八月十日……その九……
夏休み……八月十日……。
オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』は家族とクラスメイト二人と共に花火大会兼夏祭りにやってきた。
「もうー! 遅いよ! 壊人ー! 今までどこで何してたのー?」
彼がみんなのところにやってきた直後、赤髪ポニーテールと赤い瞳と小柄な体型が特徴的な女子『田中 泉』は小声でそう言った。
もう打ち上げ花火が始まっていたからなのか、単に空気を読んだのかは分からないが、とにかく彼女は小声でそう言った。
「いや、その……ちょ、ちょっと用を足してただけだ」
「えー? 本当にー?」
彼はジト目で顔を近づけてきた彼女から目を逸らした。
「あ、ああ、本当だ。俺は別に何も隠してなんかないぞ」
「ふーん……。あっ、そう。じゃあ、隣に来て」
「え? なんでだ?」
「いいから早く!」
「お、おう……」
彼女は彼の手を無理やり引っ張って、隣に来させた。
「……え、えーっと、その……きれいだな、花火」
「うん、そうだね……」
「……と、ところで田中さんはどうしてそんなに怒ってるんだ?」
「いや、別に怒ってなんかないけど……どうして?」
「あー、その……さっきから俺の手を強く握りしめてるから……かな?」
「え? あー、それね。それはほら、あれだよ。もう逃がさないよっていうサインだよ」
「そうか……。サインか」
「ヤンデレの間違いでしょ……」
「梅雨原さん、余計なこと言わないでよ」
「あら、ごめんなさい。つい……」
黒髪ロングと黒い瞳が特徴的な真顔女子『梅雨原 霞』は、争いの種を蒔きかけたが、即座に謝ったため、最悪の事態には陥らなかった。
「……ねえ、壊人」
「ん? なんだ?」
「さっきの約束覚えてる?」
「え? あー、そういえば『射的』する前にしたような気がするな。えーっと、たしか俺が景品を取れたら……」
「私の大切なものを壊人にあげるってやつだよ」
「うーん、そんな内容だったかな? まあ、いいや。それで? 田中さんは俺に何をくれるんだ?」
田中さんは少しの間、何も言わなかった。
「……おーい、田中さーん。聞こえてますかー?」
彼は彼女がいる方に顔を向けた。
すると、その直後、彼女は彼の両頬に手を当てた。
何か大きな決断をしたような目でじっと彼を見つめる田中さん。
彼は少し驚きを露わにしながらも、その場から動こうとしなかった。
「ね、ねえ、壊人」
「おう、なんだ?」
「そ、その……壊人はどんな女の子なら、お嫁さんにしたい?」
「は?」
顔を真っ赤にしながら、彼に言った言葉がそれだった。
「い、いいから答えて!」
「はぁ……ちなみに俺に拒否権は?」
「そんなものあるわけないじゃない! 壊人のイジワル!!」
「……そうだな。今のは俺が悪かったな。じゃあ、お詫びと言っちゃなんだけど、ちょっと目を閉じてくれないか?」
「え? ちょ、ちょっと待って! まだ心の準備が……!」
彼女は彼から離れようとしたが、彼が彼女をギュッと抱きしめて逃げられないようにしたため、彼女は逃げようにも逃げられなくなってしまった。
「自分からしようとしてたくせに、俺からされるのは嫌なのか?」
「え、えっと、その……べ、別に嫌じゃないけど……」
「けど?」
「か、壊人がいつもより積極的だから、その……ちょっと怖いっていうか……」
彼はその言葉を耳にした瞬間、悲しそうな目をした。
「そうか……。やっぱりそうだよな……。怖いと思うのが普通だよな……」
「かい、と?」
「ごめん。俺、先に帰る。みんなにそう伝えてくれ」
「ちょ、ちょっと待って!」
彼が家に向かって歩き始めた直後、彼女は彼の手を掴んだ。
いや、無意識のうちに掴んでいたという方が妥当だろう……。
「……なんだよ。俺に関わるとロクなことにならないぞ?」
彼女はこのタイミングで彼を家に帰すわけにはいかないと思った。
なぜかは分からないが、彼女の本能がそう告げたのかもしれない。
「……怖くなんか……ないよ」
「……嘘だな」
「違う! さっきのはその……いきなり抱きしめられてビックリしただけ……そう、ビックリしただけなの! だから、最後まで花火観ようよ!」
「……でも、俺は無意識のうちに人を破壊するようになるかもしれないんだぞ?」
「その時は私が……ううん、ここにいるみんなで壊人を止めてみせるよ! だから……」
「俺さ、ついさっきまで俺はこの世にいちゃいけない存在だってこと忘れてたんだよ。田中さんと梅雨原さんに出会ってから今日まで、ずっと……。けど、それは所詮、ほんの僅かの休息にすぎなかったんだよ」
「ねえ、それって、どういうこと? いったい何が言いたいの?」
「俺が生み出された本当の理由……知りたいか?」
「え?」
「野良超能力者たちを一掃するっていうのは、単なる建前だ。俺が生み出された本当の理由は……」
彼が最後まで言い終わる前に、彼女は彼の正面に移動した。
そして、少し背伸びをすると、彼の唇に自分の唇を重ねた。
それと同時に大きな花火が上がったため、二人のやった行為が他のみんなにバレることはなかった。
「……今のはいったいどういうつもりだ? こんなことをしても俺はもう……」
「少し黙れよ、豆腐メンタル……あっ」
「え?」
彼女は、口調を元に戻すと彼にこう言った。
「い、いい? 私は壊人のことが好きなの! いつもする時は壊人を思い浮かべながらやってるくらい好きなの! 壊人の体の中に強大な力が宿ってることも、その力で野良超能力者たちを破壊してきたことも知ってる……。けど、それでも私は、やっぱり壊人のことが好きなの! だから……だから、この世界にいちゃいけないなんて言わないでよ……。そんな悲しいこと……お願いだから、もう言わないでよ……」
彼女の涙を目の当たりにした彼は、彼女をそっと抱きしめた。
そして、ポツリとこう呟いた。
「ごめん……。俺、なんかおかしくなってた。頭、冷やす」
彼女は彼を抱きしめると、微笑みを浮かべながら、こう言った。
「うん……分かってる。だから、もう二度とあんなこと言わないでね?」
「……分かった。肝に銘じておくよ」
「……よろしい」
二人はしばらく抱き合ったまま……いや、抱きしめ合ったまま、その場に立っていた……。




