第44話「曙色の過ち」
「まだ詳しい話を聞いてなかったって感じね。あ、敬語はなくていいわよ。私も動転して外してしまったし」
「サラも能力者なの?」
「ええ。金属を自由自在に操れる能力を持っているの。まだ全然使いこなせてないんだけどね。ツバキは、どうしてサーカスに?」
「チェスターに連れられて。友達、なの」
「チェスターってことは……もしかして異世界から来たの?」
やはり事情は折り込み済みか。色々と気を回したせいで、溜息を吐きたい気分になった。
「うん。それを知ってるなら何を話しても良さそうだね」
「同じくだわ」
弾まなかった会話のせいで、ぎくしゃくしていた雰囲気が変わる。笑声を挟んだことで柔らかくなった空気に、私は更に笑みを零した。
「ずっと気になってたんだけど、彼も友達? もしかしてどこか具合が悪いの?」
「具合を悪くさせちゃったみたい」
「どういうこと?」
「私のせいなの。私がハッキリしないからアッシュが……」
そこまで紡いで口を噤んだ。なんと言っていいか分からないし、上手く話せる気もしない。初対面の相手に話すには気が引けた。
「大丈夫よ。話して楽になることってあるでしょう? 私で良ければ聞くわ」
白い髪に白い肌。柔らかな雰囲気と口舌はまるで聖母のようだ。実際にマリア様がいたのなら、こんな感じなのだろう。私はサラのしとやかな髪を横目に、そっと爪先に視線を落とした。
「……彼、アシュリーって言うの。私はアッシュて呼んでるんだけど。そうだな……私ね、アッシュが好きなの」
「うん」
「彼、悪魔でね」
「うん?」
「やっぱりココは受け入れられないか」
「ちょっと待ってね。あの人、悪魔なの?」
「そう。バーゲストって言って犬の容になるの」
「凄いわね、悪魔」
「でも疑わないんだ?」
「自分も超能力を使うのに疑ってどうするの? それにツバキの顔を見ていれば分かるわよ。ずっと一人で悩んできたんでしょう? 一人って辛いわよね。例え寄り添う人がいても、所詮、人は独り。寄り添ったからって全てを共有出来たりはしない。相手のことを分かったつもりでいても、それは所詮分かったつもりなのよ」
「サラ……?」
「ごめんなさいね。少し、犯した過ちを思い出してしまったの。続きをどうぞ」
困ったように眉根を寄せた彼女がショールを直す。彼女も、ただの可愛い女の子じゃないのだと分かれば好感が持てた。
同性の友人がいない私には、こういった時間が無かった為、些か緊張してしまう。威儀を正してから、彼の寝顔を今一度見やる。彼のいない場で言葉を紡ぐなど何年ぶりだろうか。そう思惟して、片時も離れなかった時間を思い出した。
話したことがないのだなんて当たり前だ。例え、友人がいたとしても、私は話すことなどなかっただろう。彼に想いを知られてしまえば、どこかで何かが崩れるのは必須。一番が何かを考えれば、私が、その選択をすることがないのは明白だった。




