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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第5章「生と不思議の国の帽子屋」
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第58話「今様色の威圧」

「お前、真っ白ね」


 突如指を指され動揺する。けれども、表情に出ない様を認めた彼女は私に向かって「人形みたいでつまんない」と吐き捨てた。


「おい、クソガキ。今なんて言った?」


「アッシュは、すぐに噛みつかないで」


 すぐさま少女を睨み付けるアッシュを咎め、彼女へ目をやる。怖がっているかと思いきや、彼女は青筋を立て大口を開けた。


「口の利き方がなってないわね! お前の方がクソガキでしょ! バーカ!」


「ふざけんなよ。俺が何百年生きてると思ってんだよ!?」


「何百年!? 私よりジジイじゃない。何自慢げに言ってんの?」


「このクソガキ殺してやろうか?」


「いいわよ? 相手にしてやるわ、レノスが」


「ふざけんなよ!? なんで俺が戦わなきゃいけねぇんだよ!?」


「黙って戦いなさいよ。帽子が欲しくないの!?」


「欲しいけど! お前は今作れねぇだろ!」


 アッシュと喧嘩していたかと思えば、今度はレノスと口論を始める彼女。街行く人達は騒がしい私達を一瞥し、通り過ぎていく。それがどうにも恥ずかしくて、止めに入ろうとしたその時、マイヤーさんが手を叩いた。


「続きは中でやりましょう。アリスちゃん、注文してた帽子は出来てるかしらぁ?」


「勿論、完璧よ」


「フフッ、見るのが楽しみね」


 散々振り回された私達が二人の背を見つめながら肩を落とす。ふと視線が合った青年は私に会釈すると開口した。


「さっきはすみません、俺、レノス・フリートです」


「私は椿、コッチはアシュリーよ」


 アッシュが軽く頭を下げる。彼は、それに倣うよう同じような仕草を取っていた。先程は短かった鎖が伸びている。何事かと観察していれば、レノスが私の視線の先を辿っていた。


「伸縮するんですよ。この鎖」


「なんで?」


「分かりません。俺達は何故か鎖で繋がれて鏡の国から追い出されたんです。お陰で俺は帽子もないし、入軍は出来たけど、この通りアリスのお守りです……ってベラベラ喋っちゃいましたけど、マイヤーさんの連れってことでいいんすよね?」


「そうね。まぁ色々と一筋縄ではいかないんだけど」


「ふーん」


 さして興味が無さそうな返事に、私はそれ以上話すのをやめた。


 教会の中は至って普通の空間だ。勿論〝一階は〟というだけで、奥に進めば進むほど廊下は入り組み、エレベーターが登場したあたりから、不思議な感覚を覚えた。


 普通の世界というのは、著しく発展しないものだ。にも関わらず、古めかしい街並みに沿わない文明の利器がココにはある。それが、どうにも腑に落ちず、私は考えを巡らせた。


 全員がエレベーターに乗り込んだのを確認してから、二十二階のボタンを押すマイヤーさん。少しの揺れと共に身体が浮上する感覚は、なんとも言い難かった。緘黙のエレベーターが目的地についたことをベルで知らせる。廊下を歩いて行くと、行き止まりの先に観音扉が在った。


 四回のノックの後に、中から男性の声が聞こえる。低く唸るような声音は不機嫌を思わせるかのようだった。


「アンタはいつになっても愛想一つ振り撒けないのねぇ」


「黙れ。俺の仕事はそれじゃないんだ。メリットもないのにニコニコ出来るか」


「アンタの場合は単に笑うのが苦手なだけでしょ~、それよりアリスちゃんに頼んだ帽子はどこ? ハルトに預けたって聞いたんだけど?」


「ああ、預かっているぞ。それより、その二人を紹介しろ。正体不明の輩を教会に招き入れていいと言った覚えはないぞ。マイヤー」


「せっかちねー、アタシと同じウィッカのリアちゃんと、悪魔のアシュリー君」


「マイヤーさん、ちゃんとした名前で紹介してください」


「あら、いいじゃない。名前なんて覚えちゃいないわよ。この男は馬鹿なんだから」


「出鱈目を言うな。顔と名前くらい一度聞けば覚えられる」


「カル坊は頭が固いわよね、レノスぐらい馬鹿でいないと馬鹿になるわよ」


「アリスさんは意味の分からないことを言わないでください」


 随分と鋭い目つきをしている。激しい戦場を駆け抜けてきたような威厳は、簡単に身に付くものではないだろう。


 丁子色の癖毛の短髪に軍服を纏った彼はレノスと違い、見るからに軍人のようだった。書類に落したままだった目線が上がる。視線がかち合うと凄まじい威圧感に気圧された。

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