依頼と親
モグラの経営する酒場、アナグラ亭は夜にしか営業しておらず、昼は基本的に店内の掃除や仕込みをしている。
店を閉めないのは、中に協会の依頼を貼るための掲示板があるからだ。
冒険者は掲示板に貼られた依頼を見ては、大あくびをしているモグラの前に駆け込み、依頼の申請をする。
稼ぎ時というのもあってか、午前中には新しく貼り出された依頼はほとんど手が付けられていた。
「これで4グループか。もう受けらんねぇな。」
カウンターに並べた、掲示板と同じ依頼の紙に大きくばつ印をつけ貼り出していた紙をはがす。
「これは、まだ受けてる奴ぁすくねぇ! だが早い者勝ちだぞ!」
危険な依頼や高額ではない依頼を何度か叩き、座っていた場所へと戻る。その最中、モグラは舌打ちをする。
「ったく。こんな時でも選り好みしやがって。」
悪態をついても仕方がなかった。申請された依頼のほとんどは然程危険というわけでも無いわりに、成功時の報酬が高いものばかりで、実際に被害を受けているような依頼は目を背かれていたのだ。
苛立ちながら書類をまとめて下のスペースにしまおうとすると、入れ違いに便箋が床に落ちてしまった。
「っち、くそ……あぁ、そういやこれもあったな。」
面倒そうに拾い上げたのは差出人に協会本部と書かれた便箋。その中身はランツェを本部へと呼び出す日時だけが書かれており、詳細に関しては何も分からなかった。
「まったく……、一年に一回の報告と言えどもうちょい形くらい用意しろってんだ。自分達で作った組織にしちゃ雑だろうが。」
帰ったら渡すことにしようと考えながら便箋を同じ場所に投げ入れ、掲示板の方を眺める。
相変わらず冒険者達は、まるで初めから貧乏くじを誰が引くかという人命の押し付けあいをしており、モグラはその光景を見たことに舌打ちをして気分をごまかした。
「――あ?」
と、開ききった扉からやせ形の男が入ってきた事に気が付く。
男の姿はとても妙に感じた。一般的な服とは明らかに品が違い、それに比例するように疲れが全身から滲み出ている。
例え冒険者を示す腕章があったとしても、この男に依頼を任せるような馬鹿はいないだろう。
実際には腕章すらなく、男は尋常ではない汗を流しながら、周囲を警戒するように見ていた。
大方、冒険者が使う酒場であるということも分からず、店が開いているから入れるのだと勘違いしたのだろう。
こういった相手はいつもランツェに対応を任せていたが、昼は好き勝手にしている彼が都合の良いときに戻ってくるわけがなかった。
男はモグラに気付き近寄って来ようとした為、手で追い出す仕草をしながら一言。
「まだやってねぇよ。」
男は掲示板や周囲のテーブルの様子を見て不思議そうに口を開く。
「こんなにも人がいますが……」
「店としてやってねぇってことだ。飯が食いたいなら夜に来い。」
男は首を横に振り言う。
「い、いいえ。食事を取りに来たわけではないんです。ここにプレジスがいると聞きまして……」
男の口からプレジスと聞いた途端、モグラの表情はギリリと険しいものへ変わる。
「……アイツになんの用だ?」
「その方は今何処に?」
「なんの用だって聞いてるんだ。」
男はモグラの高圧的な声に口をつぐんだ。その姿がモグラの余計な怒りに火がついてしまうことを知らずに。
「……三度も言わせるんじゃねぇぞ。アイツに通すのは俺が知ってからだ。それとも無理矢理にでも聞いてやっても良いんだ。」
目の前に置かれるモグラの手には明らかに力が入り込んでいることが分かる。
男は焦り、早口に答えた。
「い、依頼をお願いしたいんです!」
男の裏返った声はそれなりに大きく、店内にいた全員には確実に聞こえた。そして、その言葉が聞こえた瞬間、周囲は驚くほど静かになったのだ。
男は違和感を覚え周囲を見渡すと、掲示板の前の冒険者達が酷くこちらを睨んでいることに気づいた。
何よりも男を睨み付けていたのはモグラであった。
