第21話「朱色の夢」
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夢だと分かった。身体は異様に軽いし、そのくせ言うことを利いてくれない。意識が途絶えるまでの記憶も鮮明で、とても〝寝ている〟とは思えなかった。
辺りを見渡せば真っ白な空間が広がっている。白熱灯など見当たらないし、窓がないにも関わらず、場は光溢れていた。温かくもなければ寒くもないココは、どこか寂しさを感じさせる空間だった。
「ツバキは夢の中でまで真っ白なんですね」
先程まで何も無かった筈の空間にイッカが現れる。目の前に突然現れる様に、魔法でも使われたかのような錯覚を得た。彼はと言えば、ずっと笑みを浮かべている。彼の掌中で焦るだけ無駄だと思った私は、イッカに向かって笑みを浮かべた。
「なんだ。椿も笑えるんですね」
「ホントだ。笑ってる」
「なんですかその反応。おかしな人ですね」
クスクスとした笑声に、自らも同じ音を重ねる。暫くそうしていると、彼が形の良い唇を開いた。
「君は〝ウィッカ〟で合っていますか?」
「この世界に、その概念はないよね。誰に聞いたの?」
「薔薇十字団所属、三賢者の一人〝乳香〟のクリッシー・マイヤー。彼女は、そう名乗っていました。残念ながら御年は聞き逃したのですが、三〇前後と言ったところでしょう。美しい女性でした」
「それで、どうして私に声を掛けたの? ここまでしてもしたかった話って?」
「彼女は僕にこう言いました。『アタシに貴方は治せない。でも他の子だったら治せるのもいるかもしれないわ。もしも、この国にまたウィッカが現れたら捕まえてみるといいよ。貴方の運命が廻り出すかもしれないしね』」
だから、あんなに〝私〟に拘っていたのか。溜飲を下げ彼を見据える。なんと答えるか、など決まっているのだが、些か気が引けた。いや、本当に信じて貰えるか懸念していた、の方が正しいかもしれない。
「私に貴方は治せない。そもそも魔法の種類が違うの。私が得意とするのは花や水に纏わる魔法。治癒は分野外だわ」
「それを素直に聞ける性分だったら良かったのですが、生憎、僕は疑い深い性分でして」
「だと思った。だってイッカは私を逃がしてくれないんだもん。じゃあ私が、この国に来た目的を教えてあげる。私はね、永遠の命を求めてきたの。奇病に罹れば、そうなる者もいるって聞いてね。でも多分、私が奇病に罹ったところで、この世界じゃなきゃ生きていけない。それじゃ意味がないの。だから私は違う方法を探すしかないみたい」
「どうして、この世界にいないと意味がないと分かるのですか?」
「他の世界に〝奇病〟という概念がないからよ」
「ということは、貴女と一緒に別の世界に行けば僕の病は治るかもしれない、ということですね」
確かに、そうかもしれない。屁理屈のような気もしたが、彼の言っていることは理にかなっている。否定も肯定も出来ない私は、口を閉ざすしかなかった。