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おはよう世界。

「──は」


 目を覚ますと、どことも知らない保健室のような部屋のソファの上だった。

 しかも仰向け、雑である。

 

 ──なんでこんなところに来たんだっけ。


 少し脳みそをかき混ぜてみるが、思い当たる節は|一つしかない《》。

 

 高校二年生最初の中間テスト、その答案の返却日の放課後、自分のせいでマリスに襲われそうになった俺は、銀に輝く中世の鎧を纏った学年一位の少女【霧原未来】に助けられて。


 それから……それから……。


 ふと蘇ってくる光景。


 二階の天井に頭が付くほど大きな、スライム上のマリス。


 突然放たれた絶叫に、血溜まり。


 鼓動。


 霧原の焦った顔はやけに歪んでいて。


 鼓動。


 それから……それから。


 ──だめだ、これ以上思い出せない。


 これ以上の思考を脳がロックする。

 きっとここから先は立ち入ってはいけない禁足地、思い出したら行けない何かの記憶が眠っているのだろう。


 でも、それが分かっただけでも十分だ。

 

 俺は一旦深呼吸をすると、思考を現在の状況確認にシフトさせる。


 ──うん、寒いな。


 さっきまで、変な事考えていたせいで分かんなかったけど、めちゃくちゃ寒いな。


 マリスと出会った時は確かブレザーを着ていたはずだけど、今はそれを着ている感覚すらない。


 下半身に寒気は感じないからズボンは履いているんだと思うが、やっぱり寒い。


 そしてどうしてか、体が全く動かせない。

 まるで何かが、|体の上に乗っかっている《・・・・・・・・・・・》かのような感覚さえ覚えてくる。

 

 動けるなら暖房やらストーブやらをつけたいんだけどな。

 誰か来てくれたら、その人に頼めばいいか。


 時間はまだいくらでもあるわけだ……し。


 と、思った矢先、俺には悠長に待っていられない事態が現在進行形で起きている事にやっと気がついた。


 その事態とは、簡単に言ってしまえば五文字程度で言えるのだが、あえて難しく言うとしたらおそらく。


 ──昨日から溜まっている液体老廃物の排出行為となるだろう。


 そう、俺は残念なことにあの日から小便に行ってないのだ。


 あの日の授業はテスト返却だけだったから、朝に多少尿意があったもののそのまま登校したのだが、あんな事態に出会ってしまったおかげで結局トイレに行くことは叶わなかったわけで。


 よくあんなに全力疾走をして漏れなかったものだ、俺の膀胱に国民栄誉賞を贈ってやりたい。


 しかしながら、今この状況ではそんなことを言ってる場合では無くなってきた。


 そろそろ膀胱の活動限界が来そうなのだ。

 

 本来であれば、こういう場合は素直に立ち上がってトイレたる場所へ向かえばいいのだが、いかんせん、今の俺は全く動けないと来た。


 さてどうしたものか。


 とりあえず落ち着くためにも、トイレに行くための案を考えるとしよう(もう出そうだけど)。   


 まず一つ目、自力で行く。


 これは無理だな。 


 続いて二つ目、助けを呼ぶ。


 今は体が動かないから誰かに手伝ってもらって、動かして貰い、もしそこで体が動くようになるのならば自分で用を足す。


 体が動かなかったとしてもペットボトルさえあればどうにかなる。


 そして三つ目


 ──漏らす。


 ……だめだ、今のこの状況どうしようもなさすぎる!!


 あぁ終わった、俺の名誉ある膀胱はもう活動限界のようだ。


 高校二年生になってまで漏らしてしまうなんて、最悪だ最悪すぎる。

 こんな自分がかわいそうすぎて涙が出て来た。


 ん、涙?


 ちょっと待て、体が一つも動かないというのなら涙なんて出るわけがないじゃないか。


 でも実際涙が出ているということは体は動ける、体は動かせるんじゃないか?


「──あ」


 よくよく考えてみたらさっきからずっと呼吸はしているし、瞬きも、し続けてるじゃないか。


 なんでこんな単純なことに気づけなかったんだ、学年二位が聞いて呆れるぜ。


 そうと分かればさっさと動かないとな(漏れちゃうし)。

 

「すーっ、うっごあぁ!!」


変な声を上げ、腕に力を入れて、重い体を無理やり起き上がらせる。


 すると、ごろりと大きな「何か」が俺の体の上から転げ落ちた(・・・・・)


「うぅっ……いててて……」

 

 俺の上から落っこちた「それ」は真っ白な毛玉のようにも、何かの動物のようにも見える。

 

 大きさはこの前某動物園で見たペンギンぐらいで……。


 なんて考えていると、それはまるで「今まで寝ていました」と言わんばかりに、目をこすりこちらを見てくる。

 

 更には謎の寝言まで呟いている。


「ふあぁぁ、ここは……あっ……」

「あ……」

 

 それと目が合った瞬間、思わず目を疑ってしまった。


 この時俺は初めて「時間が静止する」というものを体験した気がする。


 お互いがお互いのことを見つめ合い、何を言い出そうか迷い考える、だんだんと顔が赤くなっていき、そして終いには気まずくなって目を背けた。


 ──なんてこった。


 きっと、いつもの俺だったらそんなもの無視して颯爽とトイレに直行していたはずなんだろうが、今回ばかりはそれができなかった。


 というよりも、したくなかっただけなのかもしれない。


 いや、聞きたいことがあまりにも多すぎたのかもしれない。


 いや、ただ単に混乱していただけなのかもしれない。



 ……なんて言ってたらきりがなくなってしまう、が、まぁでもこれらのおよその原因は。



 ──俺の上から転げ落ちたのが学生服を着た霧原だったということに起因するのである。 

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