舌打ちをし、大きくため息をつくとモグラは「こい 。」と言いながら店の奥へと姿を消した。男は周囲の反応に疑問を覚え、初めは足を動かさなかったが「今度は二度も言わせる気か。」というモグラの怒声に、男は慌てて後を追う。
店の奥は途端に薄暗く、男は突き当たりの扉を開いた小部屋に案内された。
「座れ。」
人を招き入れるには、狭く小汚ない部屋であった。中央のテーブルを挟んで置かれた椅子は、表にあった椅子よりもやや不恰好であり、部屋の角には本棚から溢れたのだろうくすんだ書類の束が無造作に積まれている。男は不安に感じたがモグラの圧に耐え切れず言われるがままにその、手前の椅子に座った。
「……ったく。正面切って個人依頼なんて言うんじゃねぇよ。」
モグラは悪態をつきながら本棚から書面を一枚とりだし、テーブルの上に置いた。
「ここにサインしろ。」
男は出された書面に目を通す。内容はよくある個人情報の取り扱いだったが、
名前の記入欄の下に書かれた項目について尋ねた。
「……相談金……ですか?」
「プレジスの個人依頼なんて危険な物に対しての保証だ。納得しねぇんなら帰んな。こちとら協会の規則に従ってるだけ……」
男は悩むそぶりも見せず、改めて内容を読み直してサインし始める。それを見たモグラは残念そうに言う。
「はぁ……。なんでこんな規則が用意されてんだがな……」
「プレジスは人の悩みを聞くものと伺いましたが……?」
「そんなもん表側の話だ。拾い集める奴が悪いなんて言われてるご時世で目立ったところでロクな最後なんて迎えらんねぇんだよ。特にアイツにとっちゃな。」
「……どういうことでしょうか?」
モグラは酷く苛立った。目の前にいる男は少なくともランツェの事を知らずに尋ねてきているという事が分かってしまったからだった。棚の方を見ながらモグラは吐き捨てるように言う。
「……アイツがプレジスの中でも特別だからだ。」
説明になっていない特別の理由を聞こうとしたが、その前にモグラは男がサインした書面を奪って名前を確認した。
欄には「デンバー・アンザム」と書かれている他に、自身の身分を確かなものとするための実印が押されていた。
「デンバー・アンザム……? あ? ……魔法具商会のデンバー会長か?!」
目の色を変え思わず立ち上がるモグラに、アンザムと書いた男は驚きつつ答える。
「え、ええ。ご存知ですか?」
「国に登録された商会の一つを流石に知らねぇとは言えねぇよ。確か本店はメルメラのはずだが……まさか海渡ってきたってのか?」
「いえ。私はもう名前と責任を持つだけなので……今はカロンの方で静かに過ごしています。」
モグラは書面を置いて椅子へと座り直す。妙に礼儀正しくしようと背中をピンと伸ばしたのは、目の前にいる魔法具ブランドの会長が居ることによる緊張から来るものだろう。
だが口調までは早々に変えることは出来ず、モグラはいつものトーンでアンザムに問いかけた。
「カロン? あのコソドロばかりの町にか?」
「彼らが狙うのは観光客だけで、町の人には危害を加えません。寧ろ住民として彼らは友好的に接してくれますよ。」
「灯台がなんとかかんとかって奴か。会長からはあまり聞きたい話じゃねぇがな。」
「お金回りに関しては断っていますよ。ただ、こちらも形振り構っていられるほど楽ではないですから……」
アンザムは自分の内ポケットから銀貨を一枚取り出し、書面の上に置く。
「お金はこれで大丈夫ですか?」
「ああ。流石に袋たんまりで渡されてもこっちがめんどくせぇ。」
出された銀貨を手に取り、軽く裏表を確認してからポケットへとしまうと、モグラの表情はやや強張った。だがそれは、先程までの拒絶をするような睨み付けをしているのとは違い、彼なりの仕事としての向き合い方を表しているようにアンザムは感じ取った。
「じゃあ……用件を聞かせてもらおうか。」
アンザムは一度深く呼吸を行うとやや緊張した面向きで話始めた。
「娘が……連れ去られました。」
「娘?」
