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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第5章「生と不思議の国の帽子屋」
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第57話「躑躅色の不満」

「教会なのに軍人がいるんですね」


「この国で教会を運営してるのは軍なのよぉ、だからこそ教会は軍の本部でもあるの。でも、よく出来ているわよねぇ」


「何がですか?」


「あら、知らない? 街の中心に、こういう大きくて尖った建物があると、住人の精神って安定するのよ。だから治安がいいってわけね。お陰で軍への志望者が少ないみたいよ~」


 つまるところ、この国は平和ってことになるのだろう。治安がいいのは良いことの筈なのに、それを説明するマイヤーさんは嘲るかのような口吻で言葉を紡ぐ。それが、どうにも歪に思え私は眉を顰めた。


 不愉快そうな表情のアッシュが一言も話さない。それに違和感を覚え声を掛けようとした最中、叫び声が聞こえてきた。


「ちょっと待てよ!? 待てって!?」


「黙ってついて来なさいよ! バーカ!」


「はぁ!? 一々、馬鹿馬鹿言わないでくれますかぁ!?」


「バカにバカって言って何が悪いのよ、バーカ!」


「バカが語尾みたいになってるのが馬鹿みたいなんだよ! バーカ!」


 目の前を駆けていく少女を、青年が追いかけていく。否、追い掛けているわけではなかった。


 二人の手首は鎖で繋がれ、非常に動きにくそうだ。青年は少女に引っ張られる形になっているし、青年は青年で上半身を不自然に折り曲げながら走っている。やたらと早い少女に手綱を握られている様は可哀想でならなかった。


「なにあれ……」


「そういうプレイなんでしょ」


「男の子方、メチャクチャ不満そうだけど?」


「そういうプレイなんだよ」


「それ使ってみたい言葉だったの?」


「違うから!?」


「アリスちゃ~ん、どこ行くのぉ?」


 少女の背に向かって声を張ったマイヤーさんは片手を上げ手を振っている。彼女の声に足を止め、此方を振り仰いだ少女は花の顔を綻ばせると、再び青年を引き摺って此方に来た。


 烏の濡れ羽色の髪が光を反射して天使の輪を保っている。前髪は、やや短く一直線に切り揃えられ、後ろ髪は腰のあたりで揺れていた。大きな猫目は紺青色で、白皙も相まって美少女そのものだ。歳のほどは十二前後だろう。快活そうに見える彼女は、紛れもない少女で不老不死には見えなかった。


 青年はと言えば、一般的な容姿で大して取り得もなさそうな雰囲気を持っている。煉瓦色の髪と目が、それを助長させているし、真ん中で分けている髪のせいで表情がありありと見えた。とても不満そうな様相は、眉間に濃く刻まれた皺を見れば容易に分かった。


「暇だからレノスにたかるところだったの!」


「俺はまだ初給料も貰ってないんだよ!!」


「レノス君、どんまいだわ~」


「いや、お姉さん誰ですか。竹馬の友みたいに勝手にファーストネームで呼ばないでくださいよ」


「レノス君は、とりあえず他人のフリが好きよねぇ~」


「面倒草いことに巻き込まれたくないので」


「アリスちゃんと繋がれた時点で相当面倒臭いことになってると思うわよぉ」


「仕方ないじゃないですか! だってコレ外れないんすもん!」


「魔法でもダメだったものねぇ、諦めなさい」


「そんな簡単に諦められたら、もっと死人みたいな顔で生きてますよ!」


「とりあえず生気があるようで良かったわぁ~」


「そういう問題じゃないんすよ!」


 どうやらレノスと呼ばれた青年は小うるさい性格らしい。どことなくアッシュと似通う部分がある気がして親近感を覚える。さすればアッシュが「あんなのと一緒にすんなよ」とぼやいていた。どうやら前よりも私の声が聞こえるようになってしまったらしい。よっぽど鮮明に聞こえるようで、私は落ち着かない心持だった。

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