第29話「一重梅の放課後」
麗らかな日差しを浴びて、午後三時の街を歩む。下校時に買った棒アイスを咥える私は、上機嫌で家路を歩んでいた。
遅刻はしなかったし、三賢者の一人は容姿が知れた。この間は実際に顔を突き合わせることに成功したし御の字である。久しぶりに放課後を満喫していると、同じ制服を身に付けたアッシュに脳天を軽く叩かれた。
「ニヤニヤするな」
「ニヤニヤしてるのはアッシュでしょ」
「椿がニヤニヤするから、俺までニヤニヤしちゃうんだよ」
「だったらダイエットしたら?」
「はぁ?」
「感情を喰べなきゃいいじゃない。なにも全部喰べなくたって……」
「俺は実体化して腹が減ってんの。何でも喰わないと、アンタは一人で誰もいない空間に話し掛けてる痛い子になっちゃうでしょ」
それでもいい、と言っているのに分からない人だ。不満げにアイスを齧るも、私の表情筋が動いてくれることはなかった。特大の液晶画面には最近流行りのアイドルが映し出されている。それに向かって黄色い声を上げている外国人は、やたら通る声で叫び散らしていた。
「長春色の髪なんて本当にいるんだね」
色んな世界を旅してきて様々な容姿の人間と言葉を交わしてきたが、よもや日本にもいるとは思っていなかった。「Lilac素敵ー!」だの「藤大好きー!」だの叫び散らしているあたり、相当熱の入ったファンらしい。周りの人間は気にする様子もなく通り過ぎている。それに違和感を覚えた直後、彼女は姿を消した。
「アッシュ!」
「なに?」
「今の叫んでた人見た!?」
「え? うん、まぁ」
「追える!?」
「なんで?」
「多分、今の三賢者だよ!」
「はぁ!? なんで三賢者がこんなとこ……アイドルファン? 三賢者なのに?」
「まぁ、言いたいことは分かるけど。とりあえず追えない!?」
「厳しいけどやってみるよ」
すぐさま犬の姿になったアッシュが匂いを嗅ぐ。その後を走ってついていくも、彼女の姿は見えない。
「やっぱりダメ?」
「正直、難しい。魔力が強いやつほど、隠すのも上手いからね。でも、こっちに変な気配があるから、とりあえず、かな!」
風のように人の波を抜けていくアッシュを追う。私の走る速度に合わせて駆けている為、追い付けないだろうことは分かりきっていた。
それでも対象が動いていない、と聞けば、否が応でも期待が生まれる。私は息を切らし、入り組んだ道を走っていった。