モグラが聞き返すとアンザムはうなずきながらポケットから写真を取り出す。
「娘のリェラです。」
渡された写真には女性の姿が写っていた。色白で栗色の髪は長く、身だしなみをきちんとしている印象を感じた。凛とした顔立ちからは、綺麗という言葉がまるで力不足に感じるほどの容姿で、写真とはいえ実際にいるという事が不気味に感じるほどだった。
「ほぅ……えらく美人な娘さんだな。」
「え、ええ。ですから連れ去られたと。」
「そうか。だがさっきアンタは町の奴等は危害を加えないと言ったな?」
「はい。ですから、町の人間が仕組んだ事ではありません。」
アンザムの言い切りにモグラの眉はピクリと動く。
「……やけに信用しているな。」
「彼等からも話は聞いています。襲撃したのは町の人間ではなく、数日前から現れた冒険者達だったようで……」
「冒険者、か……」
無精髭を触りながらモグラは覚えがあるかを考え始めた。
「もちろん彼等も私も協会に登録された冒険者だとは思っていません。現れた冒険者は皆同じマントを付け、腕章を隠していたようですから。」
「冒険者の腕章は身分だ。なら隠すことだってあり得る。特にカロンならそうじゃないか?」
矢継ぎ早に話していたアンザムだったが、僅かに俯き「え、ええ…」と心なしな返答をした。その事に違和感を感じたモグラだったが、アンザムはどこか焦ってるようなトーンで続ける。
「そ、それに襲撃があった次の日には彼らの姿がなかったようなのです。止まっていた宿からは彼等の痕跡は一切なく、まるで初めからそこにいなかったかのように……」
「その冒険者達と、襲撃した奴等に共通点はなかったのか?」
アンザムは目をそらし、またしても声が小さくなる。
「……私は、会議で本店の方に……戻ったときには……もう……」
「何?」と、モグラは明らかな嫌悪感を見せる。それ以上を言おうとしないアンザムに眉を歪め、尋ねる。
「……娘さんが誘拐されたのはいつだ?」
言葉につまりアンザムは俯く。モグラがもう一度、今度は低く重い声で「いつだ。」と聞かれようやく口を開いた。
「――二週前、です。」
「二週だぁ?!」
モグラの怒声が部屋の中を駆け回る。思わず立ち上がるほどに彼は怒りを表し、その矛を投げつける。
「テメェ! 何処の国に子供の誘拐を二週も放っておくバカがいる!!」
「わ、私も知らなかったのです!! 連絡もありませんでしたし、気がついたときには……もう……!」
「仕事を理由に納得してんじゃねぇ!!」
「納得なんてしてません! ですからお願いします!娘を――、どうか娘を救ってください!!」
必死に頼み込むその姿に、モグラはもう怒りをぶつける気も起きなかった。
椅子に座り大きくため息をつくと、背の本棚から書類の束を取り出しテーブルの上に置いた。
「アンタの事情はよくわかった。手続きはこっちでしてやる。」
「では、依頼を受けて下さるのですね!」
モグラは書類から一枚を引き抜き、そこに自分の名前を書くとアンザムの前に叩きつけた。
「協会への委譲書だ。ここにサインすりゃ今日中には依頼として発行される。」
待ち望んだはずの答えとは違う響きに口角は対応することが出来ず、まるで心で笑っていることがそのまま顔にでてしまっているようなにやけ面のまま、アンザムは問い掛けた。
「……どう言うことでしょうか?」
立ち上がり、モグラはまるで軽蔑するかのようにアンザムを見下しながら言った。
「依頼は受けねぇ。協会へ行きな。」
アンザムの体は石のようにピタリと止まり、モグラはゆっくりと入ってきた扉へと向かう。
「書いたら紙はそのままに裏口からでな。後で発行しておいてやる。」
「待ってください! 約束は……!」
「約束?」
振り返り呼び止めるアンザムの言葉に、モグラは素直にその足を止めた。
「お金は払いました! ですから依頼を……!」
「さっきのは相談金だ。プレジスはいくら協会のとはいえ中身は人間だ。だから相談内容の保証を確約するための金を受け取ってんだ。」
