう悲観するでない。お前さんの事はイレギュラー中のイレギュラーだ。だからワシが出向いてきたのだよ。普通なら転生しても今までのレベルの人生だけどな、お前さんの徳の高さならお前さんの望む新しい人生を選択出来る。どうだ?」
この申し出は素直に嬉しい。しかし、あの約束が重くのしかかる。
「申し出は嬉しいのですが、私の希望は今までの私の人生を無かった事にしてもらいたいのです。」
ずっとニコニコしていた神様が初めて驚愕の表情で俺を見つめた。
「それはどういう事だ?ワシの力を使えば過去に遡って、お前さんの存在自体を無かった事にするのも可能だが・・・、お前さんに何のメリットがある?そんな事を言った人間は、ワシが神になってから初めてだぞ。」
「お前さんの魂は1からやり直しになってしまう。微生物から何千回、何万回と転生を繰り返して人に生まれ変わる事になるのだが、それでも構わないのか?考え直すなら今しかないのだぞ?」
俺の未来なんかはどうでもいい。美佐子と陽菜の事を考えると、残される者は可哀想だ・・・
「構いません。残された妻と娘が可哀想です。特に子供にとって親が突然いなくなってしまうのは心に傷を残します。例え妻が新しい恋をして陽菜にも俺よりも良い父親が出来たとしても、心の傷は癒える事は無いと思います。かつての私がそうでしたから・・・、それなら、私は最初からいない方が良いのです。美佐子は私以外の良い人と結婚して、陽菜には親がいないといった経験をさせたくない・・・」
「それが約束を守れなかった私の罪滅ぼしです・・・」
「そうか・・・、そこまで意志が固いとは・・・」
「仕方ない、お前さんの意志を尊重しよう。」
「お待ち下さい!」
誰だ?女性の声のような感じだ。
先程と同じ様に目の前が明るくなり、光が収まると1人の女性が立っていた。
腰まである金髪に金色の瞳の女性だ。白色に金の装飾を施したきらびやかなドレスを着ている。
しかし、それ以上に視線が釘付けになってしまったのは、その女性は絶世ともいえる程の美女であった。それに背中に4枚の金色の翼が生えていた。
その女性が俺にニッコリと微笑んできた。
(何という美しさだ・・・、こんな存在がいるなんて・・・)
確かに一瞬だけど目を引かれはしたが、その笑顔に対して素直に嬉しく思わなかった。
冷たい感じがして作り笑いのように見える。
「初めまして、私は光と闇を司る女神のニアーナと申します。しかし、あなたは面白いですね。私を見ても冷静でいられるなんて・・・、過去に色んな人間の男が私を見た瞬間に魂を抜かれたようになっているのに、あなただけは平常心を保っているのね。」
女神様が神様の方に視線を向けた。
「おじい様、この方なら私の使徒にしても問題ないと思いますので、何卒、私の世界で管理させていただけないでしょうか?私の世界が最近危ない事になっていますので・・・」
「あぁ、あの件か・・・」
神様が難しそうな表情で顎に手を当て視線を上に向けた。
「分かった。お前に力を貸してもらうように頼むとするか。彼なら今までのような失敗はないだろう。」
「ありがとうございます。」
恭しく女神様が神様に頭を下げている。
何を話しているのだ?良い話ではないのは確実だろう。まぁ、美佐子と陽菜さえ淋しい思いをさせないようにしてもらえれば、俺はどうなってもいいと思っている。
神様が俺の方に向き直った。
「隆とやら、この通りだ。孫娘の力になってくれないか?もちろん、お前さんとの約束は守る。地球でのお前さんの存在は無かった事になり、ワシの管理の元、本来の家族も別の男との出会いで幸せな未来にすると約束する。」
深々と神様が頭を下げてきた。
「神様!神様とあろうお方が私ごときに頭を下げるなんて勿体ないです。私は残された家族さえ幸せになってもらえればそれ以上は求めませんから!」
神様が頭を上げ愉快に笑っている。
