第64話「梅重の散策」
「さぁ、行くよ」
「なにそれ! 私にもやって!」
アッシュの言葉に此方を向いたアリスさんが近付いてくる。私を指差したかと思えば、髪をやって欲しいとねだる彼女にアッシュは嫌々やってあげていた。
こういうところが本当に優しいと思う。微笑ましく思っていると、私と同じ髪型になったアリスさんがワンピースを翻し、くるくると回っていた。
「皆で朝ご飯食べに行くの?」
「聞いてないの?」
「うん。……珍しいなと思って」
うんざり顔のレノスに訊ねると、欠伸を噛み殺しながら答えてくれる。鎖の擦れる音に耳を傾けながら、今日のアッシュはどうしたのだろう、と考え込んだ。急かす彼に腰を抱かれ、それもあやふやになる。街へ降りると、レノスが先陣を切って道案内をしてくれた。
どうやら先日、街へ行くことが出来なかった為、アリスさんに頼まれたらしい。朝食を摂ってから彼女の行きたいところへついていく。彼女の選ぶ店は、やたらと可愛い雑貨が売っており、私も楽しむことが出来た。友人と買い物するのは、こんな感じなのかもしれない。
「椿、そろそろ約束の時間だ」
時刻は十三時過ぎ。昼食も摂らずあちこち見て回っていた私は、あまりの楽しさに時間を忘れていた。
「昼食を摂りながら話が出来るようにしてある。レノスが店を知ってるみたいだから、二人とはそこでお別れだ」
「……アッシュ」
「なに?」
「もしかしてエスコートしてるの?」
彼らしくない行動の数々を思い返し訊ねてみる。途端、みるみる赤く染まる頬に笑いが込み上げた。
どうやら私の感情を喰らう余裕もないらしい。噴出する私に怒りを露わにした彼は、遥かに永い時を生きているようには思えなかった。
愛しさが込み上げる。言葉にしようかとも思ったが、直接伝えるのは気恥ずかしく思え、私は口唇を諫めた。それでも彼には伝わってしまうものらしい。林檎のように熟れた顔を片手で隠す様に、私は頬を緩めた。
「なにイチャついてんすか。置いて行きますよ」
レノスの声に私達も歩みを進める。私とお揃いの髪型をしている為、アリスさんの猫ッ毛も、ふわふわ揺れていた。
「二人ってさ、対照的っすよね」
「私とアッシュ?」
「ううん、アリスと」
「私とアリスさん……?」
「そう」
深い意味はないのだろう。世間話の一端とでも言うように、彼はその後緘黙し、何かを発することはなかった。下げた目線の先でアリスさんと視線がかち合う。鏡のように口角を上げ合った私達は、その後双子のように笑声を上げた。




