第17話「真朱の謝辞」
「ツバキ、気にしないで。慣れてるから」
「こういうのには慣れたらダメなの。私に、それを教えてくれたのはアッシュなのに……」
「椿は特別、ソイツは嫌い」
避けれただろう手刀を敢えて受けるあたり、悪いことをしている自覚はあるのだろう。それでも不満そうにしているのは「愛されている」から。私にとっては嬉しい限りなのだが、相手に敵意を向けるのはどうしても好きになれない。
「……ごめんって。分かってるよ。もうしないから、そんな複雑な感情を抱かないで」
囁くような謝辞に微笑む。「喰べちゃった?」と訊けば、首肯する彼がいた。
「来て。椿が足りない」
「なにそれ」
上半身を起こしたアッシュが私の手首を掴む。為されるがままに彼の胸へ体を預けると、二人でベッドへ飛び込む形になった。
「なにがしたいの?」
「スキンシップ」
どうやら彼も感情を制御出来ていないようだ。流れ込んでくるのは痛み。静電気にも似たヒリヒリとしたそれは舌先が灼けてしまいそうだった。
「苦いね」
「苦いよ。それに……」
「え、えっと……俺、席外そうか……?」
「こういう時は黙って出てくのがマナーじゃないの? レ―ヴィ?」
「ごめん! そういう気が回らなく……」
アッシュの言葉に呼応したレ―ヴィが場を去ろうとした刹那、部屋の扉が開く。溜息と共に言葉を紡いだイッカは溜息を吐いていた。
「なんですかコレは。レ―ヴィは複雑なプレイがお好みで?」
「そうじゃないから! イッカやめて!」
「まぁレ―ヴィは放っておいて。お二人もいちゃつくなら場所を選んでくださいね。見た目によらず純粋な美青年と、見た目によらず不純な美少年がいるんですから」
「どうしようが俺の勝手だ」
「まぁ、そうですね。では此方も堂々と邪魔をしますよ」
「チッ……クソガキが」
「イッカ、シェーンは?」
「あまり良くないですね。治すのも少し難しそうです」
「難しそうなの?」
「気になりますか? ツバキさん」
「そうね。さっき少し聞いたんだけど、ウロボロス症候群ってどうしてなるの?」
「奇病の元となる感情って何だと思いますか?」
「……分からないわ」
「『自らを不幸だと思う気持ち』です。僕達は自身を不幸だと思い込み、病に罹っているのですよ。僕もレ―ヴィも、はじまりはそれでした」
淡々とした吐露に私の表情も固くなる。それが奇病に罹る条件なのだとしたら、私にも十分素質があるように思えた。