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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「心を侵された二人と奇病探偵」
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第19話「蘇芳の干渉」

 *


「お前、何をした?」


「ふふっ、ちょっと食事に睡眠薬を混ぜさせて貰っただけです」


「そんな暇無かった筈だ」


「面白くないですね。そうですよ。僕は自身の奇病を使ってツバキさんを眠りに誘っただけです。大丈夫ですよ。ちょっと話がしたいだけなので」


 人好きのする笑みを浮かべたイッカが白々しい言葉を紡ぐ。椿を抱き寄せたまま、どうするべきか思惟するも、逃げ出すことは出来なかった。


「話がしたいだけなら普通に話せば良かっただろ。そもそも寝てる奴と、どうやって話をするんだ」


「僕は他人の夢に干渉する夢遊病者なのですよ。普段は、この能力を使ってシェーンの記憶を辿り、奇病を治しているのです。ですが今回はツバキさんとサシで話がしたいと思いまして。彼女を無理矢理、夢の世界へ誘いました。少し記憶も探らせて頂きますが悪くはしません。貴方の大切な人を害したりしませんよ」


「信じられない」


「だと思います。ですので、僕を殺したかったら勝手にどうぞ」


「へぇ、覚悟は決まってるってか?」


「ええ。その時はレ―ヴィが何をするか分かりませんが」


 チラリとレ―ヴィを伺うと、椿と同じ緋色の瞳に悪意が宿っている。「成る程、とんだ鼠だ」とほくそ笑めば、イッカも俺と似たような笑みを浮かべていた。


「夢に干渉している間は僕も寝なくてはいけません。その間は、どうしても無防備なのです。ですから何かしたいならどうぞ。一応レ―ヴィには説明出来るように仕込んであります。彼には貴方の暇潰しに付き合うように言ってありますし、好きに使ってやってください。それでは僕はこれで」


 ベッドへ腰掛けたイッカが船を漕ぐ。すぐさま褥に倒れ込んだ美少年はビスクドールのようだった。


 黙っていれば、ただの美少年なのに、とんだ狸を掴まされたものだ。俺は椿を抱きしめたまま、彼女の顔色を伺った。頬に口付ければ、いつもの体温が唇を覆う。長くて白い睫毛も、雪を欺く肌もいつも通りなのに俺の心はざわついていた。


 ——このまま目覚めなかったら……。


 いつかの彼女(・・)を想い、固く目を瞑る。心を探ろうにも、何かに阻まれているかのように何も流れ込んでこなかった。


「いつもなら何の夢を見てるかまで分かるのに……」


「え、アッシュも夢遊病だったの?」


「あぁ……アンタの存在忘れてたわ」


「皆、酷くない?」


「酷いのは、そのクソガキだろ。とんでもねぇことしやがって」


「イッカは優しいよ。凄く、凄く、優しいんだ。だからツバキに酷いことはしないよ」


「お前にとっての良い奴が俺にとっての良い奴とは限らない」


「そうだね。でも落ち着きなよ。聞きたいことにはちゃんと答えるし、異変があったらイッカに手を掛けてもいい」


「お前の主に対する想いはそんなもんか? 俺は椿に何を言われても絶対死なせたりしない。同じ徹は二度と……」


「俺とイッカは友達だよ。友達の願いはなるべく叶えてあげるももだからね。アッシュは、その……ツバキと……」


「言っとくけど恋人じゃねぇからな」


「えぇ!? だってあんなにくっついてさ!?」


「俺と椿は主従関係だ。俺は何があっても椿を守るし、椿は何があっても俺を捨てない。そういう契約なんだ。俺は二度と愛しい人は作らない」


「どう考えてもアッシュの椿に対するそれは独占欲だと思うけどね」


「あ?」


「ごめんなさい! ごめんなさい! 怒らないで!」


「うっせえな。怒ってねぇよ。独占欲なんて当たり前だろ。唯一無二の主なんだから」


「怒って、ないのか。ツバキに対してと態度違くない?」


「呼び捨てなのも気に食わない」


「ツバキさんでいかせてもらいます!」


 直立で威儀を正す様に溜息が零れる。悪意が感じられない様が余計性質が悪く思えた。彼と話しているうちに寝息が聞こえてくる。その様に本当に寝ているだけなのだ、と思うことが出来た。


 安堵の息を漏らし、今一度彼女の身体を強く抱きしめる。早く目覚めてくれるよう手の甲に願いを込めて接吻した。

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