「ふぉふぉふぉ!お前さんは良いヤツだ。気に入った!いつか天界に来るような事があったら孫娘達の1人と結ばれて欲しいくらいだな。」
「おじい様!今はそんな話をする事でないでしょう!」
女神様がコホンと咳払いをしてから俺に視線を移した。
「それでは説明しますね。あなたは私の世界で人間に転生してもらいます。今の私の世界には別の世界の女神が現地の人間を使徒にして侵略を始めています。あなたはその使途を倒してもらいたいのです。さすがにいきなり戦闘という訳にいきませんし、力を付ける必要もありますから、勇者となるまで成長してもらう事になります。」
「別の世界の女神ですか?その使途?」
「そう、分かりやすく言えば私の世界に君臨している魔王を倒してもらいたいの。私達神は管理している世界の多さで序列が決まるの。お互いの管理している世界の取り合いよ。いわゆる陣取り合戦みたいなものね。しかし、神や女神は直接世界に干渉する事は出来ないのよ。それが私達神に課せられたルールなの。現地の人間に加護を与え使徒になった者が、その世界の支配者になれば勝ち。その逆で、攻めている相手の使途を倒し防衛が出来れば、攻めた神から世界が1つもらえるの。まぁ、それ以外にも方法があるにはあるけど、それこそ最終手段だからあまり使いたくないのよね。」
「そんなに頻繁に起こる事ではないけど、今回は私の世界が狙われてしまったのよ。おじい様の孫娘である私に手を出すバカな神がいるなんて思わなかったけどね。」
陣取り合戦のようなものと例えていたが、これは生身の人間同士が戦う戦争ゲームだ。これが神の世界の戦いなのか?世界に住んでいる人間には迷惑な話だよ。
神の価値観は俺達人間とは違うと実感する。
それに、この女神は俺達を単なる駒としか思っていないみたいだ。だからか、とてもキレイな女神だと思ったが、冷たい印象を抱いたのはそういう事か・・・
しかし、俺には他の選択肢は無い。駒だろうが構わない。
「分かりました、使徒の件はお受けします。」
「姉様、その話は無理よ。人間の男なんてロクでもないからね。」
別の女性の声が聞こえた。
次の瞬間、ニアーナ様の隣に女性が現れた。
燃えるような赤い髪に真っ赤な瞳、しかも、ニアーナ様よりも美しいと思った。
しかし、とても不機嫌な表情だ。
「姉様は何人かを使徒として送ったけど、どの男も力を得たと思った瞬間に欲望まみれになったじゃないの。自分が世界の支配者だと思い込んで、助ける筈の人間を虐げているなんて本末転倒だわ。中途半端な力しか身に着けていないうちに魔王に挑んで死んでいる勇者もいたし、最後の手段の姉様の力の天罰で世界中のみんな消滅させれば良いのよ。魔王もろともにね。引き分けなら取られる事はないからね。」
女性がビシッと俺を指差す。
「この男も同じよ!今はおじい様と姉様がいるから猫を被っているだけだわ!勇者として覚醒してからは他の男と同じ様になるに決まってる!」
(はぁ~、いくら何でも酷過ぎないか?初対面でここまでコケ降ろされるなんて・・・)
「お、お言葉ですが・・・」
「はぁあああ!」
とても不機嫌な表情でツカツカと俺の前まで歩いてきた。
「人間風情が女神である私に口答えするなんて生意気ね!話は聞いていたけど、アンタがどこまで家族想いかは怪しいわね。おじい様に気に入られようと嘘をついているかもしれないし、それに、アンタの妻も可哀想よね。こんな男に尻尾を振っているなんてね。男を見る目が無かったかも・・・」
パシィイイイイイイン!
「黙れ・・・」
赤い髪の女神が驚きの表情で頬を押えながら俺を見ていた。
「俺の事はどんなに悪く言っても構わない。だが、美佐子の悪口は許さない・・・、いくら神でも・・・」
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