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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「心を侵された二人と奇病探偵」
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第20話「深紅の啓示」

「寝かせたら?」


「嫌。何があるか分からないから」


「本当に大切なんだね」


「大切に思いたくなんかなかったのにな」


「アッシュってへそ曲がりなんだね。素直に言えばいいのに」


「俺は悪魔だ。人を好きになることはない」


 口に出したことで改めて認識する。〝そうだ、俺は人を好きになってはいけないのだ〟と唇の裏で呟いた。


「それって矛盾してるよね。好きなのと大切なのはイコールじゃないの?」


「違う。俺は椿が主だから大切にしてるだけだ。それよりイッカは何をしようとしてるんだ。答えろ」


「アッシュは寂しい人だね……って悪魔!?」


「今更なに。俺達がこの世界に来たの見てたっしょ」


「見てたけど! 奇病の一種かと……中には空を飛ぶのもいるのかなって」


「イッカはそんなこと言ってたのか?」


「言ってない」


「お前さ、ちゃんと大事にして貰ってんの?」

「……どうだろ。でもいいんだ。イッカは俺の恩人だから。俺がイッカを大切にする理由は、それだけで十分」


 分かるような気がした。矛盾していても、それが真実なのだ。見下ろした椿は、俺が心配していることなど露知らず、呑気な寝顔を晒していた。


 刹那、壁越しに叫び声が聞こえる。顔を顰めレ―ヴィを見やると、彼も同じように眉根を寄せていた。


「いいのかよ。患者をほっぽって」


「良くはないよ。でもイッカが旅をしてるのは元々自分の奇病を治す為だから。蜘蛛の糸を手離すつもりはないんだと思う」


「そもそもなんで椿なんだよ」


「前に似たような女の人に会ったことがあるんだって」


「は?」


「その人は自らを〝ウィッカ〟と名乗って、次に現れた人を引き留めるように言ってたんだって」


 真剣みを帯びた瞳というのは質が悪い。緋色の瞳が椿を彷彿とさせ、俺は心を掻き乱されるかのようだった。世界を渡れるウィッカなど、そう多くはない。椿を引き留めるよう説いたあたり、陰謀めいたものを感じた。


 イッカの目的は〝奇病を治すこと〟。では、それを指示したウィッカの目的はなんだ。彼に協力することで、何らかのメリットがあったから啓示のようなものを残したのだろう。そのメリットが分からない俺には、椿を案ずることしか出来なかった。


「無事でいて。無事でいてくれたら何も望まない。例え……」








 ——君が俺を忘れてしまっても。

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