第13話「赭の縁」
「変なところで人に会いますねぇ」
「イッカ……今の見た!? 見た!?」
「うるさいです。レ―ヴィ。全国のレ―ヴィさんに謝ってください」
「なんか良く分からないけど、イッカこそ全国のレ―ヴィに謝って!!」
人に見付からないように、と敢えて森の中を選んだというのに、これでは本末転倒だ。笑えない私には笑顔で誤魔化す、という芸当も出来ないらしい。尤も、咄嗟の判断で繕った笑みを喰べてしまったアッシュの方が笑って誤魔化す作戦を実行しているものだから、笑いそうになった。
「ところで、貴方達は奇病持ちですか?」
「奇病?」
「ご存知ないですよね。私、奇病探偵のイッカ・ヴィレンと申します。此方は助手のレ―ヴィ。貴方方のお名前は?」
肩まで伸ばした癖のない髪を携えた美少年が、柔らかな物腰で此方を伺っている。どうやら〝主〟は少年の方らしく、私は身構えた。けれども、名乗らないのも不自然だろう。それでも本来の名前を名乗るには些か不都合な国だった。
「椿よ。コッチはアッシュ」
「苗字は?」
「ないわ」
「そうなんですか。人間、生きていれば色んなことがありますよね。例えば本名を名乗れなくなったり」
「イッカ! そんな風に言ったら失礼だよ!?」
「これは失礼、お気を悪くされましたか?」
「……いいえ。それではこれで」
「そうですか。ご縁がありましたら、また……なんて言うと思いました? 珍しい症例をみすみす見逃すわけがないでしょう。僕とお話しましょう。ツバキさん、貴女何者ですか?」
「椿に触るな」
「おや、随分と強いナイトをお持ちで、では取引を致しましょう。僕は奇病持ちでピーターパン症候群と夢遊病の併発患者なんです。見た目は十三で止まっているんですけど、本当は二十六歳なんですよ。悪いようには致しません。少し診せて貰えませんか?」
「イッカ……」
「黙っていてください。もしかしたら彼女達は僕達が探し求める〝治療〟の手掛かりになるかもしれません。それならいくらでも手の内をお見せしましょう。ツバキさんの願いは何ですか? その〝見た目〟を治すこと、では?」
「……残念ながらこの容姿は気に入ってるの。治して貰わなくて結構よ」
「見たところメデューサ症候群だと思うのですが、どうです? 一度診察させて貰えませんか?」
「探偵なのに診察ね。医者でも気取ってるわけ?」
「アッシュ」
敵意剥き出しで私の腕を掴む少年の手を払うアッシュ。そんな彼を咎めるも、私の声など聞いていないようだった。いや、これは言うことを利く気がないということなのだろう。
不思議と少年に敵意のようなものは感じない。それでも明らかに彼の纏う雰囲気は異様だった。だからこそ私は、そそくさとこの場を去ろうとしたのだ。
「似たようなものですよ。僕は各地を転々としながら奇病を治しているのです。ですからツバキさんのソレも治せるかと。
奇病の原因は大抵が気の持ちよう。人は心一つで、どんな姿にもなってしまうのです。例えば僕のように不老になってしまったり、ね」
「不老……?」
「ええ、こう見えて大人なんですよ。僕」
やたら艶々とした髪が靡く。それを押さえ笑みを携える少年には、禍々しさすら感じるかのようだった。