表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「心を侵された二人と奇病探偵」
27/69

第26話「猩々緋の約束」

「椿、俺を殺してくれる?」


「やだ。アッシュが死ぬのは……」


 背中に刺さった口舌に思わず背後を仰ぐ。目を瞠ったまま彼に向き直って胸元に縋ると、その手を握りしめられた。黄昏時の橙が私達を照らす。彼の白皙も赤みがかっており、温かな色合いをしていた。


「死ぬ時は一緒だよ。椿が死ねば俺も死ぬ。ただ、それだけの話。その代わり、この先ずっと椿の傍にいてあげる。泣き虫な君の涙を俺が引き受けてあげるよ」


「ずっと一緒にいてくれるの?」


「うん」


「寝る時も? ご飯食べる時も? お家でも?」


「椿がそうしたいなら」


「本当?」


「うん。でも、お願いがあるんだ。たとえ火炙りでも、餓死でも、溺死でも絶対に解かないで(・・・・・)。椿と死ぬ為に俺は生きてるんだから」


 解いた手が私の頬を包み込む。大きな掌と顔の近さに狼狽していると、彼のかんばせが少しずつ近づいてきた。反射的に目を瞑り唇を引き結ぶ。さすれば額に彼の温もりを感じた。


「いい? 忘れないで。絶対だよ。この約束は絶対破らないで」


 もう一度目を瞑って瞼を上げると、一度として落涙したことのない彼が号泣していた。私の涙は、いつの間にか引っ込んでいて出てくることはない。その日から私は表情を象ることが出来なくなった。


 契約を結んだ年の誕生日、彼は漆黒のローブをくれた。それは今でも宝物で、彼はいつも身に付けているよう私に言いつけた。


 漆黒のローブは彼の毛で作られているものらしい。コレを身に付けていれば寒さも感じないし、暑さも感じない。凍ることもなければ、焔に身を焼かれることもなかった。


 本当は誰にプレゼントしたかったのか、それを思えば胸が爛れた。それでも彼は私を大切に思ってくれている。それでいいではないか。彼女はいないし、私は彼の唯一無二。心に一人棲まわせているくらい何だというのだ。それでも、何故彼の心が私一人のものにならないのか、その答えを探し続けていた。


 ぶちまけてしまいたい。私のことも、あの人のように愛して、と。私のことも、あの人を語るような貌で話して、と。心に棲まわせるのは私だけにして、と。そんな想いを呑み込み続けた咽頭は、既に焼け爛れて膿んでいる。


 どうやらこのローブは嫉妬の焔から私を守ってくれることはないらしい。いくら呑み込んだところで、彼には筒抜けなのが憎らしかった。だって全てを分かっていながらも、彼は進もうとはしなかったから。だったら、誰かに隣を明け渡したりなどしたくない。私が彼の隣にいたい。だって……


 ——愛してるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