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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第5章「生と不思議の国の帽子屋」
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第56話「桜色の矛盾」

「試験?」


「この国の最終試験はね、鏡の国に行ってアリスちゃんに帽子を作って貰うことなの。帽子は能力だから、アリスちゃんがその人に合う能力をチョイスしてくれるってわけ。でも彼女は自分が気に入った人にしか帽子を作らない。最終試験ってのはアリスちゃんに気に入られることでもあるのよ~」


 なんと変わった試験か。けれども、やっていることは私が今現在、頭を悩ませていることと同じである。きっと相当難しい試験なのだな、と思っていれば、疑問符が浮かんだ。


「でも、その最終試験が出来なくなっているんですよね? どうしてですか?」


「それはね、アリスちゃんが現実に出てきちゃったからよ」


「それで、どうして試験が出来なくなるんですか?」


「彼女は不思議の国でしか能力を司る帽子を作れないの。そんな彼女が現実に出てきたらどうなると思う?」


「新しい帽子が作れなくなる」


「そういうことよぉ、だから試験が滞る。この世界の軍人は彼女の帽子があってこそ。だからこそアタシに助けを求めてきたってわけ」


「マイヤーさんなら何とか出来るんですか?」


「そうねぇ、出来るかもしれないし、出来ないかもしれない」


「嘘だよな」


「あらぁ、どうしてそう思うの? 悪魔君」


「世界には世界の理がある。今回のケースは明らかに、この国の人間が引き起こした事件だ。それを部外者のアンタが、どうにかすることは恐らく〝世界〟が認めない。まぁ、出来たら出来たで、そういう運命だったってなるんだろうけど」


「正解よぉ、だからアタシはあくまで、とりあえずやってみるだけ。まぁアイツもダメ元で頼んできたみたいだしぃ? アタシは新しい帽子が手に入るからいいんだけどね~」


 今の話には矛盾した点がある。鋭い眼差しで開口しようとすれば、切れ味の鋭い氷刃のような視線を返された。三賢者に勝とうなどとは思っていなかったが、これでは笑いものだ。刃先を向けたことすら恥ずかしく思えた。


「もう、そういうのはやめましょう。アタシ達は〝仲間〟なんだから」


 どうやら戦ったところで勝機は薄いらしい。冷汗を拭いながら目線を下に向けると先を促された。


「不思議の国でしか帽子は作れない。なのにマイヤーさんの帽子は作れるんですか?」


「ただの帽子は作れるのよ~、出来ないのは能力が備わった帽子を作ることね」


「そうなんですか。もう一つお訊ねしてもいいでしょうか?」


「いいわよ~」


「不思議の国と鏡の国の違いは何なんですか?」


「ちゃぁんと、そこには気付けるのね。いい子だわ~、不思議の国って言うのは普段アリスちゃんが暮している街ね。そして鏡の国っていうのは、所謂試験会場となっている国よ。鏡から入れるから、そう呼ばれているみたいだけど詳細は不明なの。だからこそ誰にもアリスちゃんを不思議の国に帰すことが出来ないのよ」


 成る程、と溜飲を下げる。その〝アリス〟という少女に興味が湧いた。


「そういえばアリスちゃんも不老不死ねぇ。何かいいことが聞ければいいわね」


 妖しい笑みを携えた彼女が厚い唇で弧を描く。嫋やかな指先が指す方へ歩んで行けば、やがて教会へと辿り着いた。周辺に店などはなく、拓けた土地となっている。ミサ帰りの人達は穏やかな表情で言葉を酌み交わしていた。

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