第2話「緋色の瞳」
身に付けていた衣服を剥ぎ取り、着慣れたセーラー服を身に付ける。姿見で深緑色のスカーフを直していれば、化け物じみた容姿の自身が鏡の中で紺色の衣服を纏っていた。
私は世間でアルビノと呼ばれる病を患っている。染色体に異常をきたした肢体は、文字通り抜けるような白色だった。睫毛も、髪も、本来は桜色だろう唇まで、降り積もった雪のように真っ新である。瞳も血潮の色が透けている為、緋色なのだ。この容姿のせいで、幼い頃は随分と虐められた。けれども、それすら彼と出会う為の伏線だったのかもしれない。そう思うと、背で揺れる長い髪すら愛しく思えた。
蛇みたいで気持ち悪いと言われた白髪も、彼が毎日結いアレンジしてくれる。女の身であることを感謝しながら鏡を覗く瞬間は、幸福以外の何物でもない。鏡の中の私が微笑むことはないが、目が合った彼は優しく笑んでくれる。それだけで私は〝生きていて良かった〟と思えた。
こんな風だから悪魔に魅入られてしまったのかもしれない。それでも、優しい悪魔は私にこう言ったのだ。
——泣き虫なアンタの涙を引き受けてあげるよ。
瞼を下ろして額を合わせた次の瞬間、目の前で彼が号泣していた。ピタリと止んだ私の落涙。笑った筈なのに動かない表情筋。私はそれから感情を表すことが出来なくなった。
感情が失くなっていたわけではない。ただ表現することが出来なくなっていたのだ。驚く私に彼は優しく、こう説いてくれた。
一つ、悪魔は感情を喰らうものである。
二つ、故に感情、痛覚、命、全てを共有している。
三つ、私の死は彼の死を意味する。
四つ、契約を反故することは主である私にしか出来ない。
本来、悪魔が契約を持ちかけることは出来ないそうだ。私と契約できたのは所謂〝偶然〟というやつらしい。詳しいことは私にも分からないが、そうして私達は主従関係を結ぶこととなった。
宙に浮いたような私達の関係は名前を付けることも難しい。主従というには、あまりにも歪で優し過ぎる。まるで恋人でも扱うかのように彼は優しかった。