第55話「桃色の美貌」
「ねぇアッシュ」
「皆まで言うな。言いたいことは分かってる」
「あの人、私達をどうしたいんだと思う?」
「椿はどう思ってるの? 同じウィッカでしょ?」
「ウィッカとか関係ないけど、振り回す気満々だと思う」
「俺も同じこと思ってた」
だよね、と同意するも、彼女を〝その気〟にさせる方法など微塵も思いつかない。ご機嫌取りをしたところで、此方側に寝返ってくれるほど容易では無い筈だ。では彼女の望みとは何だろう。
考えれど、考えれど、答えは見付からず、その間も彼女は洋服や雑貨の店を梯子していく。訪れた時は昼前だと言うのに、今はもう日が暮れ始めていた。
「さてと、ディナーの前に注文してた帽子を取りに行きたいんだけどいい~?」
「え、えぇ。どうぞ」
そういえば、この街は帽子を身に付けている人が多いな、と辺りを見渡す。皆、帽子に合うような装いをしているものだから、時折コスプレっぽい服装の人も間々見られた。
街並みはといえば、スペインが近いような気がする。街の中心に聳え立つ教会は、やたらと大きく、存在を主張しているかのようだった。
帽子屋に向かうのかと思っていたのだが、そういうわけではないらしい。街の中心部へ向かう彼女は、教会を目指しているかのようで、私は首を傾げた。
「マイヤーさん」
「なぁに?」
「帽子屋さんに行くんじゃないんですか?」
「残念ながら贔屓の帽子屋は諸事情があって店仕舞いしちゃったの。だからこれから行くのはあそこ」
「アレって教会じゃないんですか?」
「そうよぉ、そこにいるのよ。帽子屋アリスが」
「帽子屋アリス……?」
〝不思議の国のアリス〟を思わせる名称に思わず反芻する。やたら楽し気に笑むマイヤーさんは、生きるのを楽しんでいるように見えた。
これだけ美しい容姿をしていたら、色々と得することも多いのだろう。事実、昼食を買った時にも屋台の人に、おまけして貰っていた。
私の容姿も美しかったら、いや、せめて肌の色だけでも普通だったのなら。そう思わずにはいられなかった。
「この世界は帽子を被ってる人が多いと思わない?」
「そうですね」
「その人達、皆軍人よ」
意味が分からない。軍人と言えば似たような制服を着るものだろう。ましてや街中で平然と過ごしているではないか。この国について調べてこなかった私は狼狽し、不自然に辺りを見渡した。
「アリスちゃんはねぇ、不思議の国に住む帽子屋さん。試験に合格した軍人に能力を宿した帽子をあげるのが仕事なの。普段は鏡の国に住んでいて、けして出て来れない。でもね、それをこの前引っ張り出した男の子がいたのよ。それでアタシが呼ばれたってわけ」
「マイヤーさんは、この国の出身なんですか?」
「違うわよぉ、ただ、そこのそれなりに偉い人と面識があってね。困ってるからって呼ばれたの。これじゃ試験が出来ないから何とか出来ないかってね」




