第43話「珊瑚色の紹介」
「それで、俺に会いに来たってことは何か用があるんですよね?」
「それはサーカスの後で構わないよ。とりあえずアッシュを寝かせるベッドが欲しかったんだ。それと、この二人も暫くお世話になるかもしれない。ヤムさんに伝えておいて貰えるかな?」
「それは構いませんけど、俺が公演している間どうします? ヒヤマさんは見ていきますか?」
「いえ、アッシュが心配だからココに居たいです。あと椿で構いません。敬語も、いらないので」
「そう? チェスターさんはどうします?」
「俺は手伝うよ。人手がいるでしょう?」
「ありがとうございます。助かります」
『フィーロ、そろそろスタンバイしないとダメな時間じゃない?』
テントの前から声がする。綺麗な女性の声は控えめな雰囲気を纏っていた。彼女の声を聞き届けたフィーロが「そうだ」と零す。何かを思いついたらしい彼は扉を開け、白髪の女性を引き入れると私の方へ連れてきた。
「ツバキ、彼女はサラ。ココは彼女に任せるから、分からないことがあったらサラに訊いて」
「分かったわ」
「サラ、ごめんね! 詳しいことはツバキに聞いて!」
「え!? ちょ、フィーロ!?」
「行きましょう、チェスターさん」
白髪の彼女を置き去りにしたフィーロが、チェスターを引き連れ部屋を後にする。焦った様子の彼女は私へ視線を移すと曖昧に笑んでみせた。
「えっと……ツバキさん?」
「緋山 椿です。初めまして」
「サラージェ・リーヴよ。初めまして……で、状況の説明をお願いしてもいいかな?」
どこまで話していいのだろう。フィーロはチェスターがウィッカであることを知っていたが、彼女もそうであるとは限らない。けれども、彼が置いて行ったということは事情を知っていると思っていい気もした。考えあぐねていると、何か勘違いしたらしいサラさんが焦ったように私をソファへ誘った。
「えっと……新入団員とかじゃ……」
「ないです」
「そうよね! んー、でもフィーロが部屋に入れてるってことは能力者ってことでいいのかな……?」
「能力者?」
この世界でそう呼ばれる者がいるという記述を見たことはない。それでもテントの説明がつかないことや、フィーロが不老不死であること、更には時折その単語が出てくるという点から、それらを〝能力〟という単語で片付けていると考えて相違ないように思えた。
フィーロが所属しているサーカス団が政府直属であることを考えれば、記述がないのも納得がいく。〝能力者〟の存在は国ぐるみの隠し事というわけだ。
「この国ではフィーロのような能力者がいるんですね」
とりあえず話を合わせておけば問題ないだろう。チラリとアッシュを伺うも、彼が目覚めそうな気配はなかった。