「ですが!! それで依頼を受けないのは――」
モグラはあまり辛抱強い性格ではない。既にこの茶番に付き合っている気などなかった。
「アンタ、さっきから何を隠してるんだ?」
問いにアンザムは青ざめ、彼が言おうとした全ては喉奥にしまい込まれた。モグラはゆっくりと振り返り、諭す。
「依頼は協会が発行して冒険者が受けるって言ってんだ。ソレの何が問題だ? アンタほどの名前と報奨がでりゃアイツ等は血眼になって探す。ソレの何が不満だ?」
アンザムは答えない。その姿をモグラは嘲笑った。
「……娘を"救って"か? まるでアンタの娘はもう死んだような扱いだな?」
「そ、それはもう……二週も経ってしまったので……」
「玩具になってるとでも? アンタの娘ってことは引き出す金がある。知らなかったしても、あんな美人はそこらの成金になら高く売れる。どちらにせよ、生きてる可能性の方が高いってのにアンタほどの人間がそれを考えないか?」
アンザムの額から汗が流れる。床に落ちる大粒が、彼の触れてはいけない隠し事に対して土足で踏みつけていることを証明していた。
「要求が来ねぇのならどっかに売られている可能性がたけぇ……だってのに、アンタはもう娘が死んだつもりでいる。それを確信してるのは簡単なことだ。」
モグラは近づき、アンザムの服の襟を掴みながら脅すように伝える。
「――アンタが襲撃した奴等を知ってるからだ。それがなにかを知ってるからアンタはそこら辺の冒険者じゃなく、プレジスを使おうとしてる。」
情けない声がアンザムから漏れる。冷や汗が溢れだし口元はカクカクと震える。
モグラはもう一度、脅すように良い放った。
「こっちはアンタの善意を信頼して約束を果たすもんだ。……だったらテメェも隠し事してねぇで腹わって話せって言ってんだよ!!」
怒号が部屋の棚や机を揺らす。襟を掴む腕からも怒りをに身を任せてしまいそうなほど力がこもっていた。
恐怖し抵抗して離れようとするアンザムを見てモグラは突き飛ばすように手を放すと、引き寄せられた時に倒れてしまった椅子に足を引っかけてしまい、尻餅をつく形で転んでしまった。
哀れな様子にモグラは背を向けて扉に手をかける。
それを見たアンザムはもう後がないと焦った。言ってしまわねばもう手だては無くなり、予想もできない事態になるという決めつけによって、脳裏に映る娘が"厄災の張本人"となってしまうという恐怖が彼に口を開かせる。
「待ってください!!」
アンザムは、地面に頭を擦り付けて懇願していた。
「彼らは――彼等の正体は、魔術団です!」
「魔術団? だったらアンタのところの魔具を……」
「いいえ、彼らが狙っているのは娘の――私達の血です!!」
「……血、だぁ?」
突拍子もない答えにモグラは顔を歪ませる。どう言うことだと尋ねるとアンザムは顔をゆっくりとあげた。
「私の家系は戦争における生き残りです。」
「戦争家系なら別に珍しくもねぇだろう。」
そう決めつけるのはモグラも戦争家系の一人だったからであり、それで命を狙われると言うこともなかった人生経験からくるものであった。
「ええ……それが戦争前からいた人間でしたらなんの問題はありません……ですが、戦争中に作られた人間の家系でしたらどうなりますか?」
「……ちょっとまて。そりゃあいったい……」
モグラは嫌な予感を覚えた。はっきりと作られたと言われてしまった以上、その正体が何であるかをランツェから耳にタコが出来るほどに聞かされていたからだ。
モグラは恐る恐るその正体を尋ねる。
「まさか……人造人間……か?」
沈黙の後、アンザムは深くうなずいた。
「マナタンクという言葉にご存知ありますか?」
「いや、俺が知ってるのは、そう言うのがいるって言うことと、人造人間は協会にその身柄を……ぁー、保護……させるってことだ。」
「その様子ですと、どうなるか知っているようですね。」
苦虫を噛み潰したような顔をする。
「昔の話だ。思い出したくはねぇ。」
