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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「心を侵された二人と奇病探偵」
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第22話「赤の追憶」

「だんまりですか。それもいいでしょう。貴女の〝記憶〟を探れば分かることです」


「記憶?」


「ええ、僕は普段シェーンの記憶を探って奇病を治すのです。ですから貴女の夢に干渉し、分岐点となった記憶にお邪魔させて頂きます。そして僕の探してる答えを貴女が持っているかどうか確かめるのです」


「私は嘘を吐いてない」


「それは記憶を辿れば分かることです。夢の見方は人それぞれ。追体験する者も居れば、その時の自身を近くで眺める者もいるそうです。ツバキさんが、どういう風になるのか楽しみですね」


 歩み寄ってきた彼が至近距離で唇を歪に撓らせている。悪人面とも言えるその様相に、もしかしたら此方が素なのかもしれないと思った。


「どうしてそこまでして治したいの? レ―ヴィは別として、イッカは困ってるようには見えないのに」


「レ―ヴィを治してあげたいからですよ」


 頬に伸びてきた手を避けることもせず、真っ直ぐ問う。そんな私に面食らった表情を返しながらも、イッカは壊れてしまいそうなほど優しい気な表情を浮かべていた。


「僕の病は明日死ぬとも、千年後まで生きるとも言える不確かな病。ですが、それは普通の人も同じ。〝いつ死ぬか分からない恐怖〟が身近になっただけなのです。

 ですがレ―ヴィは違います。元々、美しかった人間が醜く変貌するのも、気が狂れてしまうほどの恐怖でしょう。ですが彼は愛を知らぬまま育ち、愛を押し付けられ、愛が遠のいていく恐怖を体感するのです。それは、きっと醜く朽ちるよりも辛い筈……何故、平等に産まれた筈の僕達は、平等に生きられないのでしょうね。同じ容姿で、同じ性格で、同じ資産で、同じ時間を生きられたのなら、誰も苦しまずに生きていけるのでしょう。ですが、この世界は残酷です。神も幽霊も悪魔の証明。魔法ですら同じです。けれども、僕達は何かに縋ることを止められない。弱くてちっぽけな人間は何も変われないのです」


「そうね」


「ココは否定するところですよ」


「変われる人もいれば、そうじゃない人もいる。だから奇病に罹るのも罹らないのも個人差があるのよね。でも分かった気がする……この世界の人間は不幸に縋って生きているのね」


 不幸に縋った〝奇病〟という形で、この世界は出来てしまった。そこから抜け出すのは恐らく容易ではないだろう。だって世界が不幸で成り立ってしまっているのだから。


「そういう考え方も面白いですね。ですが、僕は不幸で終わる気はありません。レ―ヴィの人生も不幸で終わらせるつもりはありません」


「いいよ」


「え?」


「覗きたかったら覗けばいい。私の心は、いつもアッシュが覗いてる。見られて困る記憶もない。見たかったら見ればいいわ。もしかしたら私には見つけられない〝答え〟をイッカなら見つけられるのかもしれないしね」


「ウィッカというのは変わった人が多い。それとも異界の人間は考え方が違うのでしょうか」


「どうだろう。でも、どこの人間も変わらなかったよ。良い人もいれば悪い人もいる。人は愚かだしね」


「そうなのですか。では目を瞑って、リラックスしてください」


 言われた通り瞼を下ろす。真っ白だった視界は黒暗に染まり、再び睡魔に襲われた。


 夢の中で〝眠い〟だなんて不思議な感覚だ。私がそのまま身を任せていると、イッカの声が微かに聞こえた。


「おやすみなさい。ツバキ」


 永遠に、という意味じゃなければいいな、と思う。私はアッシュを泣かせたくはないから。

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