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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「心を侵された二人と奇病探偵」
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第18話「珊瑚朱色の要因」

「何故僕が探偵を名乗っているんだと思います? 病気を治す為なら医者を名乗ればいい。そうじゃないのは、根本から治す為、原因を探って完治させるまでが仕事なのですよ。故に僕は奇病探偵を名乗るのです」


「医者は根本から治さない。奇病は精神病に似てるから再発しやすいんだ。だからイッカの仕事は根本から治すこと。俺も、その手伝いをしてるんだ」


「そういうことです。ウロボロス症候群は並外れた生に対する執着で引き起こします。故に自らの意思とは関係なく身体が再生し続けます……こういうのは奇病の特徴ですね。レ―ヴィの病も身体的な異常を来すものなので、傷とかはすぐ治ってしまうのですよ」


「便利じゃねぇか。俺は椿が怪我しないか、いっつも冷や冷やしてるよ」


 ごめんなさい、と胸中で告げる。頭を撫でられた後、旋毛に口づけされた為、私は驚きで目を瞠った。そんな私達にイッカが「せめて普通に座ってくれませんか?」と呆れ顔で告げられた。仕方ない、とばかりに顰め面のアッシュが私を解放する。体を起こした私が座り直すのを見止めてから、イッカは続きを紡いだ。


「醜いアヒルの子症候群の厄介なところは精神病との併発です。そうなると何が起こるか分かりますか? 自傷行為をするのですよ。コレがまた性質が悪い。醜い容姿の時も認識されない。美しくなっても認識されない。……自傷行為の大元の理由は『気付いて欲しい』という思い。そこでまた病み、自らを痛めつける。けれども、気付いて貰えない。悪循環が悪循環を呼び、心を殺していく。

 奇病が蝕むのは身体だけではありません。心、人生、人格、全てを蝕み不幸へと導くのです。ですから僕は、そんな患者を作らないよう旅をしています。併発したら、もう治せませんから」


「イッカは併発してるのよね?」


「はい。僕は先程『自らを不幸だと思う気持ち』が奇病を呼ぶのだ、と言いましたよね? 治療もコレを元に行っていくので、言葉で説明するのは至極単純なのです。だって本人に『自らは不幸じゃない』と思わせればいいのですから。けれど、それは僕達が思うよりも、ずっと難しい。何故なら楽だからです」


「楽?」


「ええ。不幸でいるのは楽なのですよ。全て誰かのせいにして逃げていればいいのですから」


「お前らも、そうだったんだろ? 自分のもんも治せないのに人のもん治せるわけ?」


「いい質問ですね。残念ながら僕はもう自らを不幸だとは思っていません」


「は?」


「だから、この病から抜け出そうと足掻いているのです。ですから……なんでもしますよ」


 唐突に睡魔に襲われる。普段とは違う視界の霞み方に一服盛られたのだと気付いた。


「このチャンスは逃せませんから」


 イッカの声が遠くなる。申し訳程度にアッシュに手を伸ばそうとするも、身体が言うことを利くことはなかった。指令を出した右手は動いてくれない。「ごめんね」と紡ごうとした唇も、音を乗せてくれはしなかった。泥のような身体が傾いていく。温もりに包まれたことでアッシュが抱き止めてくれたことを知る。重たい瞼を閉じるも、愛しい人の声だけは鼓膜が拾い続けていた。それも、やがて聞こえなくなってしまったけれど——。

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