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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第1章「緋色のウィッカとアジュールの魔女」
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第9話「柘榴色の知識」

「いいのぉ。僕も若かったら主等のようにキャッキャウフフしてみたい人生じゃった」


「若かったらって……全然、若いじゃないですか」


「これは魔法で見目を幼くしているだけじゃ。あくまで見た目をだからな、腰とか痛いんじゃよ。〝老い〟とは本当に恐ろしい」


「ジジイかよ」


「ジジイじゃよ。もう七十七歳だからな。老い先も随分短い。今は余生を満喫する為にお菓子食い倒れツアーをしている真っ最中じゃ」


「とても七十七には……」


「見えないじゃろ? 魔法とはそういうものじゃ。でも〝老い〟に勝てる人間などいない。僕は一生を賭けてその答えに辿り着いた」


「つまり私の求めているものの答えは知らない、と?」


「ああ」


「それじゃ勝った時の報酬が……!」


「〝没薬〟とは何じゃ?」


「え?」


「お前さんもウィッカの端くれじゃろう? 薔薇十字団にいて、それも知らんのか?」


「没薬とは、ムクロジ目カンラン科コンミフォラ属の各種樹木から分泌される、赤褐色の植物性ゴム樹脂のことを言います。外国語の転写からはミルラあるいはミルと呼ばれることもあります」


「他には?」


「古くから香として焚いて使用されていた記録が残されており、殺菌作用を持つことが知られています。主に鎮静薬、鎮痛薬としても使用されていました。

 古代エジプトにおいて日没の際に焚かれていた香であるキフィの調合には没薬が使用されていたと考えられており、ミイラ作りに遺体の防腐処理のために使用されていました。

 聖書にも没薬の記載が多く見られ、出エジプト記には聖所を清めるための香の調合に没薬が見られます。東方の三博士がイエス・キリストに捧げた三つの贈り物の中にも没薬があり、没薬は医師が薬として使用していたことから、これは救世主を象徴していると言われています。またイエス・キリストの埋葬の場面でも、遺体とともに没薬を含む香料が埋葬されたことが記されており、東洋においては線香や抹香の調合に粉砕したものが使用されていました。

 つまり貴方は〝救世主〟の象徴、その三賢者の一人である貴方が何も知らないなどありえるのでしょうか?」


「それが十分あり得るんじゃよ。薔薇十字団は本来、不老不死の実現の為に結成された組織。大凡一二〇年の間、見付けられなかったことを何故僕達が知っている? そもそも知っていたら三賢者である我々が、ただ老いぼれて死んでいるわけがなかろう」


「それを隠す為に三賢者が亡くなったように見せかけている可能性だってあるだろ。事実、お前は少年の姿をしてる。それで〝老いが怖い〟などとよく言えたものだな」


「この姿は生きていく為に身に付けた知識を元に、一番効率が良いと判断した結果じゃ」


「ガキのどこにメリットがあんだよ!?」


「皆、優しい」


「ガキ嫌いの奴だっているだろ」


「お菓子をくれる」


「スラムのガキか!?」


「子供料金」


「それ詐欺罪だからな!?」


「随分と物知りな犬っころじゃのぉ」


「このくらい常識だクソジジイ!!」


 悪魔が常識を語る世界など、そもそも終わっている気がするのだが、そこら辺には目を瞑ろう。恐らくアッシュがこうなってしまったのは私が原因だ。


「分かってるなら、もうちょっとしっかりしろよな、椿?」


「……ごめん」


「今回も準備してプラン考えたの俺だからな!? なんで死にたがってる俺が、お前の我儘の為に、せっせせっせと異世界行きの準備をするんだよ!? おかしいだろ!?」


「それは……アッシュがやってくれるから?」


「ほっとくと全部俺に丸投げしようとするから仕方なくやってんだよ」


「お主等ほんに仲良しじゃのぉ」


 大口を開けたディランが楽し気に笑っている。アッシュと共に彼を仰げば、穏やかな笑みを浮かべていた。


「久しぶりの逸材だから、どんなコンビかと思えば……うむ、悪くない。ところでカメリアの君」


「はい」


「主は何故、永遠の命を求める?」

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