表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「心を侵された二人と奇病探偵」
22/69

第21話「朱色の夢」

 *


 夢だと分かった。身体は異様に軽いし、そのくせ言うことを利いてくれない。意識が途絶えるまでの記憶も鮮明で、とても〝寝ている〟とは思えなかった。


 辺りを見渡せば真っ白な空間が広がっている。白熱灯など見当たらないし、窓がないにも関わらず、場は光溢れていた。温かくもなければ寒くもないココは、どこか寂しさを感じさせる空間だった。


「ツバキは夢の中でまで真っ白なんですね」


 先程まで何も無かった筈の空間にイッカが現れる。目の前に突然現れる様に、魔法でも使われたかのような錯覚を得た。彼はと言えば、ずっと笑みを浮かべている。彼の掌中で焦るだけ無駄だと思った私は、イッカに向かって笑みを浮かべた。


「なんだ。椿も笑えるんですね」


「ホントだ。笑ってる」


「なんですかその反応。おかしな人ですね」


 クスクスとした笑声に、自らも同じ音を重ねる。暫くそうしていると、彼が形の良い唇を開いた。


「君は〝ウィッカ〟で合っていますか?」


「この世界に、その概念はないよね。誰に聞いたの?」


「薔薇十字団所属、三賢者の一人〝乳香〟のクリッシー・マイヤー。彼女は、そう名乗っていました。残念ながら御年は聞き逃したのですが、三〇前後と言ったところでしょう。美しい女性でした」


「それで、どうして私に声を掛けたの? ここまでしてもしたかった話って?」


「彼女は僕にこう言いました。『アタシに貴方は治せない。でも他の子だったら治せるのもいるかもしれないわ。もしも、この国にまたウィッカが現れたら捕まえてみるといいよ。貴方の運命が廻り出すかもしれないしね』」


 だから、あんなに〝私〟に拘っていたのか。溜飲を下げ彼を見据える。なんと答えるか、など決まっているのだが、些か気が引けた。いや、本当に信じて貰えるか懸念していた、の方が正しいかもしれない。


「私に貴方は治せない。そもそも魔法の種類が違うの。私が得意とするのは花や水に纏わる魔法。治癒は分野外だわ」


「それを素直に聞ける性分だったら良かったのですが、生憎、僕は疑い深い性分でして」


「だと思った。だってイッカは私を逃がしてくれないんだもん。じゃあ私が、この国に来た目的を教えてあげる。私はね、永遠の命を求めてきたの。奇病に罹れば、そうなる者もいるって聞いてね。でも多分、私が奇病に罹ったところで、この世界じゃなきゃ生きていけない。それじゃ意味がないの。だから私は違う方法を探すしかないみたい」


「どうして、この世界にいないと意味がないと分かるのですか?」


「他の世界に〝奇病〟という概念がないからよ」


「ということは、貴女と一緒に別の世界に行けば僕の病は治るかもしれない、ということですね」


 確かに、そうかもしれない。屁理屈のような気もしたが、彼の言っていることは理にかなっている。否定も肯定も出来ない私は、口を閉ざすしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