モグラはしゃがみ、アンザムと同じ目線になって言う。
「相談金は、絶対的な秘匿を行うための契約だ。協会に口添えなんてするつもりもねぇ……だから、アンタが知ってる限りの事は全部教えてくれ。」
アンザムは悩んだが、大事を既に言ってしまったことで痞えがとれたのか、抱えているものを吐き出す事への抵抗はもうなかった。
「……彼等は娘の血を使って戦争時代の魔具――、ティンクトゥラの輝石を作ろうとしています。」
「ティンクトゥラ?なんだそりゃあ。」
「手にしたものは大地を黄金に変え、海に穴を開ける事ができる魔具としか……私も詳しいことは分からなくて……」
隠し事をしているような様子はなく事からモグラはうなずき、立ち上がりアンザムに手を伸ばす。
「娘さんはそのティンクトゥラとかを作るために連れ去られたってのか?」
アンザムを立ち上がらせ、転がっている椅子を戻して座らせた。
「ティンクトゥラを作るためには"マナタンク"と呼ばれる人造人間の血が必要……と。私と娘にはその血が流れていて――」
頭を抱えむせび泣く。
「私は愚かだ……苦労させまいと、身を粉にしたというのに……こんな、血のせいで……リェラは……!」
小さくなって泣く姿はまるで子供だった。その様子にモグラは疑問を投げる。
「娘さんが死んだと思ってるのか?」
ゆっくりとうなずく。
「ええ。もう、どうすることなんて……」
「最後まで信じてやんのが親ってもんじゃねぇのか?」
アンザムは顔をあげ、叫んだ。
「ここまで来て何もなかったんだ!! 二週の間も!! それを……! どう信じろって言うんだ!!」
「泣くのは死んだと分かってからにしろって言ってんだ。」
混乱し叫び散らすアンザムに対してモグラは冷静に、しかし強く言い聞かせる。
「現実から逃げてぇのなら好きにしろ。だがな? そうやって受けいれた瞬間に、現実の娘の存在をテメェは否定したって事だ。」
「ですが……ですが……!」
起きているかわからない現実を誇張し、狼狽え、疲弊する。それが無意味であることは本人でさえも理解しているだろうが、簡単に割り切れるほど心が強い人間はそうはない。
きっと、モグラも同じ気持ちを抱くだろう。それが親であるのならなおさらのことだ。
「幾らだ。娘の救出に幾ら出せる。」
アンザムは言葉の意味をすぐに理解したわけではなかった。
ただ茫然と顔を上げ、得意げに笑みを浮かべるモグラを見た。
「――俺はアイツに、アンタの娘が生きていることを前提に依頼を発行する。もしダメなら報酬いらねえし前金も返す。」
明らかな無茶のようにしか聞こえなかった。だが、モグラは上手くいく確証があるかのように続ける。
「ウチのは情報網に引っかかるレベルの奴だ。協会にも目をつけられてるほど実力は折り紙付きでな、だからこそ高いんだ。」
「……幾らですか。」
モグラは協会がランツェにかけた価値金を、指を使って見せつける。
「9000ルクス――それが前金だ。実報酬は倍の18000。しめて27000がアイツにかかっている最低限の金だ。」
アンザムは唖然とした。それは常人が一度に手にできる額ではなく、使い方さえ間違えなければそれだけで一年働かなくても過ごせるだろう。
「その代り、アンタの娘さんは必ず生きて帰ってくる。」
「そんな口約束を信じろ……と?」
モグラは嘲笑う。
「アンタが頼もうとしているプレジスはそういう奴だ。どんなことだろうと平気でやっちまう。何より、アンタの信頼する"情報源"がアイツを指定したってのが口約束以上の証明だろ?」
アンザムは静かに頷く。モグラの言った"情報源"は何よりも自分が信頼している相手だった。そして彼らを信じていたからこそ、この街にいるプレジスを訪ねてきたのだ。
自分はまだどこかで期待しているのかもしれない。大切な娘が返ってくることを。
提示された金額は勿論安くはない。ただ――
「――その程度で、娘を……リェラを、助けてもらえるのなら……!」
その目から迷いが消えたことは確かだった。