八月十日……その十三……
夏休み……八月十日……。
オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』は、彼の弟『不死鳥 心悟』とパーフェクトブレイカーこと『不死鳥 総太』を連れ戻すために、とある山を登っていた。
その道中に、その山の守護神『ミコト』と出会った。
それから、なんだかんだあって彼女に道案内してもらうことになったのだが……正直、嫌な予感しかしない。
「おーい、心悟ー。総太ー。いるかー?」
山の頂上に到着した壊人は、大声でそう叫んだ。しかし、返事は返ってこなかった。
「まったく……あいつらいったいどこにいるんだよ」
彼ががっかりした様子でそう呟くと、白髪ツインテールと黒い瞳と白いワンピースが特徴的な美少女……いや美幼女『ミコト』がこう言った。
「お兄さん、元気出して。きっとまだその辺にいるよ」
「そうだといいんだがな……」
彼はトボトボと頂上付近を歩き始めた。
すると、巨大なクスノキがそびえ立っているのを見つけた。
「でっかい木だな……というか、なんで山の頂上にこんなでっかい木が生えてるんだ?」
彼が不思議そうにそう言うと、ミコトはこう答えた。
「あー、それはね。ここが私と私の友達の家だからだよ」
「……えっと、すまないが、もう一度、言ってくれないか?」
「え? いや、だから、ここは私と私の友達の家だよ」
「あー、そうか……そういうことだったのか……」
「へ?」
「お前、最初から俺のこと騙してたんだろ?」
「な、何言ってるの? 私はそんなことしないよ」
「嘘をつくな! 二人をどこにやった! 二人を返せ!!」
怒りを露わにする壊人。
彼の反応に動揺するミコト。
ミコトはどうにかして誤解を解こうとした。しかし、今の彼に何を言っても火に油を注ぐようなものだと思った。
だが、しかし……。
「さぁ、おとなしく二人の居場所を教えろ! さもないと……さも……ない……と」
「お兄さん!?」
急に意識を失い、仰向けで倒れる壊人。
彼の元へ駆け寄り、体を揺するミコト。
その様子をクスノキの枝に座って見ていた彼女の友達は、ニッコリ笑った。
彼女はそこから飛び降りると、彼へと歩き始めた。
ミコトはいつもの彼女からは感じられない不気味なオーラを感じ取った。
故に、彼女の行く手を阻んだ。
「……退いてくれる?」
白髪ロングと黒い瞳と白いワンピースが特徴的な美少女……いや美幼女は、静かにそう言った。
「嫌だ……と言ったら?」
ミコトが少し怯えた様子でそう言うと、彼女は静かにこう言った。
「そう……。じゃあ、仕方ない。バイバイ、ミコトちゃん。彼をここまで連れてきてくれてありがとう」
「え? それってどういう……」
その時、彼女は何者かが自分の背後にいることに気づいた。
しかし、もう遅かった。
ミコトはその者によって、心臓を貫かれてしまったのだから……。
吐血するミコト。
その様子を見てニッコリ笑う彼女。
「ありがとう、お兄様。いいえ、オールブレイカー」
「お、お兄……様? それよりどうしてカレンちゃんがその言葉を……」
「黙りなさい、あなたとの友達ごっこはここまでよ。さぁ、お兄様、早くその子の息の根を……」
カレンが最後まで言い終わる前に、彼は涙を流しながら、こう言った。
「俺のことを……そんな風に……呼ぶな……! 俺にこんなことさせて……何が面白いんだよ……!」
「あら、お兄様。もう起きちゃったの? もう少し寝てればよかったのに」
「うるせえ……お前なんかに……体を操られるくらいなら……死んだ方が……マシだ……!」
「お兄様、私はお兄様の細胞から生み出されたもう一人のオールブレイカーであり、お兄様の妹です」
「それが……どうした……。俺と何の関係が……あるっていうんだ?」
「はぁ……いいですか? お兄様はこれからこの世に存在する、全ての生命体を破壊し、私と共に新しい世界を創造しなければなりません。だって、それが『プロジェクト・ワールドブレイク』なのですから」
「それ……何なんだよ……俺は知らない……そんなの……聞いてない……」
彼女は彼の体を操り、跪かせると彼の頬に、そっと触れた。
「大丈夫。私がゆっくり丁寧に教えてあげるから、お兄様は私に全てを委ねて。そうすれば、すぐに楽になれるし、みーんな幸せになれるのだから」
「俺は……心悟と……総太を……連れ戻すために、ここまで来た……。だから、お前の言うことなんか……聞かない……!」
彼女は二人の名前を聞いた途端、不気味な笑みを浮かべた。
「お兄様、残念だけど、もう手遅れよ。だって、お兄様がここに来る前に……私が殺しちゃったもの」
彼はそれを聞いた瞬間、外してはいけないリミッターを無意識のうちに外してしまった。
彼は自我を失う前に、ミコトの体から手を引っこ抜くと、ミコトの傷を破壊……なかったことにした。
その直後、彼は人であることを……捨てた。
「……ワレ……スベテヲ……ハカイスル……モノナリ……。コレヨリ……スベテヲ……ハカイスル」
「あらあら、予定より随分早く『オールマイティーブレイカー』になってしまったわね。でも、まあ、これであの忌々《いまいま》しい女でもお兄様を止めるのは容易ではなくなったわね。ふふふふふふ……あーはっはっはっはっは! あーはっはっはっはっは!」
彼の妹と名乗る『カレン』によって、彼は人であることを捨ててしまった。
これからどうなるのかはまだ分からないが、きっと『あの人』がなんとかしてくれる。
そう、あの人なら、この状況をどうにかできるはずだ。あの人なら……。




