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八月十日……その十六……

 夏休み……八月十日……。

 オールブレイカーこと『不死鳥ふしどり 壊人かいと』はなんだかんだあって、自分の母親の背中で眠っている。

 今回は細かい経緯などを説明している余裕はない。申し訳ない……。


 ここは壊人かいとの夢の中……。


「……お兄ちゃん……起きて……。お兄ちゃん」


「うるせえな……。俺にいったい何の用だ?」


 壊人かいとは白しかない空間で目を覚ますと、体を起こそうとした。

 しかし、自分の妹だと名乗るその人物がおおかぶさっていたため、動こうにも動けなかった。


「おはよう、お兄ちゃん。私のこと覚えてる?」


 白髪ロングと血のように赤い瞳(ジト目)と白い長袖ワイシャツが特徴的な美少女……いや美幼女は彼にそう言った。


「……あー、すまない。俺、今ちょっと疲れてるんから、そういうのは後にしてくれ」


 彼が目を閉じようとすると、彼女は彼のひたいにキスをした。


「なっ……! いきなり何すんだよ!!」


「キャア!?」


 彼はいきなりひたいにキスをされたため、動揺どうようした。

 そして、反射的に彼女を押し倒した。


「お……お兄ちゃん。私、まだ心の準備が……」


 彼女は頬を真っ赤に染めながら、彼から視線をらした。


「はぁ……何の準備が必要なのかは知らないが、寝起きの俺にちょっかいを出すのはやめておいた方がいいぞ」


「う……うん、今度から気をつける」


 彼女におおかぶさった状態で彼がそんなことを言うものだから、彼女は少し期待してしまった。


「それで? お前はいったい何者なんだ? 俺に妹なんていないはずなんだが……」


「え、えーっと、どう説明したらいいか分からないから、少しお兄ちゃんの体を私にゆだね……預けてくれない?」


「はぁ? なんで俺がそんなことしなくちゃならねえんだよ」


「……お兄ちゃん……お願い……。私のお願い聞いてくれたら、私を好きにしていいから……」


 彼は溜め息をくと、彼女から視線をらしながら、こう言った。


「そういうことは好きなやつにだけ言ってやれよ。多分、めちゃくちゃ喜ぶから……」


 彼女はそれを聞くと、ニッコリ笑った。


「お兄ちゃん、もしかして今、ドキドキしてる?」


「はぁ!? バ、バカッ! 俺は別にお前のことなんか何とも思ってな……」


 彼女はニコニコ笑いながら、彼をギュッと抱きしめた。

 その時の彼には、初対面の女の子に抱きしめられるという感覚など微塵みじんもなかった。

 それどころかどこかなつかしく思えた。


「……なあ、お前の名前を教えてくれないか? 何か思い出すかもしれないから」


「うーん、そうだなー。じゃあ、私が上になってもいい?」


「え? あ、ああ、それは構わないが……」


 その直後、彼と彼女の立場が逆転した。


「コホン……。えーっと、私の名前は『小雪こゆき』……『不死鳥ふしどり 小雪こゆき』。能力は『全てを喰らう者(オールイーター)』。とまあ、今言えるのはこれくらいかな」


「そうか……。けど、やっぱりお前みたいな妹は俺にはいないな」


「大丈夫。これから私が思い出させてあげるから、お兄ちゃんはじっとしてて」


「……ほ、本当にじっとしてるだけでいいのか?」


「うん、いいよ。私がお兄ちゃんの体にイタズラ……じゃなくて、上書きされている記憶を食べ終わるまでお兄ちゃんはじっとしててね」


「おい、ちょっと待て。お前は俺の体にいったい何をする気なんだ?」


「と、とにかくお兄ちゃんはじっとしてて! お願いだから!」


 彼女の瞳からは、わずかながら狩猟本能を感じたが、彼は仕方なく彼女の言う通りにすることにした。


「……はぁ……俺はじっとしてるだけでいいんだな?」


「うん」


「決して俺に変なことはしないな?」


「……うん」


「おい、今のは何だ?」


「き、気のせいじゃない?」


「そうか……。じゃあ、始めてくれ」


「わ、分かった。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」


「ああ、分かった」


 彼女は彼の首筋にみ付くと、しばらくの間、まったく動かなかったそうだ……。

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