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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第4章「魔法と特殊なカーニヴァル」
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第47話「洗朱の綻び」

「いいの? 君の主だよね」


 声が聞こえ入口を仰ぐ。そこには見たことのない男が立っていた。


 優し気な顔立ちが険しさを象っている。気配がしなかったということは、それなりに強いのだろう。警戒心を強め睨み付けていると、彼も同じように眉根を寄せていた。


「誰だよアンタ」


「メルキオールのチェスター・ケイン。暴走しかけてたし覚えてないよね。君を寝かせたのは俺だよ」


「寝かせた……?」


「そう。何か思い出したんじゃない? ついでに君達の繋がりを一時的に遮断させて貰った。椿のことは、ちゃんと分からなくなってる?」


「今なんて言った……?」


「彼女は契約を破棄してない。俺が無理矢理、君達の繋がりに細工をしたんだよ。一度、離れて考えて欲しかったから」


「余計なことを……!」


「アレが君達の本音だよね。繋がりに甘えていた君達の綻びだ。心が繋がっていても一言一句分かる訳じゃない。ましてや流れ込んでくるのと、理解してあげられるのはまた違う。話し合いにならないのは、お互いの主張をぶつけているからなんだよ」


「だからなんだって言うんだよ!? 俺達のことはアンタには関係ないだろ!?」


「関係ある。世界を壊しかねない不安因子が関係ないわけないんだよ」


「世界?」


 スケールの大きすぎる話に眉が撥ねる。表情一つ変えない彼は、まだ若いというのに威厳といえるほどのオーラを纏っていた。


「俺にも、かつて愛した悪魔(ひと)がいた。そして繋がっていたからこそ失くしたんだよ。……繋がっているのは心地良いよね。言葉にしなくても分かったような気になって、けれど、全てが分かるわけじゃないから、知らない事実に甘えていられる。

 俺や彼女のように視える人間は、言葉を口にするのを怖がる傾向がある。そんな俺達が、それに甘えないわけがないんだよ。人と分かり合うよりも、ずっと安心出来るし、傷付かない。でも、それじゃダメなんだ。彼女には、ちゃんと世界の広さを教えてあげなければいけない。

 君も、そろそろ過去に向き合わないといけないよね。戻った記憶と、どう向き合うかはアッシュの自由だよ。でも俺達のように間違えないようにね」


「なんでそんなに詳しいんだ」


「アッシュのことについてはクレイグに聞いているだけだよ。俺達は友人なんだ」


「クレイグと……?」


「まだ思い出したいなら協力してあげてもいい。でも生きていた頃(・・・・・・)の記憶が戻ったのなら、なにもしなくても思い出せるよ。アッシュの初めての主は、君に幸せになって欲しいと思っていたみたいだしね」


 意味深な言葉に睥睨を向ける。いつの間にか柔らかく笑んでいた彼の瞳は郷愁に揺れていた。どうやら先程並べた言葉の羅列は出まかせではないらしい。


「チェスターさん、ツバキが泣いてたけど何があったの?」


 知らない男が椿の名を呼んでいる。俺の知らぬところで交流が増えているのは、良い気がしなかった。


「あ、起きたんだ。良かった。具合はどう?」


「おい、椿がどこ行ったか教えろ」


「え?」


「どっちに走ってったか教えろって言ってんだよ」


「人に物を頼む時は言い方ってもんがあると思うんだけどな……」


「いいから早く!」


「コレも何かの縁だね。公演も終わったし手伝うよ。ツバキを探そうか」


 人畜無害そうな雰囲気を携えていたくせに、その類の人間ではなかったらしい。不敵に笑む姿は青年のそれではなかった。

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