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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「擦れ違うは真面目な死神君と直帰したい天使さん」
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第34話「聴色の主張」

「なんで来たんだよ」


「何年かぶりの友人に酷いじゃないか。私は、そんなに邪魔だったかい?」


「邪魔だね。これだと椿の寝顔が確認出来ない」


「人の成長とは早いものだね。少女が女性になっていた」


「見たのか?」


「想像だ」


「相変わらず気持ち悪い奴だな」


「酷いじゃないか。私は傷付いたよ。本当のことを話すと血の匂いが変わっていたんだ。フルーティーで芳醇な……」


「血の話はいい。何をしに来た」


「不老不死の話を彼女にはしたのかい?」


 彼の言葉に身を固くする。緘黙し、はす向かいに座る俺をジッと見据えてきたかと思うと、彼は溜息を吐いた。


 自ら口を開く気はないと判断したのだろう。山羊の被り物を脱ぎ捨て本来の姿を晒した彼は、ついでとばかりに烏の羽も閉まっていた。


「君は彼女を、どうしたいんだい?」


「俺は椿を悪魔にしたいだなんて思ってない」


「それであの子が苦しむとしても?」


 少し長めの横髪が揺れる。金糸のそれは白熱灯の下でも煌々と輝いていた。優し気な垂れ目の奥では、金眼が此方の様子を伺っている。それがどうにも居心地悪く、俺は目を逸らした。


「アッシュ、君はまた悲劇を繰り返すつもりなのかい?」


「違う。俺はただ……」


「ただ? ただ、なんだい? これ以上茶番を続けてどうなる? あの子の命は花と同じ。儚く須臾の時しか刻めないんだよ? 君も共に果てる、だなんて夢物語を今でも信じているのかい?」


 言いたいことは分かっている。そもそも〝死〟の象徴である俺自身に〝命〟なんてものがあるのかすら分からないのだ。俺は死んだことがない為、その時が来てみないことには何も分からない。それでも俺は生きていたくなどなかった。


「心を傾けて死を望むのはいい。でも、その後、君は必ず蘇る。悪魔とはそういうものなんだよ」


「でも俺には、こういう生き方しか出来ない」


「エノーラが死んだのは君のせいじゃないよ。彼女は彼女の生を全うした。アレはどうにもならないことだったんだ」


「共に果てることは出来た。俺は孤独な彼女を、また孤独してしまったんだ。……その罪は消えない」


「アレはエノーラの決断だ。アッシュに幸せになって欲しいと……」


「そんなことは分かってる……! でも俺はエノーラに生きていて欲しかったんだ!! アイツは全然分かってない。分かってなくて、優しくて、残酷で。でも、その残酷なくらいの優しさを俺は愛しいって思ってたんだ……!」


「それが人の考え方なんだよ。色んな愛し方があるだろう。彼女の愛し方は自己犠牲の上に成り立っていた。ただ、それだけの話だ」


「分かってる……人は慈悲深い。故に罪深く残酷なんだ」


「分かっているのなら終わりにしないか。彼女の前から去るか、彼女を堕とすか。答えは二択に一択。私は心配なんだよ。あの子はエノーラに似過ぎている。このままでは、いつかアッシュが壊れてしまうよ。君はエノーラに愛を貰った所為か、愛し方も一つしか知らない。それは身を滅ぼす〝愛〟幸せにはなれないよ」


「幸せじゃなくていい。俺は椿と居れたらそれでいいんだ」


「その考えを、私は咎めているんだよ。あの子は強い。君がいなくても生きて行けるだろう」


「……椿は昔から、よく笑い、よく泣き、よく食べ、よく喰み、よく狂れる子だった。いつか気付いたんだ。この子は感受性が豊かなばかりに俺たち(人ならざる者)感情()も拾ってしまうんだ、ってね。

 俺がしているのは〝持て余したもの〟を彼女を通して闇へと帰依させること。闇を闇に還してるだけ。つまり俺と彼女は離れたら生きていけないんだよ」


「それはアッシュが、そう信じ込んでいるだけだろう」


「大切な人がいない世界は午夜よりも深い闇だ」


「愛を知らないままなら良かった。けれども、彼女に主以上の情を抱いているのなら、私は友人として見逃せない」


 お互いの主張が噛み合わない。即ちそれは耳を傾ける気は無いという意思の表れだった。